デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー ちゃん じゃじゃじゃじゃーん♪


1972年10月14日放送
#14「氷の国への挑戦」
演出・鈴木 実(明比正行) 脚本・辻 真先 作画監督・邦原真琴 美術監督・浦田又治

明「死ぬかよ!木からもぎたてのリンゴのようなミキがよ!」

デビルマンが気を抜いた隙に、ミキが魔将軍ザンニンの手にかかり、 重傷を負った!

明の心は荒れる。意識をなく したミキに明は誓う。「デーモンどもは皆殺しだ!」 ミキと初めて出会ってから、次々と襲ってきたデーモン族。その戦い を振り返りながら、明は自らを責める。自分が傍にいたばっかりに、 ミキはデーモンに狙われ続けたのだ、と。

手術は成功した。ミキは助かったのだ!明は大はしゃぎしながら 病院を出る…が出てきたその顔は一転、二度とミキの傍に戻れないかも 知れない戦いに赴く悲壮な表情へと変わっていた。

変身、空へ跳び上がり、一路氷の国・ヒマラヤを目指すデビルマン。

ヒマラヤへついたデビルマンは「帰ってきたぞ!」…と意を決して 高らかにゼノンの名を叫ぶが、そこには何者の気配もなかった。

クレバスを行くデビルマン。そこへ氷村が現れ、こう告げる。デーモン族 は世界中に散り、人間界の奥深くへ潜み、攻撃を進めているのだ、と。 唖然とし戦慄するデビルマン。氷村はデーモンの本性・ヒムラーの姿を現す。 だが、怒るデビルマンの敵ではなかった。

助けを乞うヒムラーに応じ、姿を現すザンニン。ついに勇者と魔将軍 の戦いのゴングが鳴る!謎の黒煙を出し、視界を遮るザンニン。 更に相手の超能力を跳ね返すザンニンの魔力。ヒムラーの攻撃。 絶体絶命のデビルマンだったが、デビルアイで視界を取り戻し、 ヒムラーを倒す。

デビルマンとザンニンの激しい一騎打ちだが、ふとした隙を突いて、 ザンニンの弱点が明らかになる。デビルマン渾身のキックがとどめを 刺す。だが、ザンニンは笑う。もはや人間界のあらゆるところから デーモンは襲ってくる。ミキも例外ではない。「所詮は竜に逆らう カマキリのごとし!」ゼノンの偉大さを称えザンニンはクレバスの底へと消えた。

「そんなことをさせてたまるか!」デビルマンは改めて戦いを誓うのだった。

さて前回13話のレビューでも書いたが、今回はショッキングな幕開け。 前回見逃してたら、さぞかしショッキングだったろうなあ。

で、今回は全エピソード中、二回しかないデーモン族の名前が出ない サブタイトル、その名も「氷の国への挑戦」。

思えばデビルマンて、高らかに裏切りを宣言したわけでもなくて、 なーんとなくミキが気に入ってそのまま居座っていただけのことで、 実は今回第2クール(1クールは13本)に入って初めて、デーモン族と 戦うことを事実上宣言したことを意味する。(5話ゾルドバ戦でも デーモンとの戦いを誓っているが、これは高久 進脚本であり、むしろ シリーズ開始当初の混乱と言える)

で、迫るデーモン、その都度巻き込まれるミキと家族、というような 構図をこの一か月の間続けてきて、遂にミキが病院沙汰に。おじさんが 入院した時(11話)には、イライラこそすれ動転まではしなかった 明だが、この回はさすがにエキセントリック。

勇者の怒り。

予告でもたっぷり使われていた、救急車搬送シーンでの独白からして 飛ばしている。荒々しい白土タッチ明だから尚のこと激しいぞ。

「ちきしょう…ちきしょう。よくもやりやがったな!…くそう、ちきしょう!」

「第一にゼノンを血祭りだ!(やや大きく)ゼノンを血祭りだ!」

「あとはもう俺の命が続く限り、
 爪と翼が折れるまで、戦って戦い抜いてやる!」

もうこの際、豪ちゃんのマンガ版デザインに変更した方がいいんじゃないか、 といういかにもデーモン族らしいセリフ。そのまま病院の廊下でも、 明燃えまくる。

「待ってろよ、ミキ。
  ヒマラヤを覆う氷が、 デーモンの血で赤黒く光り出すのを!」

明はここで、ミキの元へ戻らない決意をしている。というより、 絶望的な戦いへ乗り出す決心がついているのだ。今までは一匹ずつの デーモンがたまさか周りに出現したら、倒してやるくらいのことだった ワケだが、今度はミキを傷つけられた復讐をしなければいけない。

デーモン族・デビルマンとしては、ゼノン以下、全員大虐殺しても 飽き足りないくらい怒っているのだ。さすがの勇者も、それでは 無事にすまないだろうコトを自覚している。翻せば、それだけ命がけで ミキを愛しちゃっているのだなあ、うん。

で、いきなりの回想シーン。

コレが進行の遅れからきたのか、あらかじめ含まれた構成なのかは、 何とも言えないが、前半のほとんどを回想シーン挿入で構成している。 思うに、クール代わりの強化策というか、改めてこの作品の説明も 兼ねているんだとは思うけど、商売上。

具体的に挙げると、
●2話の出会いシーン+新作2カット(コレが描き手不明)
●1話ヘンゲ(象タイプ)、ミキを鼻で巻き上げる
●2話恐怖のフランス人形+ミキをいたぶるシレーヌ

で、新作カット。病院の明にベトラ、ロクフェル、ズール、イヤモン の姿がかぶる。

●4話ベトラがミキの目の前で変身するところ
●6話ロクフェルが野球場でミキとタレちゃん狙うところ
●8話イヤモンが天井からミキの血を吸うところ

病院廊下に戻って、小松原顔の端正な明へ。

●13話ミキの前のザンニンへ。

まあ、書いた張本人だけに、ミキのいい驚きっぷりの所を巧くチョイス している。ズールはセレクトが難しくて落ちたのかな?

オープニング見ると、シレーヌでしか出ていない 北浜晴子氏の名前がクレジットされていて、実際新たにアフレコし 直されている。ベトラはどうも八奈見氏に聞こえるぞ? ロクフェルは声をまともに発さず。また、イヤモンの声はなぜか オリジナルの野村道子氏でなく、なぜか里見京子氏(多分。13話と 一緒か近い時期に録ったためか?)によって再アフレコされている。

で、自分を責めはじめる明。

「すまねえ、すまねえミキ。俺がお前の傍にいたのが間違いだった…」

いや、全くそのとおりなのだが。

明「死ぬんじゃねーぞ!」なんつって、病院の振り子時計の振り子を 思いっきりぶっ壊して、おじさんハラハラさせたり。手術代以外に 請求が来るよ、全く。いや愛とはそういうものだが。(ココも小松原作画だぞ)

で、おじさん明にこう言う。「ミキは死ぬか生きるかの瀬戸際なんだから…」 で、言い返す明がまたイカしてて、

「ウソだ!死ぬもんかよ!木からもぎたて のリンゴのようなミキがよ!」

コレ、8話でイヤモンに血を吸われて精気失ったミキを診た医者へノロケて見せた、

「ミキはな、目は星みたいに光ってさ、ほっぺたは リンゴで、 喰いつきたいほどの美人だぞォ」

あのセリフを受けて発せられている。この辺、シリーズライターが書いてる からこそ、生きてくるリフレインですねえ。デビルマンの好物って リンゴなのかな。

で、更に回想は続く。
●4話のタンデムする明とミキを楽しいシーンとして挿入。
●6話の野球シーン「ミキねーちゃんが応援に来てるんだぞ!」

と、楽しい思い出重ねておいて、
●1話の東大寺なぶり、ミキに平手を食う明。

うまいねえ。そう見せておいて「殺したって死ぬタマじゃねえ!」 と肩を震わせる。ミキの平手は重要なコミュニケーションなんである。

ミキ、助かる。

もうやりどころのない怒りと悲しみに震え、我を失う寸前の明だが。 恐らくこれ以上引き伸ばされてたら、おじさん殴り倒されてるんじゃ ないだろうか(笑)が、そこへ田の中勇氏演じるお医者さんが、手術 の成功を告げる。

そりゃもう大喜びの明くん、トンボ切りながら、お医者さんにチュー。 実は女医さんだったなんていう笑っていいんだかどうだか、なギャグを 挟みつつ、逆立ちしながら明はエレベータへ。

エレベータの中でもニッコニコなんだが、チーンとドアが開いたら 一転怖い顔になっている。通りすがりの看護婦が、言葉を失う… なんてのも挟まれていて、ここらはもっと作画が統一されていたら、 いい演出効果をあげていたろうなあ、無念。(原作ジンメン編での、 「俺の顔を見るな!」ほどとは言わないが、近い効果を狙ってたはず)

決意の明。

バイクで疾走、回想シーン前の「もう帰れないだろう」という悲壮な 決意がはっきり口に出る。しかもいかにもデーモンという口調だ。

「ゼノン、ザンニンを始めとして、何匹殺せるか…」

「倒せるか」じゃないっすよ、「殺せるか」ですよ、アナタ。

で、いきなり駐車してるトラックから大量の土砂が 落とされ、実はそれが氷村の手になるなんていうシーン。 なんで、こんな所にいるんだよ、氷村くん! まあいつものごとく、戦闘前に儀式として氷村が傷を負わせる、 て効果なのだ。いささか飛躍が凄いのだが、コレが最後のお勤めだし、 その辺は勢いで目をつぶるのが、正しいファンのありかただ!

さてそこで、恐らく白土作画になる名カット!1カットでバイクから そのまま跳び上がり、変身!続いてデビルウイングを出す!という、 最終回でリメイクされたカット初めての登場。これはバンクが多い変身シーン の中でも特殊だ。コンテの指示なのか、作画の暴走なのかは分からないが、 もしかして白土さんて、乗るとやりすぎるのかしら?

で空飛び、戦闘機の編隊に国籍不明機として撃ち落されることなく追い抜いて、 はるばる来たぜ、ヒマラヤへ!

「帰ってきたぞ!出迎えはどうした!」
「答えろ、ゼノン!デビルマンのお出ましだ!」

勇者らしい名乗りでご帰還。自分を鼓舞してるんですねえ、さっきまでの 「何匹殺せるか…」と弱気になる自分を。ホント、この回のデビルマンは健気で 泣けてきます。

で、氷村が登場、本性現しデーモン族がいないことを告げるのだが、 しかし、ヒムラーがカッコ悪かったことにがっかりしたよ、俺は。 当時も今も。アニメのデザインは、ひょろりと生えたヒゲと、寸足らずの コウモリみたいな姿のお陰で特にそうなんだろうなあ、 残念。まだ豪ちゃんの原デザインは細身で、 関節を強調していてしなやかな分、いいと思うんだけど。でも、 やっぱり弱そうではあるわね。…まあ戦闘要員じゃなくてスパイ だから致し方ないか。

おまけにツララ(石筍かな?)にぶら下がったものの、デビルマン に洞窟全体揺らされて、落ちてるし。自爆してザンニン呼ぶし…(哀) しかしそれも魔将軍登場のための前哨戦という事情はあるのだろう。

で、ついにザンニンとの決闘、なわけだ。ココで黒煙つーか黒い霧 が出るのだが、コレがザンニンのものなのか、ヒムラーの力なのかが 不明確。個人的にはヒムラーの力にしてあげたいけどね。

この魔将軍戦の作画が、主線のラフなタッチといい、ポーズのとり方 といい、『タイガーマスク』っぽいのだが、森利夫氏のタッチとも違う絵。 おまけに前半に出ていた小松原・白土両氏とも違う。

結構ダイナミックな動きが決まってるんですよ、しかし。特に、 「デビルアイ!」って珍しく叫んで、形勢逆転する辺りから実に いい勢いで動く動く。

●デビルアローがザンニンの胸で跳ね返り、デビルマン背後のヒムラーに当たる。
●続いてデビルマンが渾身の力で、ザンニンの腹にデビルキック、
  そのままザンニンごと天井をぶち抜いて、外へ飛び上がる

特にこのキックのカットは素晴らしい!撮り出し時のミスだろうか、 キック前の背景が既に外になってしまっているのが、痛恨だが…。

特殊能力よりも、肉弾戦となって、最後は氷塊を叩きつけようとする ところへ、デビルカッターを発し、砕けたカケラでザンニンが目を切る。 実はそこが弱点。すかさずデビルキックをお見舞いして、ザンニンを倒す …てな展開。ヒーローモノとしては、余りに地味だが、プロレスモノ として見るべきだろう。

で、瀕死のザンニンは、デビルマン一人で何ができる、と笑いながら死ぬ。 受けたデビルマンは、辻脚本では始めて、「この俺が、ゼノンの企みを 一つ残らずぶち砕いてやる!」と誓うのだ。それも他ならぬ、ミキの ために。人間界の平和こそがミキの幸せでもある、というミキ=人間という 同一視が明の中に生まれた瞬間とも言えるだろう。

やっと、「悪魔の力 身につけた 正義のヒーロー」の誕生である。 事実、次回以降、ミキだけでなく、その他のレギュラー陣にキャラクターが 立ち始めるんだよね。東大寺の存在とかチャコちゃんの登場とか。

「邦原真琴」とは…?

『デビルマン解体新書』でも架空の人物、とされていたこの回の作画監督。 おまけに作画陣も、「拾田 銭」「拭田 糊」とか、もうステキなくらい いい加減なペンネームで、正規のルートでは頼めなかった故の苦渋の様子が ありありと浮かんでいる。何しろロック・アウト中だからして。

で、俺宛に頂いた 前田一郎氏とのメールのやり取り で得た推論では、どうも東映社内テレビ班として作画監督・原画を 勤めておられた国保 誠氏なのでは、という結論。

理由は、『タイガーマスク』『ゲゲゲの鬼太郎』という二つの『デビルマン』 とスタッフが重なる作品において、ペンネームの元と思われる 作画班がそのままあるということ。

この回のエンディング1枚目の作画テロップが、
大来小剣(>生頼昭憲)
乃多田九男(>野田卓雄)
拾田 銭(>広田 全)

2枚目の作画テロップが、
大林 照(>小林慶輝)
多城一男(>田代和男)
拭田 糊(>福田紀男)
酒元 弘(>坂元政弘)

語呂合わせとしては充分、コレが答えでしょう。で、先の二作品では、 国保、野田、生頼の三氏いずれかが作画監督を務めた回では、その他の メンバーも同じ班で名前が見えるのである。

恐らく正解…なんだろうけど、実はアニメ関係の方に聞いたところ、 この班のある方の記憶も曖昧で、ご本人の証言が取れない。てなわけで 永遠の謎かも知れないが、まあ一応見解として示しておくです。

それに加えてこの回はかなりバタバタだったようで、上にあえて書いて おいた以上に入り組んだ形で、カットによって小松原風だったり白土風 だったり。もう極限状態でバラ出しされたのが分かりますな。進行さんの 苦労が忍ばれます…。


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