STOP!! ダークネス!

 人間の女性を3人、囲って養うお大尽様だっていない訳じゃないけれど、誰からも不満を出さずに養い切るのって結構あれこれ大変そう。これが悪魔だったら大変さもなおさらで、気をつけなければ命を取られるどころか世界だって滅ぼされかねないから要注意。面倒を見る方にも相当な忍耐力と経済力が求められる。

 好例が朝松健の「STOP!! ダークネス!」(幻狼ファンタジアノベルズ、900円)。大学で講師をしている神奈三四郎は、上司でトウこそ立っているものの美人らしい折枝教授が、バグダッドだかテヘランに行った際、現地のテロリストから命が惜しかったらこれを持って行けと押しつけられた8世紀くらいの壷を、それとは知らずに受け取ってしまう。

 どうやら大学に送ったものの、下手くそな梱包からまろび出た壷を神奈三四郎は、何だこれはと手に取って、張ってあった封印を剥がしてしまった。呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。そんなサウンドも聞こえて競うな状況が起こって煙が沸き立ち、中から和風美人に、マッチョな美女に、ゴスロリ美少女が現れ神奈をマスターと呼び、肩を揉め、飯を食わせろと要求してきた。マスターなのに下僕扱いとは流石は悪魔、容赦ない。

 いやいやそれでも甘い方。この3人、ミンタカにアルニタクにアルニラムはいにしえより生きる女悪魔で、持つ能力も強大なら性格も凶暴。しがない講師の神奈に向かい、頼み事があるなら和風美人のアルニタクは越後屋の柿の種1キロとパクさんのソウル・キムチ1樽を寄こせと言い、マッチョなミンタカは銀座の料亭「桐丁」の茶碗蒸しを食わせろと言い、ゴスロリ美少女のアルニラムはゴディバのチョコレートをちょうだいとせがむ。

 いずれも劣らぬ高級品。いったい幾らするんだ。講師の給料でまかなえるのか。生協の柿の種とかスーパーのキムチとか、コンビニの茶碗蒸しとか80円の板チョコではいけないのか。普段だったらいけない訳でもなさそうだったけれど、今はの悪魔妖怪の類を呼び出そうとする陰謀が進み、学園一帯が緑のカオスに覆われてしまった緊急事態。安い品々では動いてくれず、解決に至りそうもない状況に、やれやれと言いつつ神奈は費用を工面し3人を動かしてカオスの中を突き進み、真相へと迫りそして陰謀の目的を知る。それは何と! なるほど脱力もしたくなるものだ。

 さすがに魔術に関して国内切っての碩学だけあって朝松健、登場する悪魔に関する知識や繰り広げられる魔術に関する描写は分厚くて確実。なおかつそうしたリアリティある舞台の上で繰り広げられる物語が、どこまでも軽快で愉快で読んでいるから身が切られたり内臓をえぐられるような恐怖とはまったく反対の、胃袋を内側からくすぐられるおかしさと、身をぐらぐらと揺さぶられる楽しさに全身が満たされる。

 たかだか封印をあけただけの神奈に、どうしてこうまで3人の強大な悪魔が甲斐甲斐しく(もないけれど)接するのか、といった辺りがややつかみ辛いところだけれども、悪魔なだけに気まぐれで惚れっぽかったとでもしておこう。

 3人3様の悪魔なだけに人によって好みは別れそう。小悪魔という言葉がピッタリの美少女に、妖艶な美女と並ぶ間をとってピチピチとしたミンタカを選ぶ人が多そうだけれど、熟女のアルニタクも教養がありそうで芸も持っていそうで一緒にいたら飽きなさそう。アルニラムは目に麗しいけどキレるとマシンガンやらガトリング砲やらで一斉掃射する癖があるから用心が必要か。それでも見る分には麗しいから捨てがたい。

 ともあれこうして始まった腐れ縁的女悪魔同居ストーリーは、いったいどこに向かって進むのか。どんな理不尽な要求に神奈三四郎は振り回されるのか。どんな魔術の知識を開陳して読む人を不思議の世界へと誘ってくれるのか。関係ないけれど美人らしくて性格的には破綻しているらしい折枝教授は今後出てくる予定があるのか。気になった人は期待を胸一杯に抱いて続きが刊行されるのを待とう。


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