SH@PPLE しゃっぷる1

 双子の少女と少年が、お互いの性別を偽り、少年は女装して女学院へと赴き少女は男装して男子校に通う話といったら、「破天荒遊戯」の遠藤海成による「まりあほりっく」という漫画があったりするし、そもそも男女の衣装を違えての入れ替わりといったら、「とりかへばや物語」の大昔から日本では幾つも幾つも描き継がれて来た。

 もっとも「まりあほりっく」は双子がメーンのキャラクターではなく、あくまで双子の兄にして女装している鞠也に蹂躙され翻弄される少女が主人公。これに対して竹岡葉月の「SH@PPLE −しゃっぷる−1」(富士見ファンタジア文庫)は、双子の姉の淡谷舞姫が通っている女学院の生徒、一駿河蜜に一目惚れしてしまった弟の淡谷雪国が、姉に成り代わって女学院へと行きそこで様々な人と出会い、様々な出来事を経験しつつ周囲に様々な影響を与えていくという、覚醒と成長のストーリーになっている。

 なおかつこちらは舞姫も雪国に扮して町の中学校へと行って、新たな出会いを重ね始めての経験を積むというダブル主人公的ストーリー。雪国が舞姫に扮して出向いた舞姫の母校の女学院と、舞姫が雪国に扮して通っている中学校との間を2人して取り持ちつつ繋げつつ、巻き起こっている通り魔事件まで解決してしまう展開もあってと、なかなかにして盛りだくさんの内容を楽しめる。

 女装してまで通い始めた女学院で雪国は待望の蜜との出会いを果たす。ところが彼女が見せたのは雪国に対する激しい敵意。というのも姉の舞姫は女学院で生徒会長として生徒たちの憧れではあったものの、一方に胸の巨大な<胡蝶の宮>こと蝶間林典子というお姉さまを筆頭にし、良家の子女が集った学生クラブのソロリティがあって学園を支配。生徒会と舞姫はそのソロリティからライバル視されていて、蜜はそんなソロリティの側に立つ生徒だった。

 姉が弟の入れ替わろうという提案に簡単に乗ったのも、そんなソロリティとの諍いに気疲れしたからでもあったけれど、それを知らずにで向いて散々な目に会いながら、雪国は過去の経緯も女同士だからこそ生まれがちな敵愾心も抱くことなく、フラットにソロリティの面々や蜜と接して彼女たちを変えていく。それが効果を挙げたからか、はたまた焼きそばパンの効能か、雪国は一目惚れした蜜との関を近づけることに成功する。

 こうしてようやく楽しい学校生活が始まったものの、いつまでも入れ替わったままではいられない。雪国の中学校に通っていた舞姫が、ぬるい生徒会の面々に対して半ば挑戦状を叩きつけ、いつのまにか仲間になっていた「美少女研究会」の面子のためにも、母校の女学院と合同コンパを開くと言ってしまったからもう大変。女学院に戻って根回しに乗り出す一方で、雪国も自分の中学校へと戻って舞姫がしでかした事態の収拾や、舞姫のアグレッシブさが生み出した新たな関係を繋ぎながら、その日を待つことになる。

 けれどもやっぱり気にかかるのが、仲良くなったまま残して来てしまった蜜のこと。女装した自分とは仲良くなれても、舞姫との間に同じような築けなかった様子で、すれ違いほころんでいく関係がもたらすきしみのようなもの感じて、雪国は迷う。それをどう修復するのか、といったあたりも読みどころのひとつ。解決の過程で蜜に妙な誤解を与えてしまったようで、これからもまだまだ続くだろう展開の中で、いろいろと報われない恋路をたどりそう。

 ソロリティの<胡蝶の宮>こと蝶間林典子も典子で雪国と舞姫の真相に気づいた様子で、これからはその巨乳をもって雪国に迫って行きそう。蜜かそれとも典子か。間に立って右往左往する雪国の今後も楽しめそう。雪国は雪国で、また舞姫も舞姫でともに悩み、ともに解決を目指して入れ替わり、そして居場所を得ていく姿が描かれているから男性と女性のどちらもファンも満足できるストーリー。もはやベテランの域にある作家だけのことはあって、視点が変わり事件も起こってと盛りだくさんの内容なのに分かりやすい。

 女の子の神秘に憧れを残す男の子の立場から見れば、むくつけき男共に囲まれることになる舞姫より、可愛い少女たちに囲まれ慕われる雪国の方に幸せを感じて心を寄せそうだけれど、冒頭の舞姫のくたびれ具合から女子校で女子たちに囲まれ生きる厳しさを知れば、男の子たちの中で気楽に過ごすことになる舞姫の方が幸せなのかもしれない。どちらだろう? そこはだからやはり入れ替わって経験してみるより他に理解の術はないのかも。それは無理? なるほどだからこそ「とりかへばや物語」の昔からこうした物語が書かれ読まれ尊ばれるのだな。


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