おっさんたちの戦いはこれからだ!
勇者パーティーの初期メンバーだった商人は勇者を使い捨てた大国にブチギレました

 マーベルやDCに詳しい訳ではないけれど、生まれながらに超人的な能力を持っているとか、後天的に超人的な能力を授かったとかいったヒーローなり、ヴィランといった面々を見た時に、自分で稼いだお金でスーツを作りモービルを作ってヒーローとして活躍しようと頑張るバットマン=ブルース・ウェインやアイアンマン=トニー・スタークといった面々は、うらやましいと思っているのだろうか、それとも財力を土台に技術と人脈で自分を強くし、敵を追い詰めていく方がロジカルで確実だと考えているのだろうか。

 これは、“異世界転生俺TUEEE”と呼ばれるようなカテゴリーの作品にも当てはまることで、いきなり得た誰も届かない力で大活躍をしたところで、それを自分の栄誉だと思って誇れるのだろうか、それともいつか他人から授かったまやかしの力だと気づいて空しさに膝を折るのか。超人的な力、誰も叶わないような力を得て大活躍する楽しさはあるだろう。そういった物語を読んで痛快さにほくそ笑みたくなる気持ちも分かる。ただ、そうした話ばかりが溢れる中で強さのインフレーションを競ったり、逆に無能からの逆転を狙ったりする話に少し飽きているのも実際のところだ。

 そこに到来した、necodethによるネット小説大賞金賞受賞作「おっさんたちの戦いはこれからだ! 勇者パーティーの初期メンバーだった商人は勇者を使い捨てた大国にブチギレました」(宝島社、1200円)は、適切なプロセスを踏んで得た力を最大限に発揮し、チームワークも得て強大な敵と戦うといった展開がとてもロジカルで、読んでいて妙に納得感がある。タイトルがすべてを説明して待っているあたりとか、おっさんという流行りのタームを使っていたりするところに商売っ気も見えるけれど、読めば現代の企業小説に通じる地に足の着いた面白さがある。

 その中身はといえば、人生経験があって経済とか社会とか政治に関する知識があり、人脈も豊富な40歳の商人が、かつての仲間で少女に見えるけど20歳くらいらしい勇者の危機に立ち上がるというストーリー。まだ30歳くらいだった頃にその男、バラドが見かけた少女はヴェルクトという名で10歳くらいにしか見えなかったにも関わらず、人類を襲う魔王の軍勢を相手にとてつもない強さをを見せた。ただ財務はからっきしだったことから、バラドがマネジャーのようになって世話をしていっしょに魔王軍と戦う旅をしていたら、いつの間にかヴェルクトは勇者となり英雄となっていた。

 精鋭揃いと世界が称えるヴェルクトたちのパーティーに、戦うことには不向きで商売しか取り柄のないバラドは不要とされた。自分でもそのとおりと納得をしてバラドはパーティーを抜け、退き勇者といっしょに廻っていた時の人脈を生かして商売を始めて、世界でも有数の承認となって大成功をおさめる。その財力でヴェルクトたち勇者のパーティーにも新開発の武器を贈るなど支援していたけれど、世界的な企業のトップでも王族や貴族から見れば階級が違う相手。そう見くだす気持ちもあって、それが後に重大な事態を引き起こす。

 ヴェルクトたちの活躍でようやく魔王は倒される。ところが、その戦いでヴェルクトやパーティーの仲間の多くが死んでしまう。パーティーにいた王子メイシンとその配下の密偵アスラが裏切ってヴェルクトを動けなくし、聖女ターシャと魔剣士のイズマの命を奪おうとした。やがて伝わってきたヴェルクト死去の報を聞き、裏切りがあったかもしれないと察知したバラドは、ヴェルクトが倒されたという城へと向かい、メイシンによって地下に閉じ込められていたターシャとイズマを救い出し、事情を聞いてヴェルクトが甦る可能性にも気づき、遺体として保管されているヴェルクトの救出、そして裏切り者の討伐を画策する。

 宇宙の根源にある光と闇の代理戦争にもなっていく感じの戦いで、ただの商人でありながらもバラドが見せる強さがある意味で特徴的。誰かによって与えられた才能による無双ではなく、豊富な財力を生かし人脈も駆使して集めた材料で、魔力を駆使できる頑丈な鎧や武器を作り出し、勇者のパーティーメンバーでも驚くような魔術を発動させ強敵を倒していく。まるでバットマンやアイアンマンといったところ。理由もなく与えられた巨大な才能で敵を圧倒していく爽快さとは違った、段取りを踏んで強くなって敵を乗り越える通開催を味わえる。自分でももしかしたらといった期待も抱けるけれど、女神にチートな能力を与えられる以上に、大富豪になるのも大変だという話はこの際脇に置いておく。

 仲間たちがそろい、武器も手に入れ、外伝として示されたとてつもなく強いエルフも味方に引き入れてバラドたちが挑む戦いの行方は? 続きが出たら絶対に手に取りたい。


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