U−31
ALL YOU NEED IS FOOTBALL!

 2003年のシーズンが終わって、鹿島アントラーズの秋田豊選手に戦力外通告が行われた。ナビスコカップで浦和レッドダイヤモンズを相手に決勝を戦った時も、また同じく浦和レッズに勝てば優勝だった試合でも、相手のスピードある攻撃に耐えきれず崩され点を取られ、タイトルを逃した。責任を負わされても仕方がない。

 浦和レッズのフォワードは、Jリーグでも屈指の速さを誇るエメルソン選手。相手が悪かったという面はある。仮にナビスコカップでも最終戦でも相手が浦和レッズではなかったら、あるいはエメルソン選手が出場停止になっていたら、秋田選手も守りきってタイトルを手にし、回顧の憂き目にあうこともなかったかもしれない。

 とはいえ現実にエメルソン選手は出場し、秋田選手は守りきれずタイトルを逃した。今後も同様の事態が起こらないとは限らない以上、そして年齢から衰えが進むだろう一方の選手を、いつまでも尊んではいられない。故にチームは、これを機会に人心の一新を目指し、結果現時点でもJでトップクラスの実力を持ちながら、秋田選手は居場所を失う結果となってしまった。30歳を越えた選手が向かえる、半ば必然ともいえる道なのかもしれない。

 2003年のシーズン終了後は、秋田選手と同様に1998年の「ワールドカップフランス大会」に出場したジェフユナイテッド市原の中西永輔選手も、戦力外通告の憂き目にあった。シーズン中はレギュラーとして起用され続け、結果チームは前期3位、後期は2位という前代未聞の好成績を得ていた。

 にも関わらず解雇されてしまったのも、やはり今がどうではなく、これからどうなのかを考慮され、不必要と判断されてしまったからだろう。30歳過ぎという年齢は、サッカー選手にはやはり相当に重たい壁になっている。そんな壁に挑もうとしたJリーガーの姿を描いたのが、綱本将也原作、基貴さん漫画の「U−31」(講談社、514円)という作品だ。

 舞台となっているのは、名前とフランチャイズにしている地域から、ジェフ市原をモデルにしたと思われる「ジェムユナイテッド市原」というチーム。そのジェムで活躍し、アトランタオリンピックにも出た河野敦彦は、観客動員数が少なく成績も上がらないチーム状況を嫌って都心部のチームへと移り、アトランタで得た知名度と生まれながらの素質でそれなりの活躍をしていた。

 しかし27歳になった時、チームから突然の戦力外通告を受け、かつて後足で砂を掛けて出て来た古巣のジェム市原に舞い戻る。居づらい日々に気も折れそうになる河野選手だったが、かつて見下していた選手たちが「ワールドカップ日韓大会」の晴れ舞台で初勝利を上げ、決勝トーナメントへと進む快挙を成し遂げる姿に刺激され、31歳になる4年後に再び日本代表の座へと返り咲き、「ワールドカップドイツ大会」に出場するんだと心に火を燃やす。

 現実を見れば、日本がブラジル代表を相手に勝利した「マイアミの奇蹟」を演じたアトランタオリンピックでもてはやされた若い選手たちのうち、フランス大会に出て日韓大会にも出た選手というのは、中田英寿選手を除けば記憶にない。城彰二選手にしても前園真聖選手にしても川口能活選手でさえも、今現在日本のJ1のチームなり、海外のトップリーグのチームでレギュラーとして大活躍はしていない。30歳に迫る彼らのいったんくすんでしまった輝きが、戻り再び輝くことの難しさを、この現実が残酷にも明確に示している。

 やはり30歳は壁なのか。人間はいくらがんばってもその壁を越えることはできないのか。違うと「U−31」は語っている。絶対にそんなことはないんだと「U−31」の河野選手が見せてくれる。

 「U−31」には代表になるんだ、現役としてチームを引っ張り続けるんだという想いを抱き続けられず、心が折れ、現役を退いていく選手の姿が描かれている。けれども河野選手は引退をしなかった。そして激しいトレーニングを積み見事に復活を遂げた。いつか再び輝きたいんだという願いを抱き続け、現役にこだわる河野選手の姿は、サッカーに携わる人たちに限らず、壁を越えようとあがくすべての人たちの希望を代弁する。

 漫画だからがんばれるんだ、現実にはとうてい無理だといった声もあるだろう。だったら彼らを見れば良い。城選手も前園選手も川口選手も、日本のJ1や海外のトップチームにこそ所属してはいないものの、未だ引退はしていない。そんな現実が漫画の河野選手にも重なって気持ちを強く支えてくれる。

 河野選手が日本代表に復帰する日があったとしたら、城選手や前園センスがJ1に復帰する日があったとしたら、否、なくても現役でがんばり続ける姿がピッチにありさえすれば、それは希望となって心を照らしてくれるはずだ。直前までJ1で優勝を争ったチームの中心施主だった秋田選手や中西選手など恵まれ過ぎの部類。彼らにはU−35での日本代表復帰、そして「ワールドカップ」出場に向かって頑張り続けて欲しい、年齢に壁なんてないんだと証明して欲しいと切に願っている。


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