ペルガモンズ・エンジェル!
PERGAMON’S ANGELS

 特撮の戦隊ヒーロー物でもアニメの合体ロボット物でも、メンバーはおしなべて「紅一点」が普通だったエンターテインメントの世界。その形が大きく変わったのが、いつからなのかはちょと定かではないけれど、記憶として強く残っている作品をあげるなら、やっぱり「美少女戦士セーラームーン」ということになる。

 大ヒットし、社会現象にまでなった作品だけに印象も強く残っているし、実際に状況を変える力にもなったのだろう。これ以降、「美少女戦隊物」というカテゴリーがエンターテインメントの中に確固たる地位を築き上げ、今に至っていると言ってそれほど大きくは間違っていないと思う。

 美少女戦隊物のなにがそんなに受けたのか、理由はさまざまあるんだろうけど、男女の双方に受けたのは、女の子には自分もかくありたいという憧れを与え、男の子には躍動する姿態への興奮を与えたから、と言ってこれもそれほど外れてはいまい。混迷を極めるこの国で、屹立し、社会を率い世界を導く素晴らしい男たちがイメージしにくくなったことも、あるいは理由にあるのかもしれない。

 実際、女性は強くなった。そして格好良くなった。高瀬美恵の「ペルガモンズ・エンジェル!」(角川ビーンズ文庫、495円)で”戦隊”を組む女性たちも、みな強過ぎて格好良すぎて、女もそうだし男だって惹かれ憧れる。

中心になるのが久遠絢子と いう少女。さる財閥のお嬢様、というよりは高齢の祖父に代わって財閥の総帥として活動している才媛だ。美人でお金持ち。さぞや男性からも引く手あまたなことだろうと思ったら、絢子は違っていた。

 当人には実はとてつもなく庶民的な結婚願望があって、洋裁学校に通っては卒業制作にウェディングドレスを作り、最愛の人の元に嫁ぐ日を夢見ていた。けれども夢はいつまでも現実にならず、卒業制作おドレスを作るとこれまで5回、見初めた相手に振られ続けて、今年もやっぱりひとり身のまま過ぎそうだった。

 そんなある日のこと、行きつけの喫茶店に現れた青年に一目惚れしてしまったことからひと騒動が持ち上がる。青年が東京まで出てきたのは、暮らしている村を東京からやって来た実業家と、村の神社の宮司がいっしょになって開発しようとしているのを、何とかして止めさせるためだった。

 加えてその羽根田晴高という名の実業家が、あまりのできの悪さに祖父から勘当されて家を出ている絢子の父親だったからたまらない。青年への燃える恋心に、父親へのわき上がる敵愾心を糧にして、絢子はかつて知ったる仲間たちを招集して、リゾート開発阻止へと立ち上がった。

 まず呼んだのが、稀代の女怪盗として名を馳せているレイナ・ヴィオレッタ。かつて屋敷に忍び込んで来たところを、絢子に落とし穴で捕まってしまったところから始まった腐れ縁で、絢子の命令に諾々として従っていた。そしてもうひとり呼んだのが、天才的な発明家として知られる円城寺美綱。屋敷に女性たちを侍らせ、日々奇妙な発明に勤しんでいる彼女に加わってもらって、まずは晴高が村から持ち出した、古い御神鏡の奪取を目指すことになる。

 鏡が盗まれないよう、近代的な装置とは別に謎の術が施されていると見るや、絢子ら一味は新たに京都より陰陽師の少女、立蔭雪乃を呼び寄せ仲間に引き入れる。それでも奪取に失敗したと見るや、総出で村へと乗り込んでいく「ペルガモンズ・エンジェル」たち。その行く先には、人間の暮らす世界とは異なった、別の世界との衝撃と緊張に満ちた邂逅が待ち受けていた。

 キャラクターひとりひとりの個性豊かな様が圧巻で、泥棒としては天才とも言える能力を持ちながら、どこかに遺漏があって絢子と美綱の双方から良いようにこき使われる、マゾっ気たっぷりな女怪盗レイナ・ヴィオレッタにしても、戦闘部隊から助手部隊から女性ばかりの手下を大量に従え、超小型の通信機だって高性能の飛行装置だって容易く作ってしまう、こちらはサドっ気のある美綱にしても、その存在感の強さには目を見張るものがある。

 これに、惚れっぽく直情的で大金持ちの絢子を加え、立てばひまわり座ればラフレシアといった赴きすらある女性たちが、華やかで毒々しいオーラをまき散らしながら繰り広げる冒険譚は、読む者に激しいカタルシスを与えてくれる。

 一途過ぎるが故に空回りもすることもある絢子を、脇に立って助ける喫茶店のマスター、ではあるもののその実いろいろ背景のありそうな青年、菱川嶺市も絡んで話はさまざまな可能性を伺わせる。単なるお人好しなのか、それとも裏があるのか。懲りない晴高の意図せざる謀略が、どう発展してはどう粉砕されるのかにも興味が及ぶ。

 後書きによれば、さらに2人ばかり、異常だったり奇妙だったりする仲間が出て来るとか。ルパン一家もキャッツアイもチャーリーズ・エンジェルもプレイガールもお呼びでなく、かのエンジェル隊でさえ顔負けしそうな面々の、世直し大騒動が今後も見られるだろうことを期待したい。次に加わるのはどんな”美少女戦士”なのか。アイドルが。外国人か。猫耳持ちか。あれやこれやと想像できる楽しさも、「美少女戦隊物」の人気の背景にあるのかもしれない。


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