死体埋め部の悔恨と青春

 体が次第に硬化していき、死ぬと金塊になる不治の病に冒されている女子大生と、彼女の死体の相続人に選ばれた中学生の少年との交流を描き、純粋なはずの離別の悲しみに莫大な遺産という“毒”が、どう作用するかを見せた「夏の終わりに君が死ねば完璧だったから」(メディアワークス文庫)を書いた斜線堂有紀。続けざまに新レーベルのポルタ文庫で、「死体埋め部の悔恨と青春」(新紀元社、650円)を出した。

 いわゆる部活もの。大学に入ったばかりの男子が、美しいけどどこか謎めく先輩から勧誘されて入ったのは、毎日のようにどこかから発生する死体を受け取り、車を走らせ埋めに行くという部活。埋めに行く場所も山奥から海岸から離島から氷河の中までさまざまで、主人公は手にスコップを持ったり海に沈めるために重りを工夫したり、時に死体を背負ってロッククライミングまでする。

 そうまでしてエクストリームな活動を見せて主人公はアピールするものの、美人の先輩はなかなか振り向いてくれな……違う、そんな一風変わった部活を大喜利していくストーリーでは決してない。大学に男子が入学するところは同じ。祝部浩也という名の男子学生が、学校帰りに通った夜の公園で何者かに襲われもみ合っているうちに相手が死亡するところから幕を開ける。

 当然、死体をどうしたら良いのか困っていた祝部のところに、ちょうどそこを通りがかったらしく顔を出したのが、織賀善一という名で祝部が通う大学の先輩らしい男。助けてやると言い、死んだ男を織賀が乗っていたジャガーのトランクに放り込んでさあ、捨てに行こうと座席に乗り込んだらそこにすでに女性の死体が乗っていた。

 織賀が殺したものではない。彼がやっていたのはビジネス死体遺棄。つまりは頼まれて死体を運んで埋める仕事だけれど、もちろんそれも犯罪で祝部は織賀に得体の知れ無さを覚える。勘弁して欲しいとも思うものの、自分自身は不可抗力で正当防衛とは言えひとりの人間を殺害している訳で文句は言えない。もはや共犯といった感じで2体の死体を捨てに行くことになった祝部に、運転席から織賀が効いてきた。車内にいる女性の死体の左手の指がどうして全部折れているのかを。

 隣に死体があるという異常な状態であるにも関わらず、というか異常だからこそむしろ必死に思考を巡らせて織賀の不興を買わないようにしたのだろうか、祝部はいろいろと推理をして答えを織賀に告げる。それに対して織賀から「承認」という言葉が出てミステリ的な真相解明が完了。以後、エピソードは辞書を大量に持って死んだ女や、スクール水着姿で刺されて死んだ女の死体を運びながら、どういう状況で殺されたのかを祝部が推理して、たどり着いた正解を織賀が「承認」するフォーマットで進んでいく。

 恐ろしいのは、積んでいる死体がおそらくは殺されたものである以上、そこにあるのは歴とした犯罪であって糾弾すれば糾弾もできるし、司直が出てくれば逮捕だってされるにも関わらず、そうした展開へとは向かわないこと。祝部が推理することによって事件の真相は解明できても、事件を起こした誰かが司直によって裁かれることはない。何より祝部自身は“殺人者”でもあるのだから、司直に出てきてもらっては話が終わってしまう。

 そうしたシチュエーションの中、織賀が誘うようにして祝部とともにビジネス死体遺棄の仕事を死体埋め部といった名称でサークル活動のように位置づけてしまう。もはや常識を超え良識を外れた振る舞い。それでも、2人がそうした仕事をこなしている姿に楽しそうに思えてくるから恐ろしい。

 寂しいという気持ち、孤独だという思いの中で人は、冷静さを失って誰かを求め、そのために何かをしでかしてしまうものなのかもしれない。都会でひとり暮らしていく中、感じた寂しさを狂気が埋めていった果てに現れた犯罪を部活としてしまう猟奇的な心理を描く物語を味わえる。一方で、観察や想像から推理をめぐらせ真相へとたどり着くミステリとしての味わいもしっかり持った作品だ。

 やがて行き着いた先で祝部が気付いた真実は、先輩後輩の関係が育まれつつあった死体埋め部をどう変えるのか? そして祝部はどんな行動に出るのか? そんな帰結をまずはじっくりと噛みしめつつ、どこか完結したように見える物語の続きがあるのかを考えたい。あれでどう“復活”するかは見当もつかないけれど、車内で死体だけ見て推理するフォーマットはなかなかの発明。それを終わらせるもったいなさから、案外と続いていくのかもしれない。期待して待とう。


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