殺人楽園

 ゲーム的なレベル上げとスキル提供のシチュエーションを設定しやすいせいなのか、いわゆる小説投稿サイトの隆盛の中で、ダンジョンに潜っている主人公が戦ったりする中でレベルを上げて無敵となっていくような作品を、結構な頻度で見かけるようになっている。

 そうした状況に、ダンジョンめいた場所を舞台にバトルが繰り広げられる物語と聞いて、レベル上げ物語のバリエーションのひとつかと感じた水城水城による「罪人楽園」(MF文庫J、640円)を開いて、読んでこれはそうした類例とはまるでかけ離れた作品で、なおかつ優れて面白い作品だと分かって考えを改めた。

 かつて大迷窟と呼ばれるダンジョンにパーティーで潜っては、仲間を巨大な蛇か何かに惨殺されつつ、ひとり生き残って下半身が蜘蛛で上半身が美少女というアラネアに助けられ、とある能力も授かったウィル・ロウエンという少年がいた。もう大迷窟には潜らないと決めていたけれど、牢獄から凶悪な罪人たちが脱走し、大迷窟に逃げ込むという事件が起こり、そこでアラネアらしき下半身が蜘蛛で上半身が少女のモンスターが出たという情報が出回っているのを耳にして、単身で潜ったところ直前に酒場でパーティを組まないかと誘って来た少女たちのパーティが凶悪犯と戦っていた。

 結構強くて巨体の凶悪犯を倒した4人組。そしてウィルと仲間となるかと思いきや、効いてなかったか立ち上がった凶悪犯に1人、また1人と少女たちが潰され、壊され、串刺しにされ、そして最後の1人までもが……。ならばと立ち上がったウィルが少女を助けて2人でなんてハッピー、なんてことにはならず、ここで4人のパーティが全滅で、口絵にも出て来たリズも当然に退場という容赦ない展開が待っている。

 思い出したのが、らちるきによる「絶深海のソラリス」だけれど、同じ全滅エンドながらもクライマックスに全滅を持ってきた「絶深海のソラリス」に比べ、冒頭でそれらしさを漂わせていた少女たちを全滅させる容赦なさに、これは一筋縄ではいかない作品だと感じさせられた。

 実際、途中で出会った処刑人を処刑する少女ミザリーは、シスカという監督の少女に能力を抑えられながらもめちゃ強く、現れる罪人たちもモンスターたちもなぎ倒して進む。ウィルとの間に恋情が芽生えるような隙間は無い。さらに途中で出会った、姫騎士なのに殺人に走ったオーレリアという、突拍子もないセットのキャラクターも混ぜてパーティー化していくからたまらない。ありきたりからぶっ飛んだシチュエーションが出来上がる。

 そんなパーティが進んでいった先、再会できたアラネアにウィルは喜ぶけれど、そこで実はアラネアを狙っていたミザリーが、シスカの枷を外れて能力を解放して迫ってくる。パーティーなどどこふく風、誰もがやはりアウトローだったということで。

 パワフルだったり顔の皮を剥いで化けたり、魔紋を刻んで操ったりと様々な手法で悪さをしまくった犯罪者たちが大迷窟に潜んでは、ウィルたちの道行きを襲ってくる犯罪者オンパレードが楽しく、それらを倒して行くウィルやミザリーの活躍ぶりも痛快。美少女の顔が潰されたり、引きちぎられたりするスプラッタもあるけれど、全体にバトルが中心でちょい魔法も入る感じで、しっかりとエンターテインメントしている。

 ミザリーが触手に絡まれたりするのはお約束。それでも姫騎士変じて殺人騎士は、別にオークに絡まれ「くっ、殺せ」とは言わない。むしろ出会ったらオークなど即座に全滅させてしまうだろう。そういう意味でも定式なり先入観を拝して盛り上がる物語だと言える。

 そんなオーレリアの騎士ゆえに殺すのだという論理の飛びっぷりにちょい、納得しそうになったところに、兵隊でも軍隊でも騎士でも武士でも、殺すことを生業とした装置の置かれた立ち位置といったものを考えたくなる。殺さない自衛隊の不思議過ぎる立ち位置というものにも考えが及ぶ。

 ミザリーが自分を監視していたシスカがパーティー(?)を叩き出された先で悲運に見舞われ、そしてより強大な敵が追っ手となってミザリーやオーレリアやウィルやアラネアたちに迫って来そう。とはいえ、不死身のウィルと強靱な力を持った3美人。どんな戦いが繰り広げられるかに注目したい。他にも逃げ込んだ犯罪者たちがどれだけの振る舞いを見せるかも。続くかな。


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