早稲田文学って純文学系の小説誌で、いろいろと作品を発表して来たって話だけれど、それがどんな感じの話だったのかなんてまるで知らないまま、NMG文庫ってとりあえずライトノベルのレーベルらしいところから出た、仙田学という人の「ツルツルちゃん」(オークラ出版、600円)を読んだ。

 なるほど、美少女だけれど性格が強引で強情な先斗町未来って名前の少女がいて、彼女に下僕のように付き従っては、勉強のまとめとかを手伝っていたりする映一って少年がいて、そして2人の同級生で、素直で明るい性格で、これまた美少女の兎実ふらとって人がいてと、ライトノベルらしい三角関係めいたものがまず提示されて、そこで繰り広げられるラブコメ展開への予感を誘ってくれる。

 でも、すでにしてタイトルが「ツルツルちゃん」なんていう、意外性を通り過ぎてなにがなんだかワカラナイものになっているこの作品。冒頭から保健室で寝ている兎実さんの髪に先斗町未来がカミソリを当てて、さあ剃るぞ剃り始めるぞって凄まじい状況を見せているから誰だって思う。ただのライトノベルじゃないかもしれないって。

 というか、もはやライトノベルなのかもアヤシイと思ってページを繰っていったら案の定、ストーリーはもう驚天動地の超展開。とっても優しくて真面目そうに見える兎実さんが、飼い主のいない犬や猫の里親探しというボランティア活動に勤しんでいるようで、その裏側で誰かと付き合うようなことをやっているって、拾った彼女の手帳から分かってしまって、先斗町未来と映一の2人は事情を追い始めることになる。

 そうは言いつつ、兎実さんの秘密を探る動機が、手帳の書き文字があまりにも汚くて、強引な性格ながらも実は潔癖性の先斗町未来が怒って、僕に内容を全部書き写せと命じたりしたところから始まっていたりと、やっぱり普通じゃない展開。普通だったら落ちてたよこの手帳って言って、兎実さんに返して終わりになるだろうから。

 なおかつ、兎実さんへの親近感が裏返ったかのような反発が、先斗町未来に兎実さんの髪をそり落とさせるという方向へと走ってしまう心情の飛躍ぶりがまたすごい。そんな超展開が、とかく予定調和に陥りがちなライトノベルにあって、異様さってものを醸し出して読む人の目をとらえて離さない。

 さらに、そうやって髪を剃られたはずの兎実さんが、表向きは怒りもしないで剃られたスキンヘッドにウイッグをつけて学校に来て、それまでと変わらないつき合いをし始めたから、手を下して事情を知ってる先斗町未来と映一の2人は妙に感じる。彼女っていったい何を考えているんだって。

 そうこうしているうちに、街ではスキンヘッドの女性が増え始め、けれども目立たないのはみんなウイッグをつけて歩いているからなのでは、なんて噂も立ち始める。先斗町未来と映一の2人は、いったいなに起こっているんだと兎実さんの様子を探り、そしてとんでもない事態に行き合わせてしまう。そんな果て。先斗町未来に変化が訪れる。あの強引で潔癖性だった彼女からは、考えつかないような変化が現れる。

 自己主張の激しさでもって世界を睥睨していた少女が、悪意すらも天然で発揮してしまう少女に人間味を持たせようとして、逆に相手の少女の中に蠢いていたドロドロとした闇へと引っ張り込まれ、尖っていた人間らしさをすべて丸められ、ロボットのようにツルツルにされてしまうストーリー、とでも言うべきなんだろうか、この小説。だから「ツルツルちゃん」? それは違うけど、そうかもしれない。どっちだろう?

 どっちにしても、萌えに見えてサイコだし、ハーレムに見えてサスペンスだし、屹立していた強い心が、ぽっきりと折られてしまう様を描く純文学でもありそうなこの作品。どれにも当てはまりそうだけれど、どれからも外れていそうだしと、一筋縄では読めそうもない。

 先斗町未来は自分を犠牲にして、好きな映一の目を兎実さんからそらしたかっただけなのかもしれない。だったら最後の最後でとんでもない姿になって、すべてをかっさらっていった羊歯灰汁美の存在は。彼女といい先斗町未来といい兎実ふらといい、ハーレム展開の中でひとりの男性に思いを寄せるような簡単さがない分、その心情が読みづらい。目的も見えない。

 そんな、表層のストーリーからはつかみ取れない、登場人物たちの心の奥底に流れる情動ってものを、もっと読み込んで探ってみた方が良いのかも。そうすることによって、恐ろしいまでに煮えたぎって燃えさかる人間の情念って奴を、感じ取れるかもしれないから。

 登場するキャラクターではほかに、御殿場なたねって女性教師がなかなかの存在感。宝塚のスターみたいな容姿をして、パンツスタイルのスーツ姿でいるけど、時々前のチャックが開いて豹柄だとか、ヒラヒラのレースだとかが見えるんだとか。女性ってそのあたりに普段から気遣いを見せているものものだと思ったら、世間的にも割と開いていたりするものらしい。見てみたいなあ、そんな感じにチャック前回で歩いている女性を。


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