デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん じゃじゃじゃじゃーん♪


1972年8月26日放送
#7「恐怖の人形使い ズール」
演出・鈴木 実(茂野一清) 脚本・辻 真先 作画監督・小松原一男 美術監督・土田 勇

ミキ「オヌシ、頼りにならないぞっ!」

ヒマラヤの氷に覆われた洞穴で一人、粘土をこね人形を作っている妖獣ズール。 ゼノンは彼に次の指令を出した。「人間どもに生と死の境に立つ恐怖を思い知らせるのだ!」 ズールの人形は、同じ顔をした者に手を触れずして影響を与えることができるのだ。

ズールの魔力で旅客機が墜落。何も知らない明とミキはバレーボールの試合観戦。 その試合終了後、サインを貰うミキの前で人気選手が真っ二つにちぎれてしまった! 駆けつけた明はこの不可解な事件に慄然とする。

真っ二つにちぎれた選手の人形を持ってへらへらと笑うズール。そこへボディーガード の妖獣アビル。まだるっこしい、何故一気にやらない?と問うアビルにズールは 「趣味だから丁寧に念を入れてるのだ」とどこ吹く風。ミキの人形を作れ、とアビルは 言うが、あてずっぽうには作れないから見本をよこせ、とズール。

名門学園の美術室では、氷村がミキのスケッチを描いていた。二人に嫉妬して 明は不機嫌に。出来のいい似顔絵に上機嫌なミキは氷村と出て行く。が、直後 アビルが現れ、二人を襲う。明はデビルマンに変身、アビルを追い払う。 だがデビルマンは、ミキのスケッチを持ち去られたことに気付かない。

スケッチのミキに見とれながら、上機嫌でズールは人形を作り上げる。その出来 栄えにうっとりとしているズールにアビルは、デビルマンとの戦いの切り札に使うのだから 手を触れるな、と命令。ズールは不満に思いつつも従う。

アビルは何故スケッチを持ち去ったのか…思い悩む明の耳にラジオのニュースが 飛び込む。「カーレーサーが、巨大な手で押し潰された人形のように…」明は ズールの魔力に気付き、ヒマラヤへ向かう。

デビルマン来襲に気付いたズールは、これでミキ人形で遊べる、と大喜び。 だが、置き場所を忘れてしまった!アビルは、戦いに挑む が、圧倒的され、ズールに人形を出せと悲痛に叫ぶ。人形は見つからないまま、デビルマンに 倒された。怒るデビルマンの前にズールも殴られた挙句、クレバスへ ほおり投げられ、消えていく。

ズールの洞穴を封印したデビルマン。無事ミキは守られ、今日も元気な声を上げていた。

今回は『デビルマン』放送以来、初めて視聴率が2ケタ(10.0%)に乗った回。 しかしそんな記念すべき回が「鈴木 実」の最初の演出だというのも中々に皮肉 な話ではある。詳しくは『デビルマン解体新書』を見れば分かるが、乱暴に言うと、 東映動画で労働運動が起こり、一貫した演出家が関われなかったり、名前を出せない 事情があったり、キチンとした製作体制のもとで作られなかった回が 「鈴木 実」という共同ペンネームに現れているのだ。(労働運動が何か、てーのは ココの主旨じゃないので、書かない)

で、スケジュールが厳しかったため、冒頭1分半に渡って、前回のロクフェル戦の再編集が 入る。ロクフェルの声ははせさん治氏ではなく、永井一郎氏が担当しているため、 この回のアフレコで音も録られたようだ。

さて、だから出来が悪いのか、というとそんなことない。

今回一番の見所は永井一郎氏演じるズールの魅力。どこまでがアドリブなんだか、 暢気な調子だけに何考えているのか分からない大阪弁が、絶妙に効いている。邪悪な 『さるとびエッちゃん』のブクだね。

ズールの形自体も、ボロ布をバッサリ被ったみたいな異様なフォルムで、「形がある んだかないんだか」と小松原氏もお好きだったようで、動きの作り方が面白い。 感情が如実にフォルムそのものに現れるように描かれている。こういうデザインが 一番難しいが楽しいんだろうな、と見てるこっちにも伝わってくる感じだ。

また、各カットの絵作りもパースを多用した奥行き感が強調されていて、小松原 さんらしいカンジ。氷村が明を指差すところで手のパースとミキがかみ合ってないとか、 机に向かっていた明がズールに気付いて「そうだ!」と立ち上がる一連の動きは カメラを付けてのパン・ナップでいい動きだが、歯の色が塗り間違ってるとか、 そういうことは気にするな。

ズールの魅力を順を追って見てみるとするかね。

最初に疑問。ズールは、お手製フィギュアと繋がった相手が、どうなってしまうのか、 見ることができるのか?サブタイトル明け、へらへら笑いながら人形作ってるとゼノンの 声が。で、振り返った時に自分の裾引っ掛けて、一つ人形を壊してしまう。で、どこかの 海でボート乗ってた人が、ひっくり返って炎上。

ズール「あーあ、惜しいことした。はーあ、気の毒に。」

人形が「惜しいこと」したと嘆く一方、他人事のように「気の毒に」。どうも結果として ひどい目に会ってることは分かるみたいだ。後でアルフォンヌの人形いじくって遊んでる から、見えてるのか。ズールが楽しいのは、

ズール「とにかくおもしろいんや、こないして人形コネてるんが。
               …もっとおもしろいんは、でけた人形いじめるこっちゃ」

ま、作る楽しみより壊す楽しみを味わうタイプだが、非常に閉じた感性だなあ、こいつ。 せっかく作ったフィギュアを飾りもせず壊しまくるてのが、キチガイじみている。 前回のロクフェルも、裏付けがない自信だけをタテに生きてるような壊れたタイプだったが、 今回のズールはもっとひどくて、クリエイティブな感性を自分で破壊する、という倒錯したタイプだ。 このサイコ的な怖さって、「お子様向き」に発想して出てくるもんじゃないよなあ。

しかし一方で、当の子供ってヤツはそういうものかも、と思う。粘土コネてるガキに大人が、 何作ってるんだか分からないながらも、その塊見て「うまいわねー」などと誉めるとしよう。 そういう時、当のガキの方はもう飽きちゃってて、ぐしゃっと潰したりする。

その辺の描写で白眉なのが、ミキがバレーボールの選手にサイン貰う一連。

・笑顔でサインする選手の手元アップ、曲線を引いたところで止まる
・選手が走らせるメモナメ、ミキ。選手の手が震える。ミキ怪訝に見上げる
・正面バストショット、眉間辺りから血を流す選手。目は中空を見つめ、驚愕の表情はこわばっている
・ミキのバストショット。目の前で起こっていることを一瞬追った後、その事実に気付き、大声を出してのけぞる
・気絶し倒れるミキ、奥から明走ってくる。ミキの前に倒れている選手に気付く
・画面右端から真ん中へ向かって倒れている、選手の一方の足〜パンして〜画面左端から伸びるもう片方の足
・明「ちぎれてしまった!」

この段階では画面の両方から不自然に伸びた選手の両足しか見せず、続くヒマラヤのシーンで ズールがへらへら笑いながら、両手でぶらぶらと下げている選手の人形が真っ二つになっている、 というカタチで結果を見せている。ズール自身は直接手を下しているわけではないので、 無邪気なもんだが、この一連のカットつなぎで、視聴者は惨状を想像できる怖さだ。

このズールから感じられるのは、コミュニケーション出来ないカンジというか、絶対にこちらが考え てるとおりには行かない、無邪気ゆえに残酷な子供の感性。加えて、相手が話している内に何かが噛み合わ なくなりそうな、少しずれた感性にこちらが気付いた途端に感じる言いようのない怖さである。

その辺りの「ずれ」を際立たせるためにいるのが、ある意味被害者の妖獣アビル。 筋肉質で、背中の翼から炎飛び散らせながら空飛ぶ妖獣。火山弾のような炎の塊を 飛ばす派手なヤツだ。いかにも単純で喧嘩っ早そう。声は野田圭一で精悍だしな。 人形一体手にとっては、地味に壊す、そんな単純作業をしているズールのもとに現れ、 焚き付けるのだが、ズールとは会話にならない。

アビル「まだるっこしいぞ、ズール!」
ズール「ワテの趣味やさかい。丁寧に一個ずつ念を入れて…」

ゼノンは、人形造っては壊し…という作業すればいい、と言ってるわけで、確かに ズールの言いっぷりに問題はない。だがまあ、デーモンでなくともイライラするだろう。 このペースの違う二人のコンビだから、今回の話は面白い。

でも、そんなズールがイライラすることはあるのか?…CM明けにあった。ミキちゃん人形 を作っている最中に煮詰まったズール。

ズール「刺激がなくてイライラするワ。えーい、もう!」

手元にあった岩をいきなりどこへともなく投げつける。たまたまあった人形に当たると、 どこかで行われているレースへ隕石が乱入。レーサーがぺしゃんこになり、あおりを食った 他のクルマをも巻き込み大クラッシュに。これがなければ、恐らくデビルマンに気付かれる 事もなかったろうに。(この事件を報じる新聞をタレちゃんが教えてもシカトした明だが、 ラジオで繰り返し報じられたことで、思い当たるのだ)

レーサーの尊い犠牲もあって、うまく出来たミキ人形。それはそれはもう上機嫌でズールは壊そうとする。 ちょっと肩に力を入れると…ミキの肩が重くなる。もうズールゴキゲン!…そこへ

「やめろズール!その手を離すんだ!」

現れたるは、デビ…じゃなくてアビル。ミキ人形をデビルマン戦の切り札にするというのだ。

アビル「デビルマンの泣きっ面が楽しみで、お前のボディーガードをかって出たようなものさ」

せ、せこっ。ま、デビルマンは勇者なワケで、そうそう毎回出てくるデーモンが 互角に戦える相手ってわけじゃないからな。色々と策を練るのもデーモン族としては楽しいんだろうし。 ズールはぽかんとした顔で高笑いして去るアビルを見送る。この顔が妙にかわいかったり。

ズール「何や、デビルマン退治の道具かいな。ホンマ残酷なやっちゃ」

テメエ以上に残酷なヤツがいるかいっ!と突っ込みたくなるこの独り言。 殺しに直接手を触れるわけでもなく、犠牲者を喰うとか何とか考えてないこのズールという ヤツは、つくづくテメエでオナニーするために生きてるような感じだね。 事実この直後こう言ってる。

ズール「欲求不満になりそうやなあ…この人形で遊んでコマしたろか」

と手にとったるは、哀れアルフォンヌ先生の人形。こちょこちょ、なんていじりだす。

アルフォンヌ「フカカイなノダ!フカカイなノダ!フカカイだけどクチュグッタァアアアアイ、ノダ!」

と悶絶。ココ、ズールとアルフォンヌの両方とも声は同じ。「夢の永井一郎・一人対決!」が楽しめる。 まあ、豪華♪余談だがこの話、アルフォンヌ先生は身に覚えのないことで責められまくり。 明が部屋に閉じこもって出てこないので怒るミキが、「そーよ!アルフォンヌ先生がいけないんだわっ!」 と八つ当たりされるわ、つくづく可哀そうな人である。

で、ズールの存在に気付いたデビルマンがヒマラヤに攻めて行く。

今回ズールが何しろ動かないボンクラ野郎なので、周りが色々と動く動く。 おたく野郎の犯罪がドラマネタになりにくいのは、大体がおたくは引きこもってるし、 直接対象に触れるようなことが少ないので、動きのあるプロットを作るのが難しい からなんだが、アビルとアルフォンヌでうまいこと見せてますよねー。

デビルマン来襲に気付いたズールは「来やはったか?」と見上げる。その弾みで アルフォンヌ人形をポイ。安アパートの窓から掘り出されるアル公いとあわれ。

ズール「デビルマン大歓迎や!お陰であのカワイコちゃんの首、ギッチョンコできるぅ」

と、戦いの現場には行かず、ミキ人形探し。ところが見つからない。自分がひしゃげるくらい ボコボコ頭殴りながら、「度忘れがひどなったなー」なんて言いながら、うろうろしてる。 のたのたと裾を引きずり、あっちに伸びこっちに伸び、つー具合だが。 この辺りのズールの描写は動きのうまさだなあ。 …というわけで、駆けつけたデビルマンと対峙するはアビル。

威勢良く飛び上がり、得意の炎の弾を次々とデビルマンに叩きつけるが、 デビルウィングをタテにして防ぐデビルマン。(えん魔くんの妖能力マントみたい) ちょっと頑張りすぎたか、アビルの息が上がった途端にデビルマンの逆襲が始まる。

アビル「(あわてて)今だ!ズール!早く人形を!人形を!」

ズールまだ探している。その間もデビルマンの攻撃は続く。一旦雲間に隠れるも、 すぐ次の攻撃。画面に写っているだけでも、

・デビルチョップ6発
・デビルパンチ2発
・デビル頭突き1発

写ってないところではもっとボコボコだったろう。アビル弱すぎ…。いや、今回 デビルマンはアローもビームも、カッターすら使わない。もう単にミキ狙ったヤツラへの 怒りをぶちまけるのみで、戦略もクソもない。ひたすらに、ただ「人形を」と 声を絞るアビルだが。

ズール「へい、只今…て言いたいところやけど…あー、もう間に合わん」

と、暢気に見上げるズール。むしろヤツにとってはミキ人形が見つからない方が 一大事。

ま、その最中、ミキ人形に気付かず一旦ズールが踏みつけて、ベッドで寝ている ミキが苦悶する。「明くん明くん、早く来て!」と叫ぶカットバック。 流石の地獄耳「デビルイヤー」にも聞こえてはいないだろうが、画面構成的には デビルマンに勢いづけ。とどめのデビルチョップを眉間に受け、哀れアビルは急降下して 爆発。

で、ようやくミキ人形発見。

ズール「あっ!イヤァ、ありがたい。お嬢ちゃんいたはった!
    切り札や!エースや!お守りや!神さんや!おおきにぃいい!」

と、ミキ人形にズルルと伸びるズールの手。「アレ?」というズールの手が 逆にズルズルとはなれる。ズールが恐る恐る振り返ると…ズールの形のない足を 掴んだデビルマン!この辺の絵作り、うまいよなー。

デビルマン「ズール、もう十分楽しんだろ。次はこっちが楽しむ番だ」

間抜けな横打ちの絵で、みっともなくデビルマンに引っ張られるズール。

ズール「あぁー、やめてんか、デビルマンはん、激しい人やなぁ!」

デビルマンに抱えられ、何も抵抗できないズール。人形の製作と破壊以外に、 もう運動神経とか闘争本能とかそういうものを、生身で何も発揮できない究極の インドア派なんですな。でも、もちろんデビルマン容赦はなくて、

ズール「何でワテみたいな、心のやさしいバケモンいじめンねや…助けて!助けて!」

ただ口で罵るだけのズールを、ボコン、ボコン、とタコ殴り。トドメに

デビルマン「地獄に…じゃねー、天国へ落ちろ!」
ズール「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…」

真っ暗な口を開いたクレバスの底へと落ちていくズール。デビルマン溜息。 実際ミキがいなけりゃ、こんな小物デーモン相手にしてねーんだろうな、てところ。

ズールのキャラの強さとともに今回目立つのは、
ミキのいい根性というか、明に 甘えてるカンジのうまい表現。

モデルがないとあてずっぽうにはミキ人形が作れない、というズールのために アビルが取った手段は、氷村に似顔絵を描かせて手に入れること。そうとも知らず、 美術室でモデルになって、ミキ大喜び。明が嫉妬して飛び込んできたところへ、 氷村は「お前のよーな野蛮人には分からん!これは『芸術(妙なスカしたイントネーション)』だ」 などと挑発。「芸術的気分」にうまくおだてられたミキはもうメロメロになっちゃって、 氷村と手を組んで出て行くんだが、これは「芸術」を理解しない明への当てつけ。

ここで「やっぱしモデルがいいといい絵になるよな!」とか言ってあげればいいものを、 それが言えないヒトなんですね、デビルマンというヤツは。で、地団太踏んでもう大暴れ。 破壊したのは胸像3つに絵画1枚+未遂1枚。この辺のカッカした動きはコミカルでおかしい。 小松原さんか?それとも丹内 司(『天空の城ラピュタ』『キテレツ大百科』作画監督)さん?

直後、アビルが炎を吹いて氷村とミキを襲う。駆けつけた明が撃退して、ミキを抱き上げる。 気付いたミキは「明クン」なんつってひし、とすがるんだな。明も「やっぱり俺がついてなきゃな」 といい気分。でも女心は困ったモノで、

ミキ「あら、アタシの絵はどこかしら」
氷村「あの化け物に吹っ飛ばされたかな」
ミキ「あんなケッサクを惜しいわ…明クン、ボヤボヤしないで探してよ!」
明 「俺が…?」

哀れデビルマン。「芸術」を理解してればねえ。氷村の勝ち。作戦的にも勝ち。

一方、リビングでタレちゃんが事故のニュースを伝えるも、ぼーっと考えに耽っている明。 「ヘンなの。明兄ちゃん、事故のハナシ大好きなのに」なんて言われてる。部屋に引きこもって アビルがあっさり去ったことについて考える明。タレちゃんに報告受けたのか、昼間 詮無く扱ったことにちょっと謝りたかったのか、「宿題一杯なの?」なんて心配してくるミキ。 でも、明もバカだから「うるせえ!」なんて言っちゃうんだな。

ミキ「せっかく来てあげたのに、何よ、あの態度は!」

といっても怒りが明に向かないところがイカしてて、宿題のせいでイライラしてるんだろうと、 何の脈絡もなく…

ミキ「そーよ!アルフォンヌ先生がいけないんだわっ!」

ステキだよ、ミキ。で、ラストもまたいいムードだ。戦い終わって布団にくるまっている明に、

ミキ「お目覚めの時間でございますよ!」
明 「あと5分…」
ミキ「ネボスケね」
明 「だってよー、俺ついさっき寝たんだぜ」
ミキ「宿題でずっと起きてたの?それなら明クン、呼んだときなぜ来ないのよ!」
明 「俺を呼んだ?」
ミキ「そーよ!オヌシ、頼りにならないぞ!」

何、勝手言ってやがるんだ、このオンナは!ここの腰に手を当てたポーズが、 またかわいらしくていいです。動かないズールともうすっかりミキの尻に敷かれてる 明のうまいシーン構成がピッタリハマった一本でございました。

ところで、ザンニンさまは今回、どーしたの…?


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