 青春１３階段 |
「その時、Ｙ氏は・・・」（その１２）
私と、Ｙ氏の付き合いは長いものです。よく有楽町のＫ喫茶店や、ガード下のヤキトリ屋
さんで彼の子供のころの話を聞かされたものでした。
最近は特に過ぎ去った思い出をたどっているようです。「今や将来に思いはないのか。」と
聞くと「それにも格別な思いがある。」とのことですが、将来の話になると若干肩が落ちる
のが気掛かりであります。・・・・
そんな、彼の思い出話の中で印象に残ったところを照会していきます。
「暇な人は気休めに読んで下さい。・・・・・」
Ｙさん、前回は初恋談義を聞かせてもらったが、同性の友人との素晴らしい思い出はない
ですか、と聞くと。今晩は「ブラスバンド」の話をしよう思っていたのに・・・と不満そう
でありましたが、結局は最近中学の同窓会をやったときの話となりましたので、Ｙ氏の友情
談義をまとめてみました。
なお、Ｙ氏はハム、ブラスバンド、化学、哲学、文学、絵画、宇宙論、恋愛論などなどの
ジャンルによって友人が各々異なっていたようで、これらをトータルした（即ちＹ氏の全人
格を理解し合う）友人はいなかったようです。また、会社の入社以来の同僚がリストラなど
で職場をいきなり去っていったことはショックであるとも言っていました。
では始めます。・・・・
「４〜５年前に中学の同窓会をやったが、３０年ぶりで懐かしかったな。女性達はみんな
すっかり奥さま業がいたについているようだったし、男たちはそれぞれの職業がしみついた
顔をしていた。担任の先生を中心に学生時代の思い出ばなしで話が弾んだな。・・・
そのなかに俺の親友の姿があった。彼はクラスでも学年でも１〜３番と大変優秀であり弁
も達者でみんなの人気者であった。彼とはクラスも同じことと、クラブがブラスバンドで同
じであったので特に親しくしていた。彼はトランペット俺はドラムスとチューバであり３年
間おなじ釜の飯を食った仲間でもある。
３年生になってからは、高校受験の勉強にお互い競い合った。そして、Ｔ工業へ一緒に行
こうという約束までするに至った。Ｎ町から近いところにＳ工業があり、俺はこれにしよう
かどうかと考えていたが、内心は「電気通信科」のあるＴ工業へ行きたいと思っていた。し
かし、Ｔ工業はＮ町から約１時間半もの電車通勤を必要とし、往復３時間の通学にいささか
自信がなかったのである。が、彼がＴ工業へ行くと決めたことで、優柔不断であった俺も自
信が湧きＴ工業へ希望した。しかし、彼はいざ受験する段になって進学校であるＳ高校へ変
更してしまったのである。（このことは、彼が今回の同窓会まで約３０年間の俺に対するわ
だかまりになってしまったようである。）この急な変更に対して「自分の今の選択は将来に
対してベストなのか。」との心配が心の中を過ったが、Ｇ県には「電気通信科」があるのは
Ｔ校しかないし、好きな「電気通信」が学べるのだからとＴ校に行くことにした。
そして彼は進学校からＸ大学へ進んだ。順調であれば中学か高校の教諭であり、今頃は校
長にもなれた逸材であったが、高校時代からその当時の学生運動に突き進み、その道からは
外れた人生を送っている。（その結果に対して彼は満足はしているだろうと俺は思うが。）
俺は彼との別れ以降、「電気通信」の畑を走り続け今の状況に至っている。
そのような、二人が約３０年ぶりの同窓会で再会したのだ。そして彼は「あのとき急に進
学校に変更したことを俺に詫びた。」のだ。また、「こころにずーと引っ掛かっていたとの
こと」も付け加えた。俺の脳裏にしまわれていたものが甦った。３０年前に既に自分なりに
整理していたことを彼は真剣に詫びてたのだ。俺は「何も気にしていなかった。」と味気な
く答えた。今ではこの回答で「彼の気持ちを清算させることができたろうか。」とやや反省
している。もう少し自分自信で決めた針路が正しかったことを説明して「気にするなよ」と
話すべきでであったと思っている。
自分でも友達や同僚、先輩に対し失敗したな〜と思うことは多々あるな。相手が親しけれ
ば親しいほど「こうやれば」ということが、これが後々まで悔恨の念が尾を引くことになる
んだよ。彼のような「こころのある」友人に少年時代めぐり会い、同じ釜の飯を食ったこと
は幸せであったといえるのではないだろうか。・・・・・・・」
と、Ｙ氏は友情について話してくれました。ひととひとは毎日言葉などで会話し理解しあ
っていると思い込んでいますが、なかなか言葉だけでは理解しお互いが尊重し合う状況には
ないような気がします。Ｙ氏の話は３０年もの時空をこえて理解し合ったものであり、ひと
の素晴らしさや苦悩の深さを実感させられました。・・・・
（次回へつづく）
ＤＥ ７Ｌ３・・・（浦和市）
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