淡島世理が素晴らしいのは語るべくもない絶対的な事実であって、どんな反論も認められないし、そもそも反論などあるはずがない。淡島世理って誰? なんて質問は論外で、2012年の秋から冬にかけて、TBS系列で深夜に放送されていたテレビアニメーション「K」を観て出直して来い、としか言い様がない。

 それでは不親切が過ぎるので、少しだけ説明するなら、美人で強くてナイスバディのお姉さんで、剣を振るえば向かうところ敵なしの強さを誇り、凛としていて神々しい。それでいて、あんこ好きでマティーニにすらあんこを入れる悪食ぶり。完璧さの中にほの見えるちょっとした隙に、ついついお世話してあげたくなる。そんな淡島世理というキャラクターを知れば、問答無用で素晴らしいと認めざるを得ないだろう。誰だって。

 同様に、森田季節の「つきたま ※ぷにぷにしています」(小学館、571円)に登場する六条滝理の素晴らしさも、作品を読み終えた人には敢えて語るまでもない、自明のこととして理解されるだろう。とはいえ、これから読もうとしている人や、そんな作品があるなんてことを気にもとめていない人のために、六条滝理がどれくらい素晴らしいかを、少しばかり語っておく。

 まず美人。そしておそらくは文部科学省のキャリア官僚。つまりは才色兼備。もっとも、今は埼玉県の箕原市に県が開いた「箕原つきたま公共対策事務所市民相談課」という部署に出向して来て、課長補佐という役職にあって、つきたまを何とかして欲しいと相談に来る市民たちの相手をしたり、相談課の課員たちの尻を叩いて日々の仕事に邁進させている。

 仕事には厳しく、報告書に疑問があれば部下のを呼びだし、正しい書き方を指導する。とはいえ、頭ごなしに叱りつけるのではなく、部下で24歳の男性で主人公の鶴見満流が、つきたまの調査に出むいた廃校で出合った魔法少女のことと「いかにも小娘って感じでした」と報告すると、「私も十年前はそんな小娘だった」と言って、空気を和らげようとする。

   それに鶴見満流が「ははは、またご冗談を。課長補佐に限ってありえません」と思いっきり地雷を踏むような言葉を返すと、「先輩の過去を否定するな。バカ……」を不機嫌な表情で顔を赤くする。

 臨時職員として同じ相談課で働いていて、仕事は遅くそれでいて仕事中のお菓子を食べたり居眠りをしたりとやりたい放題ながらも、つきたまを小さくする腕だけは確かな初瀬射鹿という女性について鶴見満流に相談した時も、「私も十年前はあんなふらふらとした娘だったしな」と言っては、やはり鶴見満流から「いや、それは絶対にないです」と返され、「鶴見君、最近言うようになったじゃないか」と話してしまう。

 それでいて、怒り心頭に達して怒鳴るといった真似には出ない冷静さ。これぞ大人の女性と思わせ、憧れさせる。と同時に、それらの言葉の端々に、内奥の乙女らしさをほのめかそうとして、日常の振る舞いからあり得ないと否定され、ムッとしつつもぶち切れるなんてことのできない性格も垣間見えて、そこに可愛らしさを感じさせる。

 仕事ぶりでは完璧無比な超人でも、どこかにかまってあげたくなる隙ものぞく、六条滝理のパーソナリティに触れれば、女子高生で魔法少女の恰好をしていて、つきたまをこよなく愛していて、鶴見満流と廃校で知り合い、その後に相談課に押し掛けてくる薬師寺エナも、鶴見満流が好んで聴くロックバンド「マノ・フランク」のリードボーカルで、これまた高校生で、つきたまを吸うと力が出るという不思議な体質の大土呂真乃も、それこそどうでも良い小娘に思えてくる。おそらくは。

 たとえ鶴見満流が、張飛は高校生の頃から張飛であって、それは六条滝理にも言えることで、猪にうりぼうの時代があるように、課長補佐にもかわいい女子高生のような時代があった、なんてことはないと強く思っていたとしても、そしてそれが真実だったとしても、六条滝理は素晴らしく、そして「つきたま ※ぷにぷにしています」は、そんな六条滝理の素晴らしさを伝える作品だということに、何の間違いもない。是対に。

 ちょっと待て。そもそもつきたまって何だ? なんて質問はさすがに論外とは言えないので簡単に。半透明でぷにぷにしていて、普通は見えず、見える人には見えてしまって気になるけれど、人に危害は加えない存在。それを魔法少女の恰好をした薬師寺エナは、魔法によって動かせる不思議な存在と感じ、保護して育成しようと考えているし、大土呂真乃は、自分の眷属と信じて身にまとわせ、それらがどこか別の場所に群れ集うつきたまと、縄張り争いをすることを気にかけている。

 鶴見満流は様子を見てきて欲しいと頼まれ出かけた先で、つきたまを魔法で操作しようとしていた薬師寺エナと知り合い、相談課に来た大土呂真乃の相談内容を受けて、真乃の周りにいるつきたまが、別の場所にいるつきたまと争う場面へと付いていっては、そこにいた薬師寺エナと何度目かの再開を果たしつつ、普段は見えず見えても、ただ存在するだけで無害なはずのつきたまに、もしかしたら何かあるのかもしれないと考えるようになる。

 それは、従来信じられていることとは、大きく外れた考え。とはいえ現実に、ピンチに陥った鶴見満流を薬師寺エナは、つきたまを動かす魔法を使って救い出す。つきたまとはいったい何なのか。その真実を別に鶴見満流は知りたくもなく、平凡な公務員として過ごしていたかったけれど、それを許さないのが我らが六条滝理。そして次巻、彼女の真の目的をクローズアップしながら、大きく転がり出すことになる。おそらくは。

 その果てに生まれるのは、六条滝理の乙女らしくも華やかな花嫁衣装か。「いや、それは絶対ないです」。鶴見満流の妥協なき一言がスゥイートな空気をぶち壊し、六条滝理の頬をいっそう赤らめさせる、なんて展開を期待したい。六条滝理には及ばなくても、面白さではそこそこな大土呂真乃の成長と暴走にも、ちょっぴりの期待をしながら。


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