ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件

 外からは誰も入ることができない密室で、人が殺されていたとしよう。普通の世界の探偵なら、誰かが出入りした可能性なり、自殺を他殺と見せかけた仕掛けなりを推理して、事件の真相を解き明かす。

 超能力者や魔法使いが部屋の中に瞬間移動して、殺人を犯したとは絶対に考えない。外から念動力で凶器を操り、物体引き寄せの超能力で凶器を隠したとも考えない。なぜなら瞬間移動は現実には存在しない力で、念力も物体引き寄せも現実にはあり得ないとされているからだ。

 もっとも、これが超能力や魔法が存在する世界だったら、探偵はどんな仕掛けがあったと考えたのか。瞬間移動でも物体引き寄せでも念動力でも、どんな力でも想定しようと思えばできてしまう状況では、いかな名探偵であっても、無限の可能性から真相を暴き、真犯人を特定することは難しい。

 ただ、そこにある程度の制約があれば、探偵にも出番がある。魔法や超能力が発動する上で、何か条件があったとしたら、それに精通することで探偵も犯人を絞り込み、犯意を想定しては、事件の真相へと迫っていける。ファンタジー的な世界が舞台となっていたり、SF的な設定が施された世界が舞台のミステリは、力の特性や振るえる状況に制約を設けて、その中でどんな力が誰によって振るわれたのかを推理して、犯人を突き止めていく展開になる。

 第1回集英社ライトノベル新人賞で優秀賞となった紙城境介の「ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件(ダッシュエックス文庫、630円)は、魔女がいて魔法の存在が確認されていて、とてつもない力を振るう騎士も存在する、ファンタジー調の世界が舞台となったミステリ。繰り広げられるのもだから、魔法の発動における制約を元に犯人を探り、損層を暴く物語になっている。

 旧都にある現在は使われていない王城。そこでひとりの少女が、玉座に拘束されたまま、業火に包まれ焼死する。そんな事件に挑むのが、魔法研究の第一人者で、「魔女狩り女伯」という異名を取るルドヴィカ・ルカントーニ。まだ15歳の少女で、聖騎士を兄に持ち、自らも新米の騎士となったウェルナー・バンフィールドという少年が、彼女を護衛する任務を受けて住居を訪れた時など、裸の上に白衣だけをはおった姿で現れて、まだ純情なウェルナーを戸惑わせる。

 もっとも、そんな姿を見られて動じないところに、異名に違わない傑物ぶりがのぞく。実績も豊富で、国を騒がせた難事件をその若さで解決し、犯人の魔女を処刑台に送ってみせた。そのルドヴィカがウェルナーを連れて赴いたのが、1000年前に存在して、「若返りの奇跡」を使って100年近く君臨し続けた伝説の女王、フェニーチェが住んでいた旧都にある王城だった。

 奇跡の裏に何か魔法が使われたのではないかと考たルドヴィカは、真相を暴こう調査を始める。そこで起こったのが、ルドヴィカの助手兼侍女だったアイダ・アングレージという少女が焼き殺される恐ろしい事件だった。

 そしてあろうことか、ルドヴィカ自身に事件の犯人で、なおかつ魔女だという疑いがかけられる。この世界では零章から十章まで11種類の魔法が存在していて、このうちの火を扱う魔法によってアイダもろとも部屋を焼いたと、ルドヴィカにとっては幼なじみでありながら、今は対立している異端審問官の少女、エルリシア・エルカーンに糾弾される。

 もちろんルドヴィカは犯人ではない。けれども疑いを晴らすだけの証拠もなかった。魔法の存在が事件を可能にし、それを使える存在だけが犯人であり得るファンタジー世界ならではの条件を逆手に取られて、魔女だと決めつけられたルドヴィカは有罪となり、処刑台へと送られようとする。

 そこで大活躍するのがウェルナー。処刑を待つばかりのルドヴィカに代わって証拠集めに走り回り、ルドヴィカを牢獄から救い出す。そこで披露されたルドヴカの名推理によって明かされた事件の真実は? 使われた魔法の種類は? そこは読んでのお楽しみという訳で。

 一直線の歴史の上に紡がれたさまざまな出来事が、円環のようにつながって現れる真実に驚ける。同時に、自分を犠牲にしてまで守らなければならないことがあったとして、人はその運命に準じるべきなのかという問いも突きつけらる。壮大なスケールのトリックがあり、苦悩を乗り越える強さを感じさせドラマもある。打ち震えて読もう。


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