海風通信 カモガワ開拓日記


 村山由佳さんて、「天使の卵」とか「青のフェルマータ」とかいった、青春小説や恋愛小説ばっかり書かれいる人じゃないですか。だから最初の頃は、広いリビングとヴェランダのある大都会のマンションで、シンプルな家具に囲まれスレンダーな猫といっしょに暮らしているとか思っていました。本人も思いっきりメルヘンしてるか、逆に細身で神経質そうで、話しかけても無視されるか、機関銃のように厳しい言葉が帰って来るかもしれないなんて、そんなイメージ持ってました。

 だから去年、浦安で開かれた「青のフェルマータ」の出版記念サイン会をのぞいたときに、服装こそ黒のタートルにパンツ姿で、ちょっとアバンギャルドかかってたけど、お顔立ちはフクフクとしていたっておだやか、話ぶりも平明で明るくてって、小説を読んで抱いた印象とは全然違っていたので、ちょっと驚きました。

 今でも村山さんのことを「誤解」している人がいれば、千葉県鴨川市のお家での、村山さんの暮らしをつづった「海風通信 カモガワ開拓日記」(集英社、1800円)を、是非とも読んみて下さい。

 防波堤で釣りをしたリ、ノコギリで薪を切ったり、エプロンをかけて味噌をこねたり、長靴を履いて畑で草むしりをしている村山さんの姿を見て、ファンの人たちがいったいどんな反応を見せるのか、とっても興味があります。小説の内容かはらちょっと想像がつきませんから。でも、実際にこうして写真になった姿をみると、全然違和感がなくって、とっても普通のような気がします。

 畑仕事につかう長靴がちょっとオシャレな長靴だったり、ログハウス風の家をドライフラワーや蔓を円環状にまるめて作ったアクセサリーや、外国製の薪をくべるストーブ、フランス製の水道の蛇口、そのたもろもろのインテリア類、エクステリア類で飾っているところを見ると、やっぱりオシャレな方なんだなあと思います。

 「おとなの火遊び」というタイトルのエッセイで、村山さんは薪で沸かすお風呂への愛着を綴っています。「薪で焚くお湯は柔らかい。上がってからいつまでも湯冷めしない」という印象は、たしかに当たっています。

 今はもう、深夜電気温水器に代わってしまいましたが、僕の実家は、政令指定都市にありながら、ほんの7年くらい前まで、20年近くにわたって薪で風呂を焚いていました。冬の最中に外に出て薪を割り、煙にむせながら団扇でバタバタ仰ぐ苦労を経て、ようやく沸いたお風呂のありがたみといったら。今も現役で薪のお風呂に入っている方々からは、「俺達の苦労も知らないで」と怒られてしまうかもしれませんが、今でもお風呂のための薪割りの日々を、ちょっと懐かしく思います。

 「海風通信 カモガワ開拓日記」では、村山さんは写真も自分で撮影し、イラストも自分で描かれています。綺麗な花の絵も素敵ですが、僕はなぜか、窓にくっついたヤモリの絵とか、「デヘデヘデヘ」と笑う犬のドンの絵が気に入ってしまいました。

 村山さんは、読売新聞が主宰している「マルチ読書ネットワーク」の委員として、月に2回ほどネットワーク上で開かれるリアルタイムの書評会議に、たぶん鴨川市の自宅から、パソコンでアクセスして、いろんな発言をしています。最近は、7月にアメリカ西部に取材旅行にいったという話題が出ていました。書き下ろしの小説になるということですから、アリゾナの砂漠での経験が、いったいどんな小説になるのか、今からとても楽しみです。


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