空の青さを知る人よ Alternative Melodies

 長井龍雪監督の長編アニメーション映画で、秩父3部作ではテレビアニメーション「いつか見たあの花の名前を僕たちはまだ知らない」、アニメーション映画「心が叫びたがってるんだ」に続く「空の青さを知る人よ」は、ミュージシャンになりたい秩父在住の女子高生がヒロインで、秩父市役所に勤めるその姉で物語に絡んで来る話。つまりは美少女と美魔女への関心で誘って見てもらおうとしている作品だとも言える。

 にも拘わらず、秩父にあってミュージシャンに憧れる高校生の男子と、その高校生が東京に行ってシンガーソングライターとなりながらも今は演歌歌手のバックでギタリストをしている30過ぎのおじさんの方に関心が向いて、その一心同体な2人の物語なんじゃないかと感じた気持ちを、そのまま小説にしたような印象だった。

 それが、超平和バスターズを原作にして岬鷺宮が書いた小説「空の青さを知る人よ Alternative Melodies」(電撃文庫、630円)。これとは別に映画と同じ「空の青さを知る人よ」というタイトルでのノベライズも出ているから、“正統”ではなくスピンオフ扱いになるだけど、男性も女性も過去に未練のある年配者あたりは、読んでこちらが本編なんじゃないかと思ってしまうかもしれない。

 映画と違うところは、大人になってうらぶれたギタリストをしている金室慎之介と、そしてお堂の中に突然自分がいることに気がついた高校生のしんのの側から、同じ映画を見ていったというもの。東京にはいかないと同級生で恋人の相生あかねから言われ、なんだよと思いながらこもったお堂でボンヤリとしていたら、鳴り響いたノイズみたいなベースの音に目を開けうるせえといって見たらそこに高校生になった相生あおいがいた。

、  そんなあおいが、自分の高校時代のバンド仲間で今は市役所の職員となった中村正道といっしょに演歌歌手のバックでベースを弾くことになって、大人になった慎之介がプロ舐めてんのかと思っていたら案外にちゃんと聞かせてくれて驚いたりといった具合に、映画では察するしかなかったしんのと慎之介の心の動きに触れられる。

 直情的でストレートなしんのとは違い、やさぐれていてどこに熱とかが残っているか見えない慎之介の心の中で、いろいろな思いが交錯しているのが分かるのがあるいは、「Alternative Melodies」の大きな特徴。その結果とし、夢を抱いて上京しながら夢破れ、それでも思いは貫いてミュージシャンを続けている慎之介の自分の立場に対する複雑な感情がくっきりと見えて、過去に描いていた将来像からズレて挫折して戸惑っている人間が抱える後悔と葛藤が、慎之介の心情と重なっていろいろと考えさせられる。自分はもうダメだとか。どこで道を踏み間違えたんだとか。

 でも、そんな境地にありながらも折れず逃げないで踏みとどまって、そしてどうにか歩き始めようとする大人の真之介の心情に感化され、もうちょっと頑張ってみようかといった気にも余計にさせられる。その意味では映画で感じたことを細くしてくれる小説かもしれない。

 まだ未読ながらも映画のノベライズの方は、相生あかねがやさぐれているおっさんの慎之介を見てどう感じたかが描かれているのかもしれない。酔っ払った慎之介をホテルまで送っていったら迫られ、幻滅したような雰囲気だったあかねの心情やいかに。クライマックスでしんのと出会った時の驚きやいかに。とても気になる。

 あと、あおいもあかねもどうして眉が太いままなおかも。遺伝か親の遺言か。いずれにしても細く眉を整える風潮にあってあの太い眉のままで貫き通すのは相当な覚悟がいるころだろう。正統派のノベライズにはその説明はあるのだろうか。スピンオフにはしんのや慎之介が2人の眉について言及している場面はあっただろうか。読んでみるしかないし、読み返してみるしかない。


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