デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん ちゃちゃちゃちゃー♪


1972年11月11日放送
#18「銀色の魔矢子」
演出・佐々木正弘 脚本・辻 真先 作画監督・小松原一男 美術監督・秦 秀信

明「俺の方が悪者みたいじゃねーかよ!」

テレビが伝える怪事件。アマゾンの奥地でワニが大量死していた。 ショックによるものだという。ワニはデーモン族に出会ったのだ。 原初の爬虫類にすら恐怖を植え付けるヤツラは、着々と世界の各地に 人知れず侵攻している。

デーモンの影に陰々滅々としている明をミキが出かけないかと誘う。 クラスメートのチャコの家である喫茶店に、超美人のアルバイトが入って 評判なのだ。ソレを見物に行こう、と。

そのアルバイト・魔矢子は美しかった。明は見るなり、夢幻の世界へ 誘われる。体の中から湧き上がるセクシャルなイメージに身を任せる 刹那、ミキの呼び声で我に返る明。注文も忘れて見入ってしまう彼女の 魅力は明に限らず、他の男たちも魅了していた。他の席でも東大寺と チャコ、タレとミヨが同じ理由でケンカを始めたのだ。ポーカーフェイスを 気取る明だが、実はミキに見えないテーブルの下では、意思を保つために 力をこめていた。「魅力どころか魔力だぜ」

その夜。チャコは奇妙な音で目を覚ます。住み込んでいる魔矢子の 部屋からだ。障子に映った彼女の影は不定形となり、やがて人ならぬものに 変わる。そして、障子をあけたチャコは魔矢子が出す粘液に巻かれ、 いずこへか連れ去られてしまう…。

一方、ベッドの中で明のデビルイヤーが殺気を捕らえた。子供たちが 殺しあっている!明が空き地にたどり着くと、クラスで評判のガリ勉 二人がバットとスケート靴で互いに傷つけ合っていたのだ。「やめろ!」 明は止めたが、二人は激しく傷つきもはや立ち上がれなかった。と、 そこには粘液の道がどこまでも続いていた。その先には、チャコの店が。

翌日チャコは行方不明だと魔矢子はいう。しかしチャコのボーイフレンド であるはずの東大寺は、それを気にしていない風情だ。

祭の夜。ミキとデートしながら明は魔矢子の姿を追っていた。 東大寺とタレちゃんを巧みに誘惑しながら、二人を殺し合わせようと いうのだ。森の奥で歓喜に奮えながら笑い、真の姿を見せる魔矢子… ナメクジ妖獣・メグ。

先のガリ勉二人と同じように殺し合いを始める東大寺とタレちゃん。 さらにはチャコにそのサマを見せようと、サディスティックに笑う、メグ。 そこへ明が現れる。「人間に同士討ちさせようとはおもしろい趣向だぜ!」 明をその魔力で虜にしようとするメグだが、明はポケットに隠したメグの 弱点・カエルで逃れ、変身。メグの粘液攻撃に翻弄されつつも、 メグの腹部にある魔矢子の顔を貫き、殺す。

翌日。妖獣メグを知らない東大寺が、タレちゃんが、魔矢子への 消せない想いに浸っている。いや、明だって彼女の美にまだ囚われている …それをかき消すように拳を振るう明。「これじゃ、メグを殺した俺の方が 悪者みたいじゃねーかよ!」

子供番組じゃねーよ、コレ!

凄まじい美人なのである。『デビルマン』では美しい女にトゲがある 話も好んで使われるが、この回も象徴的。魔矢子を見つめる明の目線は、足元から ゆっくりとふくらはぎを見つめ、ヒップから腰のくびれ、胸、肩から上る… そこへふり返る魔矢子…もうハープなんか鳴っちゃって、ぼかしのかかった 画面は欲望直撃、あらゆる理性を消し飛ばし、セックスの快楽へ一直線。 めくるめく妄想オナニー状態へ連れて行かれる。

…まあ流石にそこはテレビの倫理、「ははははは」と笑いながら 上半身ハダカで駆けながら、ネグリジェ姿の魔矢子を追う…てな妄想だが、 描いたオープロ作画陣は正しく一糸まとわぬ姿のつもりだったろう。 意味アリゲな左に立つ木も、太い幹に枝から伸びた植え込み二本。 コリャもう誰が何言おうと、アレのカタチだ。

そこへ輝く妖獣メグの粘液が一筋。コレがサブタイトルの「銀色」 なワケで、とてつもなくエロチックな銀色。麻薬的な(「マヤコ」の名前は 麻薬からか?)その欲望解放攻撃を良くぞ絵にまとめたものだと、 佐々木監督・小松原作画監督・オープロに最敬礼すべし。

小松原さんは『タイガーマスク』やっていたから参加していないが、 この回担当のオープロ陣、佐々木監督や原画の丹内司さんといえば、 前年は東京ムービーで『ルパン三世』『天才バカボン』にも関わっていた スタッフ。それでこのエロイメージや殺しあうガリ勉たちが、ナニゲに ムービーっぽい理由も分かるんだけど。

しかしそこは小松原さん、手堅くギリギリエロになる手前の線で上品に まとめているから、それを嗅ぎ取れるかどうか視聴者の<アニメ眼> を問われる作品とも言えますな。既に随分オープニングとは絵柄 変わってますが(笑)

作画の小技かコンテの仕掛けか、この回の絵作りは割合手が混んでいる。 目立つところじゃ、ケンカしてるタレちゃんとミヨちゃんのシーン。 激しく怒られるタレちゃんのグラスに、ちらりと映る魔矢子の姿。 ソレをまた丁寧に追うタレちゃんの目。で、その前段に怒ったチャコ にコーヒーぶっ掛けられる東大寺があるんで、ソレを受けてタレちゃん、 その魔矢子の映ったグラスのジュースを自ら頭にぶっ掛ける。小道具で 巧くまとめたワンシーンですね。

そのあたり、最初に魔矢子から攻撃を受けた明の妄想で、この回の 全ての要素が含まれているという、隠し絵的な仕掛けも面白い。 書き出して見ると、

 ■真っ暗な画面に銀色の木が映る。
 ■そこからネグリジェ姿の魔矢子現る
 ■ハダカで追う明
 ■ふり返る魔矢子、くわえていた花を明へ
 ■明の手の中で花がナメクジに…
 ■明それを握り締め、開くとカエルが現れる
 ■逃げる魔矢子、そのあとに銀色の道が…

ネタバレもネタバレだけど、見てみないとその仕掛けに、ははあなるほど …とは行かない辺り、面白い設計だ。

三すくみ。

カエルをメグが嫌うというのは、いわゆる「三すくみ」 ってヤツで、中国は唐代に周時代の書と偽って出された、道教の書『関尹子』 にある寓話が元になっている。いわくヘビはカエル、カエルはナメクジ、 ナメクジはヘビに強い…従って三者揃うと互いに相見つめあい、動けなくなる ってな話から。中国にはかつてこれを使ったジャンケンがあったとかで、 親指がヘビ、人差し指がカエル、小指がナメクジだったり、指の数で それらを表したりとバリエーションはあるが、古いお話なんすね。 (原典ではナメクジではなくムカデで、日本に入った折に間違った なんて話もあるが、別の話。)

割にこの頃まではこういう慣用句的な物語って、オトナの世界に ちゃんと息づいていて、この三すくみにしたって、アニメの エロ話の中にキチンと織り込んで見せてしまえたのだ。オトナが嫌味なく 子供に伝えているっていうカンジで、辻真先の巧さが分かりますな。 でも、ヘビはドコにいったんだ?

明とミキ。

物語冒頭のミキがいい。この辺この『デビルマン』が実にブレのない 作品であることの象徴とも言えるんだけど、デーモン族が地球の裏側で 暗躍してるのを知った明を見て、ミキが「退屈そうね」と声掛ける。 しかし実際は、この前のシーンでニュースを見る明は相当険しい様子 だったはず。断りなくチャンネルを変えた牧村パパが、「見てたのか」 と遠慮するくらいだから、退屈に見えるはずもないのだ。

とすると、このミキの「退屈そうね」という呼びかけは、明を 外に連れ出すための言葉なのだ。どういう理由でかはミキに分かるはずも ないのだけど、とにかく明を気遣いつつ気晴らしをさせようとする、 内面に踏み込まず寄り添う、ミキの健気さが良く出ている。

それをまた巧く絵で表現していて、テレビを見る牧村家では 比較的単調な動きでミキも表現されているが、外に出ると、 表情が多彩になる。明は多分外に出ても、まだデーモンのコトを 引っ張っているのだが、ミキの気持ちも分かっている。 喫茶店の美人ウェイトレス魔矢子のコトを喋るミキへ、 「ミキ以上の美人がいるわけねーもんな」なんてもうミキが大喜び しちゃうセリフまでサービス。ラヴラヴやねえ。

で、それ受けたミキが「キシシシシ」と破顔一笑する顔、歩道脇の ショーウィンドウで髪整え、とっとと先を行く明の後を大股で走りつつ追っかけ、 明の前でポーズとってみせる一連の動きは『デビルマン』中でも 演技賞モノ。坂井すみ江さんの演技がまたその作画に充分応えていて、 ミキに血肉を感じさせてくれる。で、魔矢子の非人間的な美と対照させるのだなあ。

不条理。

それにしてもこの回、魔矢子の美と惑わされる男のサガが要なだけに、 メグはデーモンとしてそう強い方でもない。粘液の設定は実に細かく、 口から吐く方は、相手を縛り付け放さない粘着液。下半身から出る粘液は、 それに触れると理性を失い、目の前の人間を敵とみなす魔力を奮う。 深読みすれば、魔性の女は口から甘い言葉を吐きつつ、下半身で夢中にさせる、 みたいな相当エロチックな記号とも取れちゃうんだけど(笑)

ま、そこまで行かないにしろ、理性あるデビルマンは人間を救う ために戦う。魔性の女に翻弄されつつも。面白いのが、この回では デビルマンは必殺技を放たない事だ。前にも7話で アビルとズールを倒す時に拳だけで倒してしまったが、今回は その時のように、圧倒的に自分より弱いデーモンを怒りに任せて 殴り殺す…というものではない。多分メグもデビルマンより弱い のは間違いないが、粘液に絡めとられて翻弄されつつ、そばに落ちていた 木の幹をメグの腹=魔矢子の顔に突き刺してトドメを刺す。

コレ、恐らくは魔矢子を初めて目にした明の視線と正しく対応させてる 構成だ。美しき魔矢子の肢体は見る影もないメグのナメクジのような つかみ所のないフォルム。しかしその腹部には魔矢子の顔だけが残されている。 明=デビルマンは恐らくメグの魔力から完全に自由ではない。 が、勇者としての誇りという彼の理性は、負けを認めない。 よって、魔力の元である魔矢子の顔を残酷に潰すコトでしか 倒せないのだ。そうしてデビルマンは、勝ったのか?

ラストシーンでは東大寺もタレちゃんも魔矢子に恋したまま。 物語的には、最初に提示された「妖しい魔性に狂う」という恐怖は 実は解決されていない。明もその面影がアタマにこびりついて離れない。 「コレじゃ俺の方が悪者みたいじゃねーかよ!」…と、誰に向かうでもなく 部屋で一人、毒を吐きながらも振り払いきれず、虚空を見つめる。別にミキから 心変わりしたワケじゃないが、魔性の女の甘美な体験は残されてしまった。

実はデビルマンは、負けてしまったのだ。


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