ドラグケイン
竜魔杖のコンダクター1

 かたや机の上にドンと脚を乗せてスカートの奥をのぞかせつつ、愛するあまりの説教を垂れてくる七枷咲夜。こなた下着姿で寮の部屋に侵入して来ては、縛り上げてペロペロと胸を舐める七枷朱鷺夜。そのどちらも見た目は小学生のようで、中身はそれなりな大人らしい姉妹のいったいどちらを選ぶべきなのか。これは難問だ。

 っておいお前いったい何考えているんだ属性的に被りまくりな上に嗜好としても特殊でなおかつメインヒロインでもサブヒロインでもないどちらかといえば敵役だったり上役だったりと決して結ばれ得ない関係のキャラクターを2人も登場させてと作者の早矢塚かつやに説諭する編集者なり読者も少なからずいそうだけれど。

 でもいいのだ。これでいいのだ。むしろこれがいいのだと、「竜魔杖のコンダクター1」(角川スニーカー文庫、600円)を読みつつ、咲夜と朱鷺夜の登場シーンに燃えて萌える夜。本筋は一種の異能バトルで、世界のあちらこちらから、生物の遺伝情報を持った金属という<魔杖(タクト)>が見つかり掘り出され、その力を引き出せる若者たちが<コンダクター>として、強い力を発揮できるようになった未来が舞台。

 そんな力を幼くして発動させることを目的にした、夜刀野会という場所に幼い頃から囚われていたというか、育てられてきた八戸埜竜士という少年も、コンダクターとしての力の持ち主で、今は機甲特務群ダアトという組織に属して、<魔杖>を使って起こされる事件に挑んでいた。

 そこに持ち込まれたのが、世界でも11本しかないという<系統樹の根>という特別な魔杖の所在。聞くと、竜士双子の弟の柳二が通う姫神学園にあるそうで、これは僥倖とダアトは、竜士を柳二と入れ替わらせて学園に送り込むことにした。ところが、顔は同じでも性格はまるで違う2人。剛健で硬派な竜士と違って柳二は稀代の女性好きで、学校中の女子生徒から関心を持たれ、デートを申し込まれて安請け合いして8人と同時にデートしなくてはならないような窮地すら、自ら作り出すほどだった。

 そんな柳二と入れ替わって、竜士だとバレないはずがないのが普通だけれど、そこは案外に顔さえ同じなら中身も一緒と見られたか、疑われることはなく少し変わったかもと思われながら潜入には成功した学園で、竜士をしっかりと見張る勢力があった。それが姫神ベルカとレイヤの姉妹。夜刀野会の残党が復活を狙い<系統樹の根>を探っているのではという話を聞き、ガードを固めていたところに来た竜士を最初は敵と疑い、どうにか誤解はとけてツンとした性格の美少女レイヤと共に共闘することになった。こちらがメインヒロイン。

 そんなレイヤとは対照的に、竜士とは中学が同じで最近急に<魔杖>を操る力を伸ばした楠木皐月という少女は竜士を兄と慕い飛びつくほどで、その感の良さから竜士が柳二と入れ替わっていることも見抜いたことから、何のために竜士が学園に潜入しているかを話、レイヤも含めて一緒に動くようになる。こちらがサブヒロイン。

 そんな2人のヒロインを両手に得てのラブコメチックな展開に加えて、壊滅したはずの夜刀野会の残党が送り込んで来た敵を相手に<魔杖>の持つ力を引き出し、<魔杖>が持つ動物や植物といった存在をモチーフとした力を武器に変えて繰り出しながら戦う異能バトルだけでもう、お腹が一杯なところに絡むのが、見た目は小学生で中身は大人という異色の姉妹の七枷咲夜と七枷朱鷺夜。これがまた素晴らしい。

 咲夜の方はダアトで竜士の上司として学園行きの指令を下し、ときどき電話をかけて来ては姉といいつつ恋人のような愛を囁く。もうひとりは夜刀野会で竜士たちといっしょだった過去もあり、その天才ぶりが評価されて10年はかかる罰を3年と数カ月で抜け出し、学園に教師として赴任して来ては、竜士が寝ているベッドに潜り込もうとする。

 なんというモテっぷり。見ればもうヒロインのレイヤもサブヒロインの皐月もいらない子だと思えるだろう。むしろ邪魔だとも。咲夜と朱鷺夜の竜士への思いをどちらかでもいいし、どちらもでもいいけれど、かなえてあげたいと思えるだろう。あるいは自分に竜士をなぞらえかなわないかと願うだろう。そういう属性を持った者たちならば。

 悲しいかな上役であり敵役だけあって、竜士からの直接の愛を向けられることもなく退けられ、縛られ追い出されたりもする咲夜と朱鷺夜。それでも持っている権力なり天才的な頭脳なりが、ただのモブキャラとして2人を収めていくはずがない。11本あるという<系統樹の根>を集める、といったい何が起こるのかという謎があり、そのうちの1本を身の内に入れてしまった少女の行く末にも不安が残る。さらに竜士がたびたび思い浮かべる、夜刀野竜華という少女の過去であり現在にも重いが馳せる。

 そんな、語られていない謎を追い、また生命の進化が絡みモチーフとなった様々な技と武器が繰り出されるのを楽しんで行けそうなストーリー。それらを駆使して戦う者たちの懊悩を感じつつ、強さを求めながら及ばないメインヒロインの少女の葛藤を噛みしめ、圧倒的な力を知らず手に入れてしまったサブヒロインの戸惑いを味わい、幼女にして成人という素晴らしい属性を持ったキャラクターの2枚重ねのアタックが、どんな災難を竜士にもたらすのかを見つつ、読んでいきたい、この先を。


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