フリーマンの随想

その20. 日本の銀行について考える (その3)


* 「恥を知る」人が是非いて欲しい世界 *

(8. 25. 1999)


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執念深いとご批判を受けるかもしれないが、私は自分の行為に対する 「 責任感 」 の薄い人、 「 廉恥 」 を重んじない人、「 まじめな弱者 」 を切り捨てて平気な人などが大嫌いだから、 そして、そういう人が 社会の表通りで大きな顔をしているのがどうにも許せないという 「 心の狭さ 」 も あいに く と 持ち合わせているから、 ここに敢えて同題で3回目の筆を執る。

最近、日本興行銀行、第一勧業銀行、富士銀行が経営を統合し、持株会社を作って、 規模と力を強めて再編成するという報道があった。 このことの是非や今後の成否は、 専門家でもない私にはよく分からない。 しかし3行の頭取が記者会見した報道の内容には、正直びっくりし、怒りがこみあげてきた。

その要旨は、
1. 持株会社の会長に彼等のうちの二人が、そして社長には残る一人が就任する。
2. 5年以内に国内で150店舗を削減し、海外の現地採用職員のリストラなども行い、 総計1万人程度を削減する。
3. 統合を機に給与水準の見直しを行い、年間1千億円程度の経費節減を図る。
というものである。

私は店舗や人員を削減することや、 従来他産業に比し業務内容の割に高すぎると言われてきた給与を引き下げることなどに、 異を唱えるつもりはない。 これらは巨大化により強く生き残るための 「 必要な痛み 」 なのであろう。 しかし、そういう大きな痛みを従業員に負って貰おうというのであれば、3人の頭取は、 「 統合が軌道に乗った時点で自分たちは辞める。その間の報酬や退職慰労金も更に減らす。 だから皆さんもつらいだろうが協力して下さい 」 というのでもなければ、おかしいと思う。 少々 「 美談 」 過ぎると言われるかもしれないが、経営のトップに立つ人は、 常にこのくらいの気概とモラルを持って事にあたって欲しいと思うのだ。

それが、こともあろうに、持株会社に二人の会長( と一人の社長 )を作って、 自分たちだけはそこに無事納まり続けようということらしい。 ご当人たちはそうは考えていないらしいが、何とも 「 みっともない 」 筋書きだと、私は思う。 会長と社長が一人づつ居るというのは、良くあるケースだが、私は寡聞にして、 会長が二人いる会社 なんて今まで聞いたことが無い。 1台の車にハンドルを 二つ 付けるようなものだ。 現業を持たない会社に二人も会長が居て一体何をするのだろうか。 そんなにまでして地位と高給にしがみつきたいものなのだろうか。 部下たちにだけ犠牲を強いて、良心の呵責を感じないのだろうか。

私はかつて 「 現在の銀行経営者たちは、むしろ元経営者たちによる乱脈経営の被害者である 」 と弁護したことも有ったが、それは どうも間違いだったらしい。 こういう連中が現在でもトップになれるような企業風土だから、当時と何も変っては いないのだ。 日本の銀行の組織は、あのバブル期以来、 日本経済をこんなにダメにしてしまった経過の中で、 エリート幹部たちの精神までも蝕みつづけてきたのだろうか。

もう何度もこの随想で指摘し問い続けてきたが、 バブルの頃銀行のトップを勤めていた責任者たちが( 潰れた長銀その他数行の元トップを除いては ) 周囲からもその責任を問われず、自らも反省の言動をあらわさず 「 あの頃は皆がバブル熱に浮かされたようなものでしたな 」 などと他人事のように語り (*) ながら、70歳を過ぎても 自社や関係会社の相談役や監査役に 納まっているのである ( 私が永年お世話になった会社にも、この範疇らしき方がいるようだ )。

最近潰れた銀行と、幸い今の所潰れていない銀行との差は、 元トップの手腕や業績の差によるものだ などと考えている国民は ほとんどいないだろう。 当時の経営は、例外も少数は有るだろうが、多くは 似たりよったりの乱脈放漫なものであって、 他行が長銀や拓銀のように潰れずに済んだのは、 ちょっとばかり運が良かっただけの話なのだと私は思う。

このような現実を指して、元広島県知事で元法務大臣の宮沢弘氏は、次のように言っている (*)。

「 刑事責任が問われなければ、そこで責任解除、四海波静かといったものでは全くない。 刑事責任を問われなくても、経営者或いは監督官庁として明らかにすべき社会的責任が当然残る。 私は戦中派なのだが 「 恥を知る 」 のが上等な人間で 「 免れて恥なし 」 は下等と教えられたものである。 聖人君子とまでは言うまい。 せめて出処進退には後ろ指を指されることがないようにしたいものだ 」

( *:岩見 隆夫 毎日新聞11年6月29日 )

(その1)(その2)も御一読いただければ幸甚です。

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