ラプンツェル

 アンドロイド物の漫画で1番好きなのは、やっぱりゆうきまさみさんの「究極超人あーる」でしょうか。大学の時の友達に、あーる田中一郎とそっくりな奴がいて、学生服を着せて自転車「轟天号」に乗せて、キャンパス内を走り回らせたら面白いだろうなあ、などと思ったりもしましたが、いくら頼んでもやってくれませんでした。

 2番目はというとこれが難しい。西炯子さんの「三番町萩原屋の美人」にはご隠居が作った奥さんのアンドロイドが出て来ますが、最初のうちは結構大切なキャラクターだったのに(なにせ話の目的だったのですから)、最近はとんとお見限りです。志郎正宗さんの「攻殻機動隊」も木城ゆきとさんの「銃夢」も、アンドロイドではなくサイボーグ物ですからちょっと違います。内田善美さんの「草迷宮・草空間」に出てくる「ねこ」は、しゃべる市松人形ですから、全然アンドロイドではありません。

 道原かつみさんの「ジョーカーシリーズ」は、合成人間という1種のアンドロイドが主人公ですが、一皮むくと機械がいっぱいってイメージではありませんから、アンドロイド物に入れていいのか悩みます。でも大好きな作品です。とり・みきさんの「DAI−HONYA」に出てくるHAL子さん、人造人間キカイダー、新造人間キャシャーンっとこれはアニメか、とにかくみんなまとめて「2位グループ」に入れちゃいましょう。なんだか大切な作品を忘れているいようで居心地が悪いのですが、とにかくアンドロイド物はたいてい(ほとんど、絶対)SFなので、みんなみいんな大好きです。

 遠野一生さんの「ラプンツェル」(偕成社、880円)もアンドロイド物です。それも、死んでしまった恋人に似せて、そっくりのアンドロイドを作ってしまうという究極のアンドロイド物です。鉄腕アトムの昔より幾度となく使われ、数々の傑作と膨大な数の凡作(でも好きです)を残したパターンですが、美人で屈託のない主人公の鹿乃子ちゃんのキャラクターが、生まれながらに業を背負った哀しいアンドロイド、とか、歪んだ愛情を一身に受けて性格まで歪んでしまったアンドロイド、とかいったいわゆる「博士と娘型」アンドロイド物のなかにあって、一風変わった味を出していて好感が持てます。

 「ラプンツェル」というのは、高い塔に閉じこめられたまま美しく育った少女が、長い髪を窓辺から垂らして男性を迎え入れるというグリム童話に題をとった話です。遠野さんの「ラプンツェル」こと鹿乃子ちゃんも、父親(亭主?)の大学教授の研究室から、ベランダに出て長い髪を垂らしている姿を、学生の海(カイ)くんに見られてしまいます。

 実は海くん、子供のころに回覧板を届けた先で、ベランダで見た鹿乃子ちゃんとそっくりな女の人が、日向にねそべって日光浴をしていた姿を目撃しています。それから10年近くが経っていますから、本当だったら同じ人であるはずはないのですが、機械を手懐け、医者に診られるのを極度に畏れ、父親からは外にはもう出ない方が言われて機械類が並ぶ部屋へと連れ込まれるシーンを経過しながら、海くんはまだ気が付いていないけど、読んでいる人はだんだんと鹿乃子ちゃんがアンドロイドなんだと分かって来てしまいます。

 海くんと鹿乃子ちゃんが恋に墜ちるのもパターンでしょう。パターンですけれどもやっぱりそうなってこそ「博士と娘とその恋人型」アンドロイド物の王道です。博士と恋人の間で揺れ動き、挙げ句に選んだ哀しい運命にはジンと来ますが、そこから再び新しい「生命」が誕生し、因業ですがそうあって欲しいと願う結末には、やっぱりホッと、そしてホロッとさせられます。

 なによりも、というか「ラプンツェル」の最大の利点は、やっぱり主人公の鹿乃子ちゃんがとっても美人で可愛いくって性格が良いってことですね。まあアンドロイドなんだから美人で可愛いのは当たり前ですが、前記したように美人なのに歪んだ愛情を受けて性格が歪んでしまったアンドロイドって結構ありますから、そんな中にあって割と歪んだ父親の下で素直に育って、育ち過ぎちゃった鹿乃子ちゃんは、やっぱり貴重だと思います。

 あとがきによると連載時とはラストが違うようですが、いったいどのようなラストだったのでしょうか。ちょっと気になります。それから遠野さん、この「ラプンツェル」が最初の連載で最初の単行本だったって書いてますから、最新作の「双晶宮」までそれほど作品数がないんですね。でもどんどんとお話づくりが上手くなっていますし、絵柄もどんどんと緻密に、そして綺麗になっていっていますから、これから出て来るお話が、とてもとても楽しみです。

 またアンドロイド物、描いてみませんか。


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