ロウきゅーぶ!

 王道ではある。だがそれだけに前例も数多(あまた)ある。弱い者の寄せ集めチームが、名コーチの作戦と訓練によって強くなってはライバルを叩き、上位を蹴散らし栄光を掴む物語。「がんばれ! ベアーズ」を筆頭にして野球なら「おおきく振りかぶって」が最近では人気だし、剣道でも「バンブーブレード」がアニメーション化もされて話題を呼んだ。

 スポーツではなく軍隊物にも応用可能。それをSFに引っ張った「銀河おさわがせ中隊」あたりを挙げつつ、幾らだって前例を並べられる。文化系のクラブでも政治でも企業物でも、あらゆる分野で弱者が良く強者を制する物語は成立し得るし、実際に書かれ描かれている。

 だからもはや無駄かというとそうではない。数多あるということはそれだけ人気ということ。支持を集めやすいという現れであり、数多あるバリエーションより面白さの要素を選び抜いて、究極の面白さを描き出すことが可能なのだ。

 第15回電撃小説大賞銀賞の蒼山サグ「ロウきゅーぶ!」(電撃文庫、570円)はだから、とてつもなく面白い物語に仕上がっている。スポーツ推薦で入学した高校のバスケットボール部が、先輩の“不祥事”で1年の休部に。もてあました時間を怠惰に過ごしていた長谷川昴という少年に、姉から誘いが入った。

 それは、姉が務める小学校の女子ミニバスケットボール部の臨時コーチという仕事。もちろん昴は逡巡した。なにしろ休部の理由がバスケ部のキャプテンと、顧問の小学生の娘との恋愛沙汰。それと同じような事態を招いてしまったら、部としての再帰は不可能になってしまう。そうはならなくても、周囲の目はやはり気になる。

 けれども、姉の頼みならばと1度だけは引き受けることにした昴。すでにバスケへの情念が冷えかけていただけに、最初の期間が終わればもう引き受けない気持ちでいた。そして出向いた小学校で、長谷川昴はとてつく目に麗しいものを見ることになる。

 ここで普通だったら、私屋カヲルの「こどものじかん」にも似て、妙な色気と幼さとを渾然とさせながら発する小学生の女子を相手に、高校生のコーチがドギマギしてしまう展開へと向かいつつ、ドタバタの中に話を持っていきがちになる。けれども「ロウキューブ!」は違っていた。当たり前を超えた熱情を、そこに現出させることに成功した。

 休部を食らった主人公の内心に生まれる葛藤は、自制となっていたずらな情動に歯止めをかけた。その結果、描き抜かれたのは、真剣でガチンコなバスケットボールのコーチングと、その目的としての圧倒的な戦力差を誇る男子バスケ部との対抗試合。「がんばれ! ベアーズ」に負けるどころか劣らず上回る、弱小チームの努力し、友情を交わし、勝利を掴むスポーツ青春ストーリーが、派手派手しくも繰り広げられることになった。

 5人しかいない部員たちの間にある、経験者だからこそのひたむきさと誘われ引っ張り込まれた程度の薄い気持ちを掴み、コントロールしながら1つのチームにまとめていく手腕は、組織を運営し、導く上でのメソッドとして有効そう。また、小学生ゆえに背の高さにコンプレックスを抱いている女子を、言葉たくみに半ば騙しつつ前向きに持っていき、特徴を最大限に生かしたプレーをさせるコーチングぶりも、心を持った人を相手にする上でいろいろと参考になる。

 決まった地点からの徹底したシュート練習によって必中の武器を得る。体力勝負になると見て切り札には後半にスパートをかけるように指示をする。相手が小学生だからといって、そして女子だからといって、中身はとてつもなく正統的なスポーツ物になっているところが、読んでいて劣情を誘いそうな大枠の中に核としてある、スポーツへの敬意を感じさせて読者を楽しませる。

 とはいえ、そこはビジュアル的にも愉快な作品。小学生の女子だからという訳では決してないものの、可愛らしい少女だからこそ成立し得る作戦というのも入れ込んでみせるところは一種のマリーシア、作戦的狡猾さと言えるものが見えて、これもまた楽しめる。もっとも、そうした作戦を一瞬で上書きして、スポーツに精進すると覚悟する相手の精神的な強さも併せて描かれているところに、ことスポーツに対して俗にならず、道具にもしたくない作者の意思が見て取れる。

 読めば感動して感涙しつつ、目にも潤いが与えられる物語。邪(よこしま)な気持ちを排除したところでも成立しえる、小学生女子が主役のスポーツストーリーがあるのだと教えられる。ならばそれが60代のお年寄りでも大丈夫かというと、それはまた別の話。ビジュアルはビジュアルであり、シチュエーションはシチュエーションとして目を引かせつつ、その奥にある強いドラマ性でもって覆い尽くすことによって生まれる感動。それが「ロウきゅーぶ!」の魅力なのだ!

 臨むならば実写でも見てみたいところ。これだけの中身がある物語だ。見に行く側に邪さがあると見透かされることなしに、スクリーンに描き出される躍動する選手達の姿を、あるいは尻餅をつく姿を堂々と味わえるはずだから。はずだから。


積ん読パラダイスへ戻る