スターシップ・オペレーターズ1
Starship Operators

 不謹慎を承知で言うなら戦争は最高のコンテンツだ。ケーブルテレビのCNNが視聴者数を一気に伸ばしたのは、ピーター・アーネットが最前線に飛び込んで湾岸戦争の生中継をしたからだった。今だって戦争が起こると世界中のテレビマンが危険を省みずテレビカメラを担いで大挙して戦場に向かう。残酷さを伝えたいジャーナリスト魂だと当事者は言うだろうしそんな気持ちは否定しないけれど、伝えられる側はテレビの向こうで怒っている残酷な”見せ物”に憤りながらも心のどこかで興奮している。

 戦争の”見せ物性”を『48億の妄想』や『ベトナム観光公社』でいち早く指摘したのは筒井康隆だったけど、そこでの指摘は教訓となるどころかいっそうの具体化、戯画化を帯びて世界を覆い尽くしている。地上波だけだったテレビにケーブルテレビが加わり衛星が加わりインターネットが加わった情報化社会の進展で、どんどんと視聴率競争が激しくなったテレビは、最高のコンテンツを求めて世界中の紛争地域を飛び回り、争いの様子をお茶の間で大口を上げて刺激を求めている人々に興奮のエサを与えている。

 戦争が、戦うことが目的化している人々と戦わせることが利益に結びつく人々の結託が、終わるはずの戦争をいつまでも終わりにさせない状況を生みだしているんじゃないか、といった話は陰謀めいてはいるけれど現実にありそうな気がする。矜持があるのかテレビが紛争をいたずらに煽ったり長引かせるような振る舞いはしていない、とは思うけど本当のところは分からない。あるいはそのうち「戦争は我が国の財産だ」なんて言い出して、サッカーのワールドカップのように戦争を独占中継させるテレビ局に入札させて巨額の中継料を稼ぐ国が出て来るかもしれない。そして激しくなった視聴率競争に勝ち抜くために応札するテレビ局が出るかもしれない。それとももう出ている? 考えられない話ではない。

 水野良『スターシップ・オペレーターズ』は、西暦2300年の宇宙を舞台に、戦争を”見せ物”にしなくてはならなくなった若者たちを主役に据えたスペースファンタジーだ。宇宙強大な軍事国家”王国(キングダム)”に攻められ降伏してしまった惑星国家キビ。その話を研修航海中の新造戦闘艦で聞いて憤った防衛大学士官候補生たちは、乗り込んでいた船を製造元から買い取って”王国”と戦うことにした。もっとも戦闘艦の維持や武器弾薬の調達には莫大なお金が必要となる。そこで船の購入資金や運転資金を出してもらう条件として、宇宙規模のテレビネットワークと戦闘の様子を独占中継させる契約を結んだのだった。

 こうして始まった前代未聞の生中継つき祖国奪還戦争。スポンサーはテレビ映りを良くするため艦橋には士官候補生の美少女たちを配置する要求して来て、かくして第1艦橋から第3艦橋までに9人の、見かけとは無関係に戦略に戦闘に高い才能を持っている「オペレーターズ」が結成された。その可憐さ、でもって直面している運命の残酷さに視聴者たちは大興奮で彼女たちの戦争は全世界が注目する番組へと躍進する。もっとも乗っているのが美少女でテレビ中継されているといっても”王国”には関係ない。逆にテレビで中継されているということはすなわち作戦行動の大切な部分がすべてオープンになっているということで、情勢は常に彼女たちに不利に働く。加えてスポンサーの要求で、中継時間に合致するようにクライマックスを持っていかなくてはならないから無勢が多勢に勝てる急襲や不意打ちといった作戦はとても取れない。

 『機動戦士ガンダム』の時代から『機動戦艦ナデシコ』に『無限のリヴァイアス』といった具合に、ありがちな若者ばかりの独立愚連隊による乱戦突破といったシチュエーションを持ちながらも、戦争を取り巻く環境において極めてシビアでシリアスな条件を設定してみせた『スターシップ・オペレーターズ』。且つ、単なる有志が盛り上がってのたった1隻の反乱といった見かけの裏側に奥深い陰謀のニュアンスも伺わせていて、果たして誰がこれほどまでに理不尽な戦争に彼女たちを巻き込んだのかに興味が惹かれる。

 もちろん頭脳明晰な香月シノンや惑星キビ前首相の娘で策略家の間宮リオ、この巻では目立った活躍はないものの『電撃アニメーションマガジン』連載分では戦闘シーンで持ち前の能力を発揮して見せた第3艦橋の射撃管制の面々ら、多彩なキャラクターが繰り広げるつばぜり合い、男性をめぐる恋の鞘当てといった部分も重要な読み所。『ロードス島戦記』などで知られる異世界ファンタジーの俊英が宇宙を舞台に挑む新シリーズの開幕を喜びつつ、かくも多彩な要素を持った物語がどこに向かって行くのかを注目して見守りたい。続く……よな。


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