英語についての雑談

ご感想、ご意見、ご質問などがあれば まで。

第一章 通じない日本式英語・和製単語

(11.14. 1998) (2. 7. 1999 追加)

米国に8年近く住んで見ると(考えれば当り前の事とは言え) 英語について自分の知らなかった事があまりに多い事に驚きました。 毎週1回、米人の先生について聴き取り、発音、文法、表現、読書などを勉強する過程で、 また日常の生活や業務の中で、いろいろな新しい知識を得ました。 その中からいくつかをご紹介しましょう。次の4問に全問正解された方には (賞品は進呈出来ませんが)深い敬意を呈します。 (以下、英語とは、標準的な米語のこととお考えください)

A.次の四つの単語の中に、一つだけ英語(の辞書に実在する単語)があります。 それはどれでしょう。英語でない他の三つについては、それぞれ英語では何と言うでしょうか。

1.スキンシップ (skinship:母子の肌のふれあい)
2.バックミラー(back mirror:自動車の運転席から後方を見る鏡)
3.フロントグラス(front glass:同じく運転席の前のガラス窓)
4.ルーペ(loupe:小型拡大鏡)

B.次の「英語らしき単語」は本当の英語では何と言うでしょう

1.ポット(魔法瓶)
2.(調理用の)レンジ
3.(自動車の)ハンドル
4.(タイヤの)パンク
5.ガソリンスタンド
6.インスタント(食品)
7.ホッチキス
8.オルゴール

C.次の英語の単語をどう発音していますか? 深く考えずに素直に口にしてみて下さい。

1.guppy(鑑賞用熱帯魚の一種)
2.career(経歴、職業)
3.image(映像)
4.UFO(未確認飛行物体)

D.ハンバーガーの「マクドナルド」の店名を英語で書いてみてください。

答はこのページの最後にあります。

第二章 FREE の意味

(1.5.1999)

*最近NHKのラジオ放送で、身障者にとって暮しやすい社会環境を作る、barrier-free という考え方について、ある女性が説明しているのを聞きました。 その中で彼女は「バリア」とは具体的にはこういう物だと幾つか例をあげて説明した後 「フリーとは自由なという意味ですから・・・」と言い、その後、何度も 「自由な」や「自由に」という言葉を使って話を続けてゆくうちに次第に趣旨が曖昧になり、 遂に「バリア・フリーにする」というのは 「たとえバリアがあっても身障者が自由に行動出来るように配慮してあげること」 であるという印象を、聴いている人に与えかねない結果となりました。

*もちろん、専門家の彼女がそう考えている筈がなく「社会からバリアを無くす」 のがバリア・フリーの考えの基本だと思うのですが、なぜ違う風に聞こえてしまったかというと、 彼女が「フリー」という単語を「・・・が無い」という意味だと言わず「自由な」 と訳して説明を続けてしまったからでした。

*似たような違うような話が米国の工場に居た時にありました。工場内を全面禁煙にするか、 それとも喫煙許可区域を設けるのかの議論で、米国人が smoking-free という言葉を使うたびに日本人の何人かは「自由に喫煙できる」 という意味だと受け取り、その結果議論は何度か混乱に陥りました。 スモウキング・フリーとは「喫煙行為がない」つまり「禁煙の」という意味なのです。

*この他にも sugar-free(砂糖抜きの)とか、一語化した carefree (屈託のない) など多くの例があるように、語尾に付くフリーは「・・・が無い」「・・・を含まない」 という意味なのです。 誰でも知っているように、free という形容詞が単独では「自由な」という意味であるのは、 自由とは「束縛、干渉、屈従的関係などが存在しない」状態を指すからであろうというのが、 フリーマンを自称する私の説です(下の#に私見を添えました)。

*なお、上記のように二つ(以上)の単語を複合して形容詞的に用いる場合は、 ハイフンでつなぐのがルールです。(例:state-of-the-art technology)
次に、ある米人の友人が私に教えてくれた説明を記します。「sugar-free というような言い方は、 90年代の何でも手早く言おうとする風潮が作った英語の堕落とでも言うべきものです。 本当の言い方は free of sugar とか、not containing sugar です。 所が、この新しい言い方があまりに広まってしまったので、今では米国人の耳には、 本当の言い方の方がおかしく聞こえてしまうような有り様です」
どんどん(乱れながら)変貌して行くのは日本語だけではないのですね。

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#このフリーという言葉の受け取りかたの違いは、欧米人が自由とは「束縛、干渉、 屈従的関係などが存在しない状態」であると考えるのに対し、日本人は 「いろいろなことを思いのままにやっても構わないこと」 と受け取っているからではないでしょうか。 封建時代の圧政、身分制度その他の桎梏を、度重なる革命闘争を通じてはね退け、 撤廃させることに、苦闘の末ようやく成功した人たちが考える自由と、 それらを不完全にしか達成し得なかったのに、 戦後図らずも外から与えられた人たちが考える自由との相違でしょうか。

#私たち日本人は、地域社会の暗黙の掟、 学校や企業のこまごました規則などの強制や干渉を、欧米人ほどには気にせず、 我慢して受け入れて生きて行けるようです。しかし一方、 嫌なら「自由」気ままにそれらを無視してしまうルーズさも持っているように思えてなりません。 規則や干渉を「不当だ、嫌だ」と思うなら、勝手に無視するのではなく、抵抗して「撤廃させる」か、 それらが及ばない所に身を移すかのどちらかだろうと私は思うのです。

第三章 JOKE

(1.20.1999)

米国ではスピーチの最初に、一つか二つジョークを話して、聴衆をドッと笑わせてから、 本題に入ります。 いきなり堅苦しい本題に入る話下手はめったに居ません。 普通のジョークは誰でも知っているので、上手な話し手は頭を絞って毎回新しい創作を披露します。 昨年米国に行った時は ”Viagra joke ” というちょっと品の悪いのが沢山流行ってました。

私は何度も日米の文化の差、価値観の差について米人たちの前で話をさせられましたが、 その時に使ったジョークは次のようなものでした。有名なものらしいのでご存知の方も居るでしょう。 私はストーリーをある日本人から日本語で教えられ、 それを英語に訳してから米人に書き直してもらったので、 名文ではないでしょうが文法的な間違いはないと思います。 「カナダ人はヤンキーが大嫌いだ」 という予備知識( 本当かどうかは知らない)が必要です。

There was a passenger boat sinking. Lifeboats were filled to capacity with women and children. The captain had to ask male passengers to jump into the water and swim. He used different messages for different nationals. To Canadians, he said, " Yanks will stay." To Americans, he said, " You are well-insured." They all jumped. To Germans, he said, "This is the captain's order." To Italians, he said, "Don't jump !" They all jumped. And to Japanese, he whispered, "All other passengers have decided to jump."

「フリーマンの随想」のあちこちに、何度も何度も書きましたが、 日本人がいつも他人と横並びしたがり、他人と揃えた考え、発言、 行動ばかりしているということは、服装のような私生活だけでなく、 ビジネスの世界でも言えます( 最近では我も我もと証券業に手を出す銀行とか・・・)。 大抵の米人インテリはもうそれを知っているので、 このジョークを直ぐに理解し大笑いします。 私だって日本人としてはちょっと自虐的なこんなジョークなど、 本当は使いたくなかったのですが・・・。


第四章 通訳ができるための条件

(5.30.1999)


* 私が在米中、土曜補習学校 (#) の理事長を1年間やったときの体験です。 卒業式に立ちあいましたが、中学校課程を卒業して行く子供たちに 「将来何になりたい?」 と先生が聞くのに対して、「通訳になりたい」 という答えた人が結構多かったのを覚えています。 (#: 土曜補習学校とは、週日は現地校で英語で勉強している日本人の子供たちに、 日本人の先生が土曜日だけ国語や算数を日本語で教える学校のことです)

* 式の途中で日本総領事館の代表の祝辞(日本語)に続いて、地元市長の祝辞(勿論英語) が有り、この時、卒業生の代表が英語の不得意な親たちのために通訳を行ないました。

* そこで、予想もしなかった問題が起きました。当然流暢に通訳できると思われていた彼が、 たびたび立ち往生してしまったのでした。 ひな壇に着席していた私ですらどうにか通訳できると思われた易しい祝辞を、 幼い頃から週日は現地校で米人生徒の中に一人交って学び、 したがって米人と全く同等に上手な英語を操る彼がどうして上手に通訳できなかったのか?

* それは、彼が英語を聞き取れなかったからでもなく、単語の意味が分からなかったからでもなく、 ただ、一部の英単語に対応する適切な日本語の単語、熟語を知らなかった (思い出せなかった) からだったのでした。 「通訳になりたい」 と将来の希望を述べた他の子供たちにも、 これはかなりショックだったと思います。

* 外国語でいわゆる 「日常会話」 ではなく、また講演 (これは一方的な伝達である) でもなく、 「中身のある対談や論争、上手な通訳」 などが出来るために必要な能力は、 次のようなものだと思います。

1)レベルの高い 「中身のある」 ことを理解でき、自らも考えだすことが出来る頭脳
2)両国語で (広い分野の事象について) 適切な単語、術語を瞬間的に選択できる能力
3)両国語で他人の言っている言葉を正確に聞き取れる耳と、意味を正しく把握できる能力
4)両国語で自分の言いたいことを他人に正しく聞き取ってもらえる構文力と発音

* 上記の生徒は、勿論、3)と4)は問題なかったのですが、日本語での2)が不十分だったのです。 これは、彼の年齢と環境からして無理のない話で、彼が今後精進すれば 1)と2) はどんどん改善されて行くに違い有りません。

* 私がなぜこんな話をするかというと、日本にいる日本人の多くが 「幼い頃から外国で育ち、 外国の学校に長期間通った日本人なら、 誰でも必ず素晴らしい通訳や翻訳が出来るはずだ」 と思い込んでいるらしいからです。 冒頭に述べたように、当人たちも彼が失敗するまでは多分そう考えていたのです。 しかし、必ずしもそうではありません。

* それどころか、米国で生まれ米国で育った米国人の若者の一部が、 英語の 「読み書き」 が殆ど出来ないだけでなく、「普通の米人」 との間で 話し言葉ですら、その気で努力しても よく意思疎通できない (!) という、 信じられないような事実が有るのです (主として英語での4)と2)の欠陥)。 それを指導し矯正する専門家や施設が沢山有ります。 「米国に生まれ育った米人なら誰でも一応のレベルの英語を話すはずだ」 と、貴方が考えていらっしゃるなら、それは大きな誤解です。 日本も最近何だかちょっと怪しくなりかかっています。 そうならないようにしなくては・・・。

第五章 米国人の名前の付け方、呼び方

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第六章以降は です。

第一章の解答と説明

A.skinship というのは大変便利な単語で、多くの方が外人との議論の中で口にしますが、 典型的な和製英語です。英語では何と言うかというと「有りません」というのが答でしょうか (別の意味の単語でkinshipというのは、辞書にあります)。togethernessという単語は意味が近いけれど、 肌の触れ合いというニュアンスがありません。
バックミラーとフロントグラスも和製英語です。正しい英語はrearview mirror および windshield (風防の意)です。
ルーペが一番英語らしくないが英語の単語です。ループと発音します。

B.これらはすべて米人には意味が通じません。日本語の単語だと言って良いでしょう。
1.魔法瓶は thermos または thermos bottle と言います。
2.米国ではstoveと言います。cookstove と言えばさらに分かりやすいかも知れません。 ストーヴというと、日本人は冬の暖房機具と思うでしょうが・・・。
3.前問でも見たように、なぜか代表的な自動車の部品の3分の1くらいは和製英語です。 ハンドルはsteering wheelと言います。
4.英語の puncture の一部をとってパンクという言葉が出来たのでしょうが、 puncture という単語はめったに耳にしません。I have a flat tire. とか、My tire went flat. とか言います。
5.gas station が正しい英語です。stand とは道端で果物などを売っている仮設の小屋のような、 動かせるものを言います。ガソリンスタンドのような動かせない売り場は station です。
6.convenience food, fast food または precooked food などの中から適切なものを選びます。 コーヒーの場合だけは instant coffee と言い、これをインスタントラーメン(precooked Chinese noodle)などに日本人が転用してしまったのかと想像します。
7.と8.はそれぞれ、stapler,music box と言います。

C.(太字はアクセントのある位置)
1.グッピーとはいかにも日本人らしい読み方が一般化したものです。 英語として自然に読めばッピ(ピは短く、happy の場合のように、だいぶペに近い)です。
2.キャリアウーマンなどという言葉が普遍的になってしまったので、 ほとんど誰もがキャアと発音しますが、実はカアです。 キャリアと発音すると使者、保菌者などという別の単語(carrier)です。
3.メージまたはメイジと延ばして発音する日本人が多いようですが、 実は短くミジとメジの中間くらいです。message (ッセジ)、 storage (ストーリジ)、package (パッケジ) など日常良く使う語も同様です。  同じようなことですが、chocolate は、最初にアクセントを置いて 「 着火率 」 と言えば通じると、ある先生が教えていました。
4.ピンクレディのせいでもないでしょうが、ほとんどの日本人が「ユーフォ」と言います。 「ユー・エフ・オウ」と発音しないと分かってくれません。ISO(アイ・エス・オウ) のことを外人に向っても「イソ」と言う人が少なくないのと同様です。

D.McDonald とお書きになった方が多いと思いますが、質問は店名を訊ねています。 正解は McDonald's です。今度街で見かけたとき、ご確認ください。英語力というより、 注意力のテストだったかも知れません。 's は、(だれだれ) のという名詞の所有格語尾と教えられましたが、 郵便受に書けば(だれだれ)一家 というような意味ですし、店の名前なら(なになに) 屋 というような意味です。つまり、あれは「マクドナルド屋」なのです。 Do だけがやけに大きく聞こえて、その前と後は子音も母音も至極あいまいになりますが、 無理してカナで書けば、マクナルヅでしょうか。

お口直しに最後に英語の俳句を一つご紹介します。

Free care cowards to become Ms. Naught.

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