縮刷版2020年8月下旬号


【8月31日】 意欲は見せていたけれども所属する麻生派が菅義偉内閣官房長官の支持を決めたことから、河野太郎防衛相の自民党総裁選出馬は見送られたみたいで、これで菅官房長官の自民党総裁就任からの内閣総理大臣就任が決まったような雰囲気。党員の投票があればあるいはと見られている石破茂衆議院議員だけれど、それを阻止するために党員投票を経ないで総裁を選出するような流れになりそうな雰囲気もあって、やっぱり菅官房長官が安倍晋三総理大臣の第1次の時みたいに、官房長官からの総理就任ってことになるんだろう。そういう風にできている。

 まあ官房長官しかやっていなかった安倍総理に比べれば、総務大臣も経験をして官房長官として長く勤め上げた経験もあるから実務に関しては間違いはなさそう。総理の鏡であり内閣のスポークスマンとしてうわべと口先はカーボンコピーのような態度を続けてきたけれど、その枷が外れればそれなりに自分の考えを政策に乗せてくれると思いたい。中身ががらんどうの総理を支えるふりをして、取り巻きが自分のやりたいことを実行していった時代のようにはいかないと思いたいけれど、突出すれば引っこ抜かれるなりたたきつぶされる場所だけに、すぐには変わらないかもしれないなあ。

 前にも触れたけれどもNHK広島放送局が「広島タイムライン」という企画で過去の日記や証言を現代になぞらえツイートして差別的だと問題になった件で、藤津亮太さんが「この世界の片隅に」におけるすずさんの加害者責任を吐露する場面を引き合いに、「だからすずの『自覚』は、その変化を象徴的に描いた極めてフィクショナルなものということができる」と書いている。当時の人が敗戦の言葉を聞いたからといってすぐに加害者だったと意識できはしない。そこは翻る太極旗も交え後世の人が読んでいることも含めて加害者意識をセリフに乗せて語らせた。

 そうしたフィクション性について「だがこの『自覚』が作中に示されないと、すずの人生における戦争の意味を描いたことにはならない。『当時を生きる人の生の声』を尊重しつつ、当時の価値観から距離を取っていかに戦争を位置づけるか、という難問に対する本作の回答が、8月15日の描写に集約されているのである」と藤津さん。然り。僕もちょっと前、この一件を知って、戦前から戦中戦後に情勢されただろう意識の文脈を、一瞬の表現にこめて加害者意識を感じさせるフィクションならではの効果を狙った「この世界の片隅に」と、昭和20年8月15日というその瞬間の戦争における加害者としての意識の希薄さを、ツイッターという固定化され拡散されるメディアの上で展開してしまったのが問題だったと思った。

 そうした先例がありつつ無策で突っ走った「広島タイムライン」の問題は、脇が甘かったのかもしれないけれども一方で、企画した人の中にそうした声を何のオブラートにも包まずフィクションの中に埋没させないで喧伝しても、問題なんて起こらないくらいに彼の国への反感が、渦巻いていたのかもしれない。この10年に起こった心理的な変化は今、すっかりと根付いて世の中を動かしつつある。政治家もそうした意識を無視できなくなっているからなあ。かといって反発して無視して務まる国際情勢でもないだけに、舵取りが難しそう。菅義偉新総理(予定)はどういう態度で臨むのか。見守りたい。

 9年ぶりかあ、って驚くかというと18年ぶりの新刊が出た「スレイヤーズ!」の例もあるから期間だけなら驚きではないけれど、もうずっと書いていない谷川流さんが250ページも書き下ろすということはやっぱり驚きで、それが実現するからこその発表となったんだろうと11月25日の「涼宮ハルヒの直感」発売を今は信じて待つしか無い。下の名前が相変わらず分からない鶴屋さんが何か企みを巡らせているようで、読むだけでも楽しそうだけれどのあの賑やかで可愛らしい鶴屋さんの動く姿と話す声を見たり聞いたりしてみたい。だったらやっぱりアニメ化して欲しいところだけれど、今の状況で叶うとも思えないのが寂しいなあ。どうなることやら。

 仲村つばきさんの「ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女」(集英社オレンジ文庫)を読む。3人でも王の直系なら王になるという習慣がある国で、まず兄が王についてそして妹も女王になったけれども決して関係が良好という訳でもない感じ。いずれ弟も王になるような状況で、真ん中のベアトリスを引き込んだ方が勢力を伸ばせる状況で王杖すなわち配偶者を双方から出そうとしているものの、受けないベアトリスは着々と勢力拡大を行っている。祖母から受け継いだ武器を隠しつつ海外の勢力を援助して伸ばしていった勢力が、兄なり弟とぶつかって内覧が起こるのか。続く展開に期待。


【8月30日】 燃え尽きちまってはいかんだろう、とは思ったもののとりあえずの終焉を示すには「あしたのジョー」のラストシーンは絶好なアイコンなのだろう。リアルタイムで見ていたもはや70代に及んでいる世代からアニメを見て原作も知っているその下の世代あたりまでなら、「としまえん」の閉園に燃え尽きた矢吹丈の姿を重ねて涙できる。ただ今の10代20代がどうかというとそこはちょっと分からない。20代だって印象としては知っていてもグッとくるかというとそこも判断がつかない。

 そういう意味では読んでいるのが50代60代70代に上がっていありするオールドなメディアの新聞に、「としまえん」閉園を知らせる全面広告を出したというのも正しい判断なのかもしれない。テレビでこれをやられても今の若い人たちが何を思うか。いやいやもはやテレビですら見ているのは40代とか50台とか。10代や20代はYoutubeでユーチューバーを見たり配信でアニメや番組を見たりしているから、放送されても気が付かなかったりするのかも。

 LiveWireでの「新世代ミステリ作家探訪」で第3回目として「楽園とは探偵の不在なり」(早川書房)が評判で綾辻行人さんも読んで書簡をツイートしていた斜線堂有紀さんが登壇。若林踏さんとのトークに臨んだのでZoomを通して見物する。デビュー作の「キネマ探偵カレイドミステリー」から追いかけてはきたけれど、初期のキャラクター文芸的で得意分野ミステリ的なフォーマットからだんだんと離れ、「私が大好きな小説家を殺すまで」で桜庭一樹さん的文芸要素を垣間見せ、「夏の終わりに君が死ねば完璧だったから」でSF要素をのぞかせた。

 そして「死体埋め部の悔恨と青春」で異常シチュエーションでの謎解きをまず提示。そして「詐欺師は天使の顔をして」で特殊状況下でのミステリという、西澤保彦さんの頃からSF好きにも受ける要素を取り入れたりして、どんどんと読者を広げて来た。その成果と言えそうな「楽園とは探偵の不在なり」では2人殺せば天使によって地獄に引きずり込まれるようになった世界で起こる連続殺人という、これまら特殊設定のミステリを発表。中に魅力的な探偵事務所の姿を描きつつ、探偵とは何かを問うてメタとしてもリアルとしても響くストーリーを紡ぎあげた。

 そんな斜線堂さんがどんな人かは個人的には電撃大賞のパーティで見かけたり、文学フリマで通りすがったりして知ってはいたけど、改めて世に問われた姿は明快な口調でメフィストとファウストと佐藤友哉とスティーブン・キングと舞城王太郎とアイマスについて語る美人さん。要素盛りすぎなくらいのキャラクターだっただけに、これで個人的に求めている「任意の賞」でとればより広く世間に存在が広まるような気がする。どうだろう。

 いろいろと話していたけれど、面白かったのは執筆に関して集中するための方法で、まず15分、時間を計って集中して書いて、「正」の字を1本書いていく積み重ねでゾーンに入っていくんだとか。そうやって小説を書くようにしていけば長いものでも書いていけるようになるのかな。あとは毎日300文字でも書くとスイッチが入りやすくなるとか。熱を出して寝込んで休むとゲームにはまってしまって抜け出すのが大変だったとか。「もじぴったん」とか。そこから脱していろいろ書いてネットでも連載とかして豊富なキャラクターと世界観を用意して、漫画原作も手掛けてそしてシナリオなんかも書いたりできる才能が、次に送り出す世界が楽しみ。

 Netflixで「富豪刑事」の新しいところのエピソードを2話続けて。大金持ちが金の力であらゆる事件を解決していくという糸口は筒井康隆さんの原作といっしょでも、途中からそんな財力でも及ばない闇が見え始め、そこに関係して同僚の大先輩の刑事が追っていた事件とも絡まってきてとてつもなく大きな謀略が見えて来る。それは日本の暗部にまで及びそうだけれど、神部大介という御曹司では権限の及ばないところがあって迫れそうにもない。かといって祖母が手助けしてくれる補償もない。あるならそもそも大介の父母は殺されも自殺させられもしなかっただろう。そうした闇を描きつつ大金で解決するカタルシスを味わわせてくれるようなシナリオをどう描くか。見守りたい。


【8月29日】 安倍晋三内閣総理大臣が打ち立てた2798日という佐藤栄作総理が持っていた記録を上回る在任期間が近く打ち止めになることが確定したけれど、今後もし誰かがこの記録を破るとしたらやっぱり将棋の藤井聡太王位・棋聖しかないような気がする。最年少でのプロ棋士四段を成し遂げ他にも多々、最年少記録を打ち立てつつ連勝記録も達成した将棋界のプリンスが、政界に転じて国会議員となって早々に総理大臣に指名されてそこから8年9年と任期を勤め上げることによって、記録ずくめの人生にまたひとつ、記録を加えることになるに違いない。っていうか他に誰かいるかというと、以内からなあ初でも期間でも。

 いやいや初なら日本の憲政史上で初の女性総理大臣という可能性があるか。その列に出て来たのが稲田朋美議員。このタイミングでの朝日新聞での記事掲載に、将来を考えてのプッシュなのかといった思いも浮かぶ。シングルマザーの苦境を見て夫婦別姓にも理解を示すようになったといった話らしいけれど、全文が読めないで詳細は不明。女性に理解があるという点は、初の女性首相を目指す上で大きなアピールポイントにはなるだろう。同列に並ぶのは野田聖子議員であり、小池百合子東京都知事といったところだけれど、自民党から離れた小池都知事が国政に復帰して総理まで至る道はまだ遠い。先に野田議員なり稲田議員の方が首相の座に手が届きそうな感じではある。

 ただ、そうした貧困問題とか性差別の問題に理解を示す一方で、歴史認識においては従前のものが変わってないならこれは厄介。A級戦犯への理解なんかは国際政治の場でいろいろと揉めそうだけれど、南京事件に関して百人切りは虚偽だと言っても南京事件そのものは幻とは言ってなさそうなのと、A級戦犯への理解もあの体制の中で時の指導者だったからこその戦犯扱いだといった認識は、考慮する余地はないでもない。映画「靖国 YASUKUNI」での訴訟も政治的なメッセージが強い映画に助成するのはいかがなものかといった論調で、反日的だからといった論旨は巧みに避けている。

 表現規制には前向きで、経済政策が財政再建派で今のこの苦難にあって真逆なのは困るけれど、夫婦別姓やLGBTといった問題には理解を見せてと決して完全無欠なライトウイングといった感じではないあたりが、杉田水脈議員とは一線を画している感じ。でなければ防衛相にはなれないし、自民党の幹事長代行というそれなりの役職だって務まらないだろう。支持は得つつ間口を広げて多くを取り込むことに成功すれば、或いはと言った可能性も浮かぶけど、どっちつかずと見なされ双方から批判されれば逆効果でもあるだけに難しい。その意味でのメディア対応なのかもしれない。果たして。

 そんな将来を見ての記事とは対照的に、安倍総理の応援団として名高い新聞の1面コラムは安倍総理の全面擁護で、どうでもいい「桜を見る会」問題で終日叩かれれば体調も悪化するよと同情し、総理が世界の指導者が使っていると改めて訴えたプロンプターを「現代版カンニングペーパー」と言って台無しにしている。「桜を見る会」の問題は総理大臣がその職務権限で地元の有力者を接待したという公職選挙法に関わる問題で蔑ろに出来ないし、プロンプターは使って当然といった総理の良い訳をひっくり返したもの。挙げ句に、最後は桂太郎のように3度目もあるよと応援しているのは、やっぱり安倍総理でないと得られない何かがあるからか。大好きなんだなあ。それだけに退任後の行方が気になる。沈むか浮かぶか。

 家にいたら暑さで参るので柏まで出てキネマ旬報シアターで「千年女優」をレイトで見ることにする。先だってザムザ阿佐ヶ谷で見たばかりだけれど劇場は久々か。映画が見たいこともあるけど見にきている人が見たいのかもしれない。今どういう人に関心を持たれているかを体感するために。ロビーにはキネマ旬報の記事スクラップ。「お好きなのは私よくご存じで」は社長が緊張のあまりに相手への敬語と自分の紹介がごっちゃになった表れで、自分に敬語を使っている訳じゃないんだがなあ。

 そして見終わって見渡すとそれなりの入り。若い人もいて女性も結構射たりして、往事のアニメ映画といえばやっぱり男性中心だった時代から様変わり。往事だって別にコアなアニメ好きの男性をメインターゲットにしていた訳ではないけれど、そういう層がまず見るところからスタジオジブリ作品以外のアニメ映画は始まっていたところがあったから仕方が無い。これが細田守監督の「おおかみこどもの雨と雪」あたりから変わってきて、女性向けのアニメ映画も出てきて広がっていったって感じかなあ。

 今だからあるいは今敏監督作品が作られ公開されていたら、ヒットだってしたかもしれないけれど、新海誠監督の大人でも見られる普通のストーリー「言の葉の庭」だって決して大ヒットした訳ではないからそこはやっぱり甘いのかもしれない。2019年にわんさか公開されたアニメ映画でシリーズものではない作品で10億円超えたのって「天気の子」を別格にすれば「プロメア」くらいだったかなあ。そういう中でも存在感は示せたかもと、今敏監督の4作品をぜんぶ封切りで見ている身としては思うのだった。


【8月28日】 大坂なおみ選手がテニスのウエスタン・アンド・サザン・オープンの準決勝を棄権すると言ったことで、持ち上がった喧騒だったけれどもその大会が大坂なおみ選手の行動に同調する形で、黒人に対して警察官が厳しい態度で出まくっている状況に対し抗議の意味をこめて大会を延期したことで、大坂なおみ選手は以後も出場することを決めたとか。棄権をした時のあの言説は何だったんだとその態度を批判する声も出そうだけれど、自分のスタンスを大会側が認めてくれたことへの敬意もあり、また言いたいことが伝わっていると理解しての棄権撤回だから、態度が翻ったとは言えないし、むしろ貫き通しているとも言えるんじゃないかな。

 NBAでもボイコットの動きにリーグが呼応して試合を休んだりしていて、広がっている協調と共感の輪。これを見ずして選手個人の心情に話を帰結させようとするから、日刊スポーツで棄権が理解不能と書いた記者のような人が出てくる。とりわけ周囲への忖度を是とする空気の中で、食べて来た人にとって常在戦場な中に生きるアメリカの黒人の心情は、なかなか理解が及ばないのかもしれない。これでMLBで日本人選手が差別を受けるような事態も生まれれば、考えも変わるのかもしれない。どうだろう。

 安倍晋三内閣総理大臣が辞任を表明。もしかしたら辞任するかもということで予定稿を依頼された学者の人がいたけれど、予定稿だからと言い訳をしてたらそれが本当になってしまった。使われたとしたら予定稿だったって世間にバレバレ。それとも会見を聞いて書き直したんだろうか。全部プロンプターに頼っての予定稿総理だとかいった感じに書いていたら、今回の会見ではプロンプターなしでしゃべっていたから外したってことになりそう。  というかちょっと驚いた。それなりに含意のあることはしゃべっていたけれど、聞かれて困ることは割と定型。その辺りは国会での答弁で慣れたものなのかもしれない。まあ、聞かれたって次の総理には誰が良いかなんて答えるはずもないのに、記者さんたちはそれを書かなきゃいけないからやっぱりいっぱい聞いていた。そうした中で、幹事社とか内閣記者会に所属ではない人にも質問して言いとなった時、まっさきに当てられた江川紹子さんが、「新型コロナの感染者情報のDBで把握できないといったこともある。対策の基本なのに。あと10万円の給付でも手作業で行った自治体があった。日本がいかにIT後進国かが露呈した。安倍総理はITと言ってたのに世界の後塵を拝している。これってどうよ」と尋ねてちょっと異彩を放ってた。

 答えて安倍総理。「江川さんのおっしゃる通り」と名前を言いつつ「日本の状況、IT分野の課題は明らかになった。課題はあるが官は役所ごとにシステム違いがある。自治体ごとにも違う。課題が明らかになったので、大臣を中心に進めたい。個人情報の保護対応が自治体ごとに違う課題もあるが、課題を乗り越えていく必要性は共有している」と話してくれた。「次のリーダーが取り組んでいく私もがんばる」とも。台湾のオードリー・タンみたいな人を出してと聞いて、それが誰か分かって答えてくれたら嬉しかったけど、そういう聞かれ方はされなかったな。ちょっと惜しかった。

 それからビデオニュース神保哲生さんが「安倍政権は非常に徹底したメディア対策を行った。個別メディアに1本づりで出る、質問をまとめ記者会見でそこしか当てない。総理の指示か」と聞いていたけど、これはちょっとはぐらかした感じの安倍総理。「幹事社から受けるのが安倍政権の特徴ではない。前から同じ。正確性をしないといけないので質問は想定で作っている」と。想定じゃなく提出させていることは分かっているのに。とはいえプロンプターなしで受け答えしている様を見せ、「今日はこうやって答えている」と話されると、事前に質問がなくても大丈夫だと証明できてしまう。あるいはそういう質問を想定してプロンプターなしを貫いたのか。

 メディアを選んでいる点は、「どうやって出演するかは時々の政権が判断すること。良いか悪いかはそれぞれの判断」と安倍総理。いやいや明らかに選んでいるでしょって思うけど、重ねて突っ込めないところがやっぱり記者会見のまずさかなあ。アメリカだったらこの質問を受けて別の記者が畳みかけるんだけれど、日本ではそういう連携はなし。とはいえ、続いた西日本新聞の川口記者が「森友学園加計学園学園桜を見る会。政権の私物化への批判はどう思う」と突っ込んだのはナイス。安倍総理は「政権私物化はあってはならない。私物化したつもりはない。国家国民のために全力を尽くした。説明した。説明ぶりに反省すべき点はある。誤解を受けたなら反省したい」と言っていたけど、どうだかねえって誰もが突っ込みそう。

 最後は報知新聞の奥津記者が「東京五輪やパラリンピックはどうする」と、それまで誰も聞かなかったことを聞いてくれた。ナイス。安倍総理は「世界のアスリートが万全のコンディションでプレーを行い観客にも安全で安心な大会をしたい。IOCなど緊密な連携をしながら開催国として責任を果たしていく」と言っていたけど、万全でなければやならいという余地も残しているからやっぱり無理かもしれない。「次のリーダーもそのために全力を果たす」と丸投げされた次の総理、ちょっと大変かも。

 このご時世に女子サッカーでプロリーグを立ち上げだなんて無茶だろうと思っていたけれど、そんなWEリーグのチェア=代表理事に就任する岡島喜久子さんという人の経歴を見て、これはもしかしたら成功へと向かう可能性もあるのかもと思えてきた。まだ日本で女子サッカーが始まった黎明期にクラブチームで全国制覇を成し遂げ、そして代表にも選ばれつつその後に日本女子サッカー連盟で理事に就任し、代表の面倒を見る仕事にも従事した。一方で国際金融の場に入りさらには証券会社でファンドマネジャー相手に債権だとか株式を営業する仕事をして人脈を広げ、後にアメリカに渡ってそちらで長く仕事を続けていた。

 そんな経歴の持ち主が、改めて引っ張られて就いたのだから国際性は十分で、なおかつお金に関しても経験はたっぷり。何よりしっかり日本の女子サッカーの歴史もつかみ苦衷も知りつつこれからどうしようかといったビジョンも持っているなら、立ち上がるWEリーグのためになることを、やってくれると信じたいし信じるしかない。とはいえやっぱり傘下できるチームが果たしてどれだけあるかは謎めくところ。スタジアムを用意できず出来ても観客なんて動員できるか分からない。そうした現場と理想とのギャップをどう埋めるか。どちらの側に立って進めていくか。見守りたい。


【8月27日】 花澤香菜さんに宮野真守さんに櫻井孝宏さんとはまた超メジャーどころをずらりと並べたもんだと驚いた「羅小黒戦記」の日本語吹き替え版が公開決定。サブタイトルとしてついた「ぼくが選ぶ未来」の意味が今ひとつ分からないけれど、つかないと前の中国語版『羅小黒戦記』と区別がつかなくなるから、こうして違う映画なんだということを了解させようとしているのかも。

 最近の花澤さんはよりアダルティな方向に行ったりもしているので、子供を演じるのは意外でそれなら得意な人もいろいろといそうな気もするし、宮野さん櫻井さんでなくても観客は来そうな気もするけれど、それでもビッグネームを並べたのは縁起への信頼もあるし、浮かぶイメージの確かさもあるのかもしれない。櫻井孝宏さんが鈴村健一さんだったら違うイメージもわいたかもしれないけれど。それにしてもアニプレックス、頑張っているなあ。見に行こう。

  テニスのウェスタン&サザン・オープンで準決勝まで進んでいた大坂なおみ選手が、試合を棄権すると発表していろいろと話題になっている。理由は、ウィスコンシン州のケノーシャで黒人男性のジェイコブ・ブレイク氏が背後から警察官に7発も発砲された事件を含め、ここ最近続く米国内での黒人差別問題に対する抗議とのこと。「私はアスリートになる前は黒人女性です。また、黒人女性としては、テニスをしているのを見るよりも、すぐに気をつけなければならない重要な事柄があるように感じます」とツイートに文章を載せて、今はテニスをプレーする時ではないといった心情を吐露している。

 決して突出した行動ではないと見られているようで、男子テニスで大会を勝ち上がっているミロシュ・ラオニッチ選手も大会の棄権を検討したり、元男子世界1位のアンディ・マリー選手とか、女子世界60位のアリゼ・コルネ選手が強い支持を表明。テニス界の多くの選手が抗議活動に同調する姿勢を見せたとかで、事の重大さに対する認識をアスリートたちが共通に持っていることが伺える。

 すごいのは大会自体も8月27日の全試合を中止するという声明を発表したこと。「スポーツとしてのテニスは、米国で再び表面化している人種差別や社会的不公平に、一丸となって取り組みます」と表明したそうで、起こっている事態に対して集団として抗議する意思を見せている。同じ事はプロバスケットボールのNBAでも起こっているようで、ウィスコンシン州のミルウォーキーの本拠地を置くバックスが、プレーオフでの試合をボイコット。これを受けてNBAでも試合を延期した。

 バックス側が言うには「これまでも変化を求めて行動してきたにもかかわらず何のアクションも見られないことから、今日バスケットボールの試合に集中することはできないと判断した」とのこと。抗議しボイコットすることによって、何かしらのマイナスが出ればそれは非道な行いへの反意なのだから、損したくなければ改善に向けて動けといった意思ととられる可能性はある。そういう部分も皆無とは言い切れないけれど、こうして社会が揺れ動いている状況の中、アスリートとして満足なプレーが出来ないというのならやならい方が良いという判断も働いたのだろう。

 大坂なおみ選手もだから、揺れる心情の中でプレーはできないという判断からの抗議でありボイコトッとであると思うのが筋なのに、日刊スポーツの「典型的な日本人のテニス担当おじさん記者」が「ない知恵を絞って考えて」みた記事によると、何か違和感があるということらしい。すなわち「勝ち進んでの棄権では、直前の準々決勝で敗れたコンタベイトはどう感じるだろうか」。どう感じるも負けたんだからそれだけのことだろう。

 あまつさえ「故障や病気で棄権するなら、負けた方も納得は行くだろう」と書いてコンタベイト選手が大坂なおみの決断に無理解なような憶測を並べ立てる。個人の故障や病気でなく、社会の重症で重体に心身を痛めての棄権はコンタベイト選手にとっても他人事ではないだろう。だからこそむしろ同意できる可能性もあるのに、利己的な人間のように書いて貶める。

 「多くの人が大坂を支える。家族、親友、ファン、スポンサー、マネジメント会社、大会、ツアー、ライバル選手、そしてメディアなど、数え上げたらきりがない」ってそうした家族や親友やファンも含めて、大坂なおみ選手が抗議を表明した事態に批判的だと思っているのか。選手がベストな心身状態で戦えない状況にあることを、スポンサーが咎め出ろというならそんなスポンサーこと必要ない。何しろ大会が抗議の意味から試合を延期したのだから、スポンサーだって抗議のボイコットを批判なんてできないだろう。

 それだけ社会全体が頭を痛め苦しんでいる問題を、個人のわがままに帰結させて語り違和感を表明する記者の「少しは理解し、許してくれないだろうか」という言葉の文字通りの「甘さ」に心が痛む。これが日本のおじさんんの一般的な心境なのだろうか、それとも大坂なおみ選手が「考えるきかっけ」にして欲しいと言ったことから考えてこれだけのことしか言えない個人のポン酢ぶりなのだろうか。やれやれだ。

 しかしこちらも愚劣というか拙劣というか。イギリスにいて日本人的言説を尊んでライティな人たちの喝采を浴びている人が、大坂なおみ選手の行動に対して「自称黒人」と言いつつ「自身を黒人と認識するなら黒人的な名前に改変し、アフリカ系企業をスポンサーにつけた方が黒人女性の地位向上や広報に効果的」だなんて言っているけど自称もなにも黒人の血が入っているから黒人だし日本国籍を選んだことと黒人であることは関係ない。

 日本名を名乗っていることも人種として黒人とは関係のない話だし、そ黒人が日本企業をスポンサーにつけてはいけないという話もない。というか黒人的な名前って何だ。黒人はアフリカ系企業しかスポンサーにつけられないのか。黒人女性の地位向上は日本国籍の日本名を持った日本企業がスポンサーについた状態からでもできるしむしろ広く伝わるし影響力だって発揮できるだろうに。こういう「日本人」をカテゴライズして外国の厳しさを経験談として添え、日本の良さを語る方が日本では受けが良いって分かっているんだろうなあ。日本で日本の良さを語る外国人と表裏一体な受け方。やれやれだ。


【8月26日】 これも時代、という言葉でおさめていいのかどうなのか。伝統あるベルリン国際映画祭が最優秀男優賞、最優秀女優賞といった賞をやめて最優秀主演賞、最優秀助演賞を創設するとか。賞の数は変わらないから良いものの、主演という立場で男性女性がともに1人づつ立てていたのが1人だけになってしまうのは競争として厳しいのかどうか。逆に助演にもスポットがあたって嬉しいのかどうか。そういった部分も気になるし、やっぱり意識として大勢を占めているヘテロな状況を、一気に変えてしまってどういったリアクションが考えられるのか。ちょっと検討してみたくなる。

 同様なことが他でも進むかどうかも気になるところだけれど、これがアカデミー賞だったら主演助演で俳優女優の4つあったのが統合されて、最優秀主演と最優秀助演賞の2つになってしまったらやっぱり出演者として厳しいかも。かといって、どちらでもない賞を新たに設けるのも、そうした属性の人たちをカテゴライズしているようで開放を意識する方向性から逆を向く。黒人の授賞が少ないからって最優秀黒人俳優賞なんて作れるものでもなし。やるならベルリン方式だし、やらないなら現状維持ってことになるんだろうか。追随があるかも含め見守りたい。

 こうなるといずれ紅白歌合戦というのも開催が難しくなるんだろうなあ。というか海外で男性女性を分けて出演させているような番組ってものがあるかが気になる。バンドのようにボーカルが女性でもリーダーが男性だったりするような場合、紅組になるのかそれとも男性多数なら白組にするのか難しい判断が行われていたりする。そこにジェンダーの問題セクシャリティの問題が絡んでくると検討が余計に必要になってくる。だったら変わりにどうするか、ってところで東と西で分けて東西歌合戦にするのもなあ、東京を控えた東が圧倒的な気もするし。

 「うる星やつら」のアニメーションでサクラさんを演じた声優が鷲尾真知子さんで、元々女優で後に「大奥」とか「澪つくし」といったテレビドラマにも出演してその姿を見せてくれていることは半ば常識だと思っていたけれど、デイリースポーツがNHKに出演した鷲尾さんを紹介する記事で「フジテレビ系ドラマ『大奥』シリーズなどで知られる女優の鷲尾真知子が25日、NHK総合『ごごナマ』に出演し、実はアニメ『うる星やつら』に声優として出演していたことを明かした」と書いたことで世間では常識ではなかったんだといった驚きが広がっている感じ。

 明かさずとも実はと付けずとも当然の事実と思っていたけど、今の若い人だとそもそもアニメの「うる星やつら」を見たことがなかったり、見ても押井守監督の「ビューティフルドリーマー」ぐらいだったりで気がついておらず、指摘されて改めて気がついたのかもしれない。個人的にはその前の「プリンプリン物語」でワット博士を演じていたことが出会いだったかもしれないけれど、石川ひとみさんやつボイノリオさんの方が目立っていたから名前も含めて気がついていたかは定かじゃない。いずれにしてもこうして昔の声優での活躍が注目されるなら、「仲間由紀恵は実は『HAUNTEDじゃんくしょん』に声優として出演し主題歌も歌っていたことを明かした」なんて記事が出て、BDならずともDVDくらいは出して欲しいもの。中嶋敦子さんが描く花子さんが最高に可愛いアニメなんだよ。

 開催されなかった東京アニメアワードフェスティバル2020で選考は行われたコンペティションの長編アニメーション部門でグランプリとなった「マロナの幻想的な物語り」がいよいよ日本で公開されるみたい。とても見たい気はあるものの、捨てられて小突き回されながら少しの幸せを探す犬のストーリーは、今の境遇からすると去年の「JOKER」みたいにメンタルを持って行かれそうな気がするので、今は見送って評判が出回るのを待ちたい。日本語吹き替え版なら多少は陰気な雰囲気も低減されるかなあ。絵的には「ズドラーストヴィチェ」の幸洋子さんに通じる自在さがあるんだよなあ。見たいなあ。

 つらつらとスタジオディーン版「Fate/stay night」を1話からNetflixでつらつらと見ていく。途中までは「Unlimited Blade Works」と似通っているけれどもアーチャー中心に進む「UBW」とは違ってセイバーが中心の無印では、衛宮士郎との関係が中心になってセイバーの可愛らしさをいっぱい楽しめる。あとはやっぱりオープニングの「dis illusion」が格好いいなあ、手を上げてポーズを決める遠坂凛の凜々しさも含めて抜群のオープニング。あとセイバー対ライダーの戦いも。原画集が発掘されたので読みながら見て行こう。


【8月25日】 絶対城阿頼耶先輩は無礼だったけれど、こちらは慇懃な峰守ひろかずさんによる新シリーズ「学芸員・西紋寺唱真の呪術蒐集録」(メディアワークス文庫)に登場する西紋寺唱真という青年。博物館の学芸員をしているけれどもなぜか呪いに関する物を集めて自分自身に呪いをかけてみろと言い放つ。ターゲットは大学生で学芸員資格の実習で、唱真が働くアンティーク博物館にやってきた宇河美琴。会うなりその夜に来て近所の神社に丑の刻参りをしろと言われ、高下駄に白装束に金輪もつけて蝋燭を灯す本格的な出で立ちで神社に行くようになると先客に出会った。

 そして繰り広げられる呪いに関する講釈では、無くなった老女が触れていたという呪いの人形は、飾っていたという大量の幽霊がの真相がその出自と共に明らかにされ、唱真が前につとめていた国立の博物館で展示されることになった鬼の頭蓋骨が原因と見られる呪いによって近寄った人たちの気分が悪くなる事件についての謎解きもあってと、オカルトに見える状況に民俗学的な解釈とそして科学的な究明が及ぶ博物ミステリとなっている。

 そんな完璧に見える唱真に及んだ呪いの魔の手。かつて自身が病弱だった折に現れた謎めいた祈祷師か誰かによって胸に晴明紋を描かれそして体が元気になった一件が、逆に復活したかのような事態にやっぱり呪いはあるのかといった思いが浮かぶ。けれども「この世に不思議なことなんてないのです」の理どおりに、謎が解き明かされたその先にもっと凄みのある不可思議な状況が浮かび上がる。そもそも唱真の体が良くなった理由が説明されていない。それも含めて残った謎、そしてこれから現れる事件に唱真と、助手めいた立場になった美琴が挑んでいく物語が期待できそう。絶対城との対決なんかもあるのかなあ。期待して待とう。

 親不知を抜いた後の検査が半端な時間になったので、三鷹行きは断念してネット会議録の取りまとめを進めつつ柏のキネマ旬報シアターで「PERFECT BLUE」」を見ることにする。4週連続で「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」「パプリカ」を上映していく流れで今敏監督の10年の歩みを1か月の間に一気に振り返られる最高の機会。1日で全部といった企画もあるけれど、かみしめつつ感じつつ考えながら1作1作、見ていくことが出来るという意味では最高のプログラムかもしれない。ちなみに場内には「キネ旬」での今敏監督インタビューの記事なりレビューが、それぞれの作品ごとに貼ってあった。読みに来るだけでも貴重かも。

 でもって「PERFECT BLUE」は何度見ても完璧なシナリオ、完璧な構成、そして完璧な演技に完璧なセリフでもって作られた完璧なアニメーション映画といった感じ。アイドルイベントとそれから抜けた早々を短く切り替えながらつないでいって変化を徐々に分からせつつ逡巡と葛藤も描きつつ、希望も入れようとしてところでつきつけられる恐怖。何かが起こっているけど止まれない状況で渦中へと飛び込んで行かざるを得ない不安が霧越未麻をとらえ、それを観る人も一緒になって感じていく。

 昨日見た「千年女優」でも感じたシーンを同じスピードでつなぎアクションが続いているように見せる手法は「PERFECT BLUE」から使われていたんだなあと再確認。あと現実が芝居に切り替わるシームレスなつなぎも「千年女優」に受け継がれていた感じ。好きなんだなあ、こういうのが。それをばっちりのタイミングで描いているからズンズンと心に入ってくる。いったいどうやって編集したんだろう。計算だけではない心理をも操作するその感性。素晴らしい。

 コマをつないで絵を描いてページをめくらせても漫画は読み手に時間を使う権限がある。映像は作り手の意思が反映される。それだけに観客がずれを感じると気になって仕方が無いものだけれど、そういう意識をまるで覚えさせない巧さがこの頃から既にあったんだなあ。映画を観まくって体に染みつかせたものなのだろうか。今監督があげた100本の映画をやっぱり全部見るしかないのかなあ。何かの役に立てるというより自分の意識を埋めるためにも。

 決して新海誠監督のような細部にまで及ぶような緻密さがある分けじゃないけれど、それと感じさせる背景の上に狂いのないひょじょうを持ったキャラクターが人間のそれのようにしっかりと動く。アイドルはアイドルのように謳い踊るしオタクはそんな感じに歩くし女優や俳優は毅然としてるしテレビ関係者はうさんくさい。姿勢や動きも含めてキャラクターを作り配置して世界をリアルに見せつつそこからふっと虚像に引き込みそちらもリアルと感じさせる。だから怖いのかなあ。

 改めて見てCHAMの歌ってどれもアイドルソングとして最高な気がした。「愛の天使」は言うに及ばず2人になったCHAMによる「一人でも平気」はビートに乗ってズンズン来るし「想い出に抱かれて今は」はしんみりとくるバラード。そしてエンディングに流れる「season」と今聴いても最高で、それこそ当時歌っていた人たちに今改めて歌って欲しい気すらする。かなわないなら別のアイドルにぜひに。夢かなあ。

 CHAMといえば声を演じたうちの1人、レイ役の新山志保さんは今敏監督に先立つ2000年2月7日に亡くなっていて今年が没後20年。主役級を多く演じられて期待されていた最中での訃報だっただけに寂しさも募る。こうして今敏監督の作品とともに世に残り世界に広がっているとしたら、無念は無念として少しの僥倖としたい。

 村上隆さんが目玉は僕のアイコンと言うところまでがワンターン。いやまあこれは目玉が多彩な色づけにされてないから違うといえば違うけど。ある意味で「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song」に出てきて大聖杯の中に生み出されようとしていた世界を破滅に導く存在、アンリマユでもあるというか、クトゥルフ神話に登場する「盲目のもの」「空飛ぶポリープ」あたりになぞらえられる怪物的な存在というか。

 これが仮にグッズになったとして浮かぶのは妖怪なり化け物に近いぬいぐるみとかいったもの。可愛らしさのかけらもないシンボルマークをどうして選んだのかがまるで分からないけれど、これを「自由ないのちの輝き」だと主張するならそこにはやっぱり「盲目のもの」だとか「ニャルラトホテプ」だとか「クトゥアグ」といった太古の神々に等しい何かに並ぶ禍々しさを持って大阪の土地を染め上げて地の底へと引きずり込むことになるのだろう。イアイア2025年。


【8月24日】 相変わらずポン酢というか意識をアップデートできていないというか、とある自称するところの全国紙が社説にあたるコーナーで最近のコロナ禍で大学が授業をリモートに切り替えていることについて、小学校中学校高校が対面授業を再開しているのにどうして努力しないんだと誹り、授業を行わなくても成り立つ大学なんて退場しろと非難する。曰く「私大を含め国から多額の助成金が投じられている。大学が『レジャーランド』などと言われて久しいが、行かずともいいような大学には退場願いたい」。もう笑うしかない一文。

 なぜってむしろ大学が「レジャーランド」などと呼ばれなくなって久しいから。授業なんて出なくても単位がもらえた昔と違って今は出席が厳重に管理されていて、それは一般教養どころがゼミでも同様らしく学生は遊んでいる暇なんてまったくない。にも関わらず「レジャーランド」と呼ばれた自分の大学時代の記憶をそのまま書いて恥じない論説委員がトップにいるんだから、今の時代についていけずに落ちこぼれるのも当然か。対面授業を行っていないのも人数が桁違いに多く移動範囲も広い大学生の間に感染が広まる恐れを心配してのもの。そうした事情を汲まず暴言を吐く新聞に未来は……ってないから今の惨状か。やれやれ。

 金曜日に虫歯でボロボロになった親不知を抜いた後が最初は穴になっていたけど、だんだんとふさがって今は歯茎みたいになっている。細胞が分裂したか肉が膨らんだか。金曜の夜までは痛みもあったけれど、前にまだ親不知が残っている時でもジクジクと痛んでいた時と変わらない痛みだったので、ボロボロになった部分から入った雑菌が悪さをしていたんだろう。それが親不知を抜いたことで今後は無くなると思えば一瞬の痛みなど我慢我慢。ってか翌朝には引いていたから後は残る歯を養生して保たせよう。命尽きるまで。5年10年保つかなあ。

 安倍晋三内閣総理大臣が記者会見であらかじめ提出された質問だけ答えてさっさと去ろうとしている後から、新聞記者が「逃げないで下さい」と声を掛けることに対して、別の新聞社の記者から妙な擁護が入っていた。曰く「逃げる印象を与える狙い」とか。印象を与えるどころか実際に逃げている訳だから悪いのは総理ってことなんだけれど、そういう総理を是とする新聞社はつまり総理の見方ってことで、それが果たして報道なのかと言えるのかって疑問を江川紹子さんが投げかけている。

 「私は、いろんな主義主張や方針にも続く多様なメディアがあるといいと思っていますが、新聞が、自分たちの意向に沿わない取材をすることを非難・否定するような言説を吐き出したら、そういう新聞は滅びた方がよいんじゃないかと思います」とも。それを取材ではなくヤジに等しいと味方する人たちもいるけれど、同じことを今の野党が政権をとったときに主張するかというと、主張しないと分かっているから江川さんもそういう物言いをして批判するんだろう。当面は滅びはしないだろうけれど、今のジリ貧な状況ではいずれ遠からず……。その時を目の当たりにできるか、僕の歯が保つ間は大丈夫か、眺めていこう。

 奨励会の三段リーグでプロ棋士四段への昇段を目的に戦っていた女性棋士の西山朋佳三段は、直近の連戦で2敗して5敗となって全体の9位に後退。昇格争いの最前線から大きく外れてしまった。上に2敗3敗4敗がずらり。これらが並んで5敗となれば前回が次点で順位は1位の西山さんも頭ハネで昇格できるんだけれど、これだけ離れるとちょっとキツいかも。ただ次点をとればフリークラスでのプロ棋士四段にはなれるので、4敗が2人となった後、5敗を堅持して次点を保っていて欲しい。頑張れ。そして「りゅうおうのおしごと!」のフィクションを現実にしてしまうのだ。

 青木杏樹さんが池袋を舞台に書いた新しいミステリ「始末屋 池袋てるてる坊主殺人事件」(メディアワークス文庫)を読む。池袋界隈で連続する頭に袋を被せ殴り絞めて死なせる事件。個別の発生で集団リンチ的な事件で、直接の加害者は近隣にある大学の学生たちらしいと分かるけれど、連続している以上は何か裏があるはず。その謎に週刊誌で活動しているジャーナリストや、大学で准教授をしているプロファイラーや、コーヒー屋で働いている盲目のサイコメトラーが関わり真相に迫る。

 そして明かされた真相とは? ってところで、誰が本当の犯人かといったところで驚き、どうしてそんなことをといったところで呆れつつ憤る。なるほど人は体面を取り繕うとして闇に落ちるものらいい。やるせなないなあ。前に確か読んだ作品も、意外なところに犯人がいたって話しだった。そういう裏切りを予測していても、いざ読むとやっぱり心を刺す。人は妄執で壊れるもの。そうはならないように気をつけなくては。作中、異能を持つ盲目の少女・律の美貌と活躍に拍手。彼女の淹れるブレンドコーヒーが飲んでみたい。本当のブレンドコーヒーが。

 劇場で「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song」を見た流れで、ユーフォーテーブルが作ったテレビシリーズ版「劇場版 Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」とNetflixで順に見ていく。そうか13話ラストで「THS ILUUSION」が流れたのか。タイナカサチさんが歌い川井憲司さんがアレンジしたスタジオディーン版「劇場版 Fate/stay night」の前半主題歌の「dis iluusion」の方が好きかもだけど、ここぞという時で使う必要性はユーフォーテーブルも感じていたってことか。

 劇場版もあったけれどすっかり話を忘れていたから、改めて遠坂凛と衛宮士郎とアーチャーの関係をそうか描いたストーリーだったのかと思い出した。劇場版で思ったイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの悲惨な境遇はやっぱり一緒だったか。士郎に会いたいと思って会えず話したいと思って話せなかった悲しみは、「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song」でかなったけれどそれも最後は……。まあでも「とある魔術の禁書目録」のフレメアよりは良いかなあ、今の「とある科学の超電磁砲T」で愛らしく小憎らしい姿を見せてくれているだけに寂しいなあ。いつか……。


【8月23日】 金曜日に虫歯でボロボロになった親不知を抜いた後が最初は穴になっていたけど、だんだんとふさがって今は歯茎みたいになっている。細胞が分裂したか肉が膨らんだか。金曜の夜までは痛みもあったけれど、前にまだ親不知が残っている時でもジクジクと痛んでいた時と変わらない痛みだったので、ボロボロになった部分から入った雑菌が悪さをしていたんだろう。それが親不知を抜いたことで今後は無くなると思えば一瞬の痛みなど我慢我慢。ってか翌朝には引いていたから後は残る歯を養生して保たせよう。命尽きるまで。5年10年保つかなあ。

 安倍晋三内閣総理大臣が記者会見であらかじめ提出された質問だけ答えてさっさと去ろうとしている後から、新聞記者が「逃げないで下さい」と声を掛けることに対して、別の新聞社の記者から妙な擁護が入っていた。曰く「逃げる印象を与える狙い」とか。印象を与えるどころか実際に逃げている訳だから悪いのは総理ってことなんだけれど、そういう総理を是とする新聞社はつまり総理の見方ってことで、それが果たして報道なのかと言えるのかって疑問を江川紹子さんが投げかけている。

 「私は、いろんな主義主張や方針にも続く多様なメディアがあるといいと思っていますが、新聞が、自分たちの意向に沿わない取材をすることを非難・否定するような言説を吐き出したら、そういう新聞は滅びた方がよいんじゃないかと思います」とも。それを取材ではなくヤジに等しいと味方する人たちもいるけれど、同じことを今の野党が政権をとったときに主張するかというと、主張しないと分かっているから江川さんもそういう物言いをして批判するんだろう。当面は滅びはしないだろうけれど、今のジリ貧な状況ではいずれ遠からず……。その時を目の当たりにできるか、僕の歯が保つ間は大丈夫か、眺めていこう。

 奨励会の三段リーグでプロ棋士四段への昇段を目的に戦っていた女性棋士の西山朋佳三段は、直近の連戦で2敗して5敗となって全体の9位に後退。昇格争いの最前線から大きく外れてしまった。上に2敗3敗4敗がずらり。これらが並んで5敗となれば前回が次点で順位は1位の西山さんも頭ハネで昇格できるんだけれど、これだけ離れるとちょっとキツいかも。ただ次点をとればフリークラスでのプロ棋士四段にはなれるので、4敗が2人となった後、5敗を堅持して次点を保っていて欲しい。頑張れ。そして「りゅうおうのおしごと!」のフィクションを現実にしてしまうのだ。

 青木杏樹さんが池袋を舞台に書いた新しいミステリ「始末屋 池袋てるてる坊主殺人事件」(メディアワークス文庫)を読む。池袋界隈で連続する頭に袋を被せ殴り絞めて死なせる事件。個別の発生で集団リンチ的な事件で、直接の加害者は近隣にある大学の学生たちらしいと分かるけれど、連続している以上は何か裏があるはず。その謎に週刊誌で活動しているジャーナリストや、大学で准教授をしているプロファイラーや、コーヒー屋で働いている盲目のサイコメトラーが関わり真相に迫る。

 そして明かされた真相とは? ってところで、誰が本当の犯人かといったところで驚き、どうしてそんなことをといったところで呆れつつ憤る。なるほど人は体面を取り繕うとして闇に落ちるものらいい。やるせなないなあ。前に確か読んだ作品も、意外なところに犯人がいたって話しだった。そういう裏切りを予測していても、いざ読むとやっぱり心を刺す。人は妄執で壊れるもの。そうはならないように気をつけなくては。作中、異能を持つ盲目の少女・律の美貌と活躍に拍手。彼女の淹れるブレンドコーヒーが飲んでみたい。本当のブレンドコーヒーが。

 劇場で「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song」を見た流れで、ユーフォーテーブルが作ったテレビシリーズ版「劇場版 Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」とNetflixで順に見ていく。そうか13話ラストで「THS ILUUSION」が流れたのか。タイナカサチさんが歌い川井憲司さんがアレンジしたスタジオディーン版「劇場版 Fate/stay night」の前半主題歌の「dis iluusion」の方が好きかもだけど、ここぞという時で使う必要性はユーフォーテーブルも感じていたってことか。

 劇場版もあったけれどすっかり話を忘れていたから、改めて遠坂凛と衛宮士郎とアーチャーの関係をそうか描いたストーリーだったのかと思い出した。劇場版で思ったイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの悲惨な境遇はやっぱり一緒だったか。士郎に会いたいと思って会えず話したいと思って話せなかった悲しみは、「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song」でかなったけれどそれも最後は……。まあでも「とある魔術の禁書目録」のフレメアよりは良いかなあ、今の「とある科学の超電磁砲T」で愛らしく小憎らしい姿を見せてくれているだけに寂しいなあ。いつか……。


【8月22日】 ふむう。「アクタージュ act−age」の原作者が逮捕された件で報道が、漫画の表紙絵を使うことに異論を唱える記事が出た。そこで主張されていた、「漫画」の「原作者」という見出しで報道が出た場合に、世間は「漫画を描いた人」として捉えかねない可能性があるというのはなるほど、当たり前という感覚がそうではないことを改めて思い出させてくれた。梶原一騎さんに小池一夫さんに武論尊さんに雁屋哲さんと、漫画にも原作者がいる場合があると読みながら理解していくのが普通って訳でもないのだろうなあ。とはいえ作品に対して報じられる時に絵面がないと寂しいという気持ちもある。難しい。

 niconico生放送で「第51回星雲賞」の発表を見る。本当だったら福島で開催されていたF−CONの場で発表となるはずだったけれど、新型コロナウイルス感染症の影響で開催できず来年3月に延期となったことで、星雲賞だけは予定どおりに発表したといったところ。どこかからの中継だけれどインサートとかしっかりしていたから、スタッフはちゃんとしていた感じ。youTubeでも配信があったみたいだけれどそちらは見てない。こういうのはやっぱりコメントがあった方が盛り上がるからniconico向きではあるかなあ。

 そんな星雲賞はまず日本長編部門から。やっぱりというか小川一水さんの「天冥の標」が受賞。「第六大陸」から始まってこれで5度目になるのかな。常連だけれどその回数に劣らない実績をあげているから納得。競争相手も多かったけれどぬきんでていたからなあ、スケールとして。そんな小川さん、「社会が現実の感染症で脅かされている真っ最中で、受賞を嬉しいとはいえない」とコメント。「死者が出ていること、感染者への迫害が起こっていることに痛ましさややるせなさを覚えている」とも言っていた。<BR>
 「小説ではそうした光景を書いたが、それは嫌なことが起こったらと書いたもので、実現して欲しくなかった。さらに巨大な経済的影響が現れている。感染を恐れて人間が動かなくなっている。海外との行き来は停止して多くの人が職を失おうとしている。予測できなかった。嫌なことを想像したつもりなのに、現実に追い抜かれているので悔しさを覚える」。将棋の世界で「りゅうおうのおしごと!」が藤井聡太王位・棋聖に抜かれたのは嬉しいけれど、これは確かに歓迎できない現実だからなあ。

 「おめでとうではなく、なんとかなってくれという祈りだと思う。ガルパンではないが、冷静に助け合いを忘れず災害を切り抜けよう」。今というこの時期にあの作品で賞を受賞した意義を分かってのコメント。こういうスタンスが実直な作風ともあいまって評価され続けているんだろうなあ。次は何を書いてくれるのか。期待するしかない。そして日本短編部門は菅浩江さん「不見の月」。いわゆる「博物館惑星」の中の短編で、長編として評価されるかと思ったら先取りして短編での受賞となったとか。でも長編も欲しいとのこと。どうなるか。

 海外長編はやっぱり「三体」で短編はテッド・チャンとか抑えてグレッグ・イーガン「不気味の谷」。あのイーガンがコメントを寄せていて「30年も作家業をつづけてこられたのは日本のSFコミュニティのおかげ 私の作品が高く評価されてきた事への感謝の念はこれからもかわることはない」。別に日本だけの人気って訳ではないけれど、ハードな内容にもかかわらず高い評価はSFなコア層が集う日本SF大会参加者ならではの投票性向なんだろうなあ。ここまぜ全部ハヤカワだし。

 メディア部門は篠原健太さんの漫画を原作にしたテレビアニメ「彼方のアストラ」が受賞。マンガ大賞も獲得した作品だけれど、アニメは原作を大胆にアレンジしてまとめた手腕も評価されたってことだろう。「ケムリクサ」に来て欲しかったけれどたつき監督は次の作品に期待だ。コミック部門は2作あって久正人さん「ニンジャバットマン」と道満晴明さん「バビロンまでは何光年?」が受賞。これもま納得か、って呼んでないけど。道満さんはエロ漫画でも知られた人だけれどSFでも知られていくのかなあ。

 あとノンフィクション部門は「100分de名著」で小松左京を扱った回を手がけた宮崎哲弥さん。有名人だけれどSFでの受賞は驚いたみたい。自由部門は「史上初のブラックホールの撮影」でもれも順当。来年はあるいは「動くガンダム」とか来て欲しい気もするけれど、メジャーじゃないところに目を配るのもSFファンダムなので意外なところを見つけてきてくれたら。60回記念にもなるらしい日本SF大会の会場は香川とか。遠いけど行くかなあ、どうせオリンピックもないだろうし。

 勢いに乗りつつ逃避も含めて「炎炎ノ消防隊」を1期24話と2期の配信分まで一気にNetflixで見る。カットのつなぎの間が妙な感じもしたけれどきっと原作の漫画の仕様なんだろうと思いつつ世界が破滅しかかった後に生きる人たちがいて、起こる現象があってその原因がいろいろ言われていてと設定は奥深そう。火と人間の関わりもどこか別次元別宇宙とか絡んでいそうで「プロメア」っぽいところもあるような。アクションとかは格好いい。

 見どころはアイリスが環古達といっしょにラートムと連呼しながら伝道者の一派を鉄パイプでぶったたいてそしてラートムと唱えて鉄パイプを放り投げるところ。ラートムは癒しの言葉。赦しの言葉。自分への。とか思った。「鬼滅の刃」が世間に広がるブームとなる一方でこちらは原作ファンアニメのファンの間にまだ留まっている感じ。この違いが何から起こるのかに興味がある。


【8月21日】 歯周病からの歯石取りがほぼ終わったので懸案だった上右奥の親不知をいよいよ抜きに歯医者へ。前はまだ歯としての形があったものの中央部分に穴が開いたと思ったら、だんだんと広がっていって周囲の壁を薄くして、そして崩壊へと至らしめて今は土台くらいしか残っていなかったけれど、それが悪さをするのか時々ちくちくと痛みが走っては周囲を腫れさせることがあった。なのでやっぱりここは抜いておくことにしたのだけれど、そういえば歯なんて抜いたのはいつ以来かと振り返って思い出せず、何が起こるか想像できなかった。

 でもまあ、抜かなきゃいけないなら抜くしかないと行った歯医者で担当してくれたのが女性の歯科医師さん。院長は男性で奥さんも歯科医だけれどいずれでもない勤務医の方っぽかった。これまで歯石を担当してくれた歯科衛生士も皆さん女性で今どきの歯医者さんでは珍しい光景ではないのかもしれない。歯を抜くという作業でもそんなに力がいる訳でもないのだろう。中にはあタる歯医者さんもいるかもしれないけれど。

 何かといえば、「少年ジャンププラス」に掲載された「歯医者さん、あタってます」という漫画のことで、読み切り連載版に移っていたけれど、ネタ的には同じなんで読んでみればなにがあタるかは分かってもらえそう。個人的には読み切り版の方がネタとオチがぴたりと重なって面白かった一方で、連載版はもうちょっと見ないとあタる歯医者さんの趣味と本心と感情の行方が主人公と絡んでくるか分からないところがある。どうなっていくかは様子見か。

 歯医者では血圧を測って麻酔を打って口を開いて何か作業が行われて、そして抜けましたといった声がかかるまでどれくらいだったか。いつもこの歯医者さんではスタジオジブリのアニメのサントラがインストになったBGMが流れていて、それが「千と千尋の神隠し」のメインテーマから「いつも何度でも」へと移って終わるまでには抜けていたから6分とか8分とか。前後にもうちょっとあったかな。抜けた歯は根っこくらいしか残ってなくて、抜いたあとには膿みもたまっていたとのことで、時々痛んでいたのもこのせいか。あとは検査とそれから定期的な検診で歯の寿命を引き延ばていく感じ。とりあえず綺麗に抜けたのでこれで一安心。

 重たいなあ。ネットで執筆していてジグザグノベルズというレーベルから「スコーピオン」でデビューしシリーズ化。そして中央公論新社のC☆NOVELSファンタジアから「不死身のフジミさん」シリーズとか「新月が昇るまで」シリーズなんかを刊行していた諸口正巳さんが「執筆活動を無期限休止します」という一文を書いてしばらく書かないことを宣言してしまった。「7月上旬から真剣に考え始め、一時はもう金輪際やめる気持ちになっていましたが、『無期限休止』というかたちにいたしました」とのことらしい。当面のあいだ執筆活動を休止しますというから、いつかは戻ってきてくれる可能性はあるものの、モチベーションが上がらなければそのままなんてことにもなりかねない。

 ネットで書いている話に対するリアクションの乏しさから、きっと砂漠に水を撒くような感覚にとらわれ、呆然としてしまっているのかもしれない。アドベンチャーゲーム「被虐のノエル」のノベライズなんかも担当して近刊もあるんだけれど、「去年10月の4巻発売以降KADOKAWAから一度も連絡がありませんので、たぶんそういうことなんじゃないでしょうか」と書いているのを読むにつけ、途絶えている商業活動に加えてネットでの反応もそれほど得られない中で、モチベーションを維持するのが大変だってことでもあるんだろう。

 作家に人気の上がり下がりはつきもので、あの篠田真由美さんだって商業作品が出せないと言われて自費出版を選ばざるを得ない状況にあったりするだけに、ライトノベル系ではなおのこと状況も厳しいのかもしれない。ただ諸口さんといえばTHORES柴本さんがイラストを描いた「謳えカナリア」のように耽美的な雰囲気を持ったファンタジーを描ける人で、なおかつ「常夜ノ国ノ天照」のように、和風のダークファンタジーも描いて猟奇な雰囲気を味わわせてくれる作家でもある。

 SF的な世界観も得意そうで、C☆NOVELSファンタジアから出した「世界時計と針の夢 上・下」はあの鏡明さんが「本の雑誌」で年間SFのベストに選んだほど。今も電子書籍版は買えるみたいだから読まれて欲しい気がするけれど、きっかけを得るなら版元を買えてSFファンが目を向けるレーベルから書籍も含めて刊行され直して欲しいなあ。そうやって日の目を見て欲しいものだけど、だからといって活動が続く訳でもないのもまた状況の厳しさの表れでもある。作家が作家として生きていけるような時代がまた、戻ってきて欲しいけれど……。

 NHK広島放送局が当時を記録した日記なり報道なりから状況を拾ってそれを現代の人間が書き直し、ツイートしていく「1945ひろしまタイムライン」という企画が始まっていたらしいんだけれど、そこで1945年8月20日にシュンこと新井俊一郎さんという当時の中学1年生が書いた日記を元にしたツイートが問題化。曰く『朝鮮人だ!!大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる!「俺たちは戦勝国民だ!敗戦国は出て行け!」圧倒的な威力と迫力。怒鳴りながら超満員の列車の窓という窓を叩き割っていく。そして、なんと座っていた先客を放り出し、割れた窓から仲間の全員がなだれ込んできた!』といったもので、状況としては分からないでもないけれど、こうした言動を75年経った今そのまま書いて、歴史を見たがらない人たちの憤りを招かないかといった声が出ていた。

 さらに困った事に、この日より前に書かれたツイートでも「朝鮮人」という言葉が使われたものがあって、6月16日付けで『朝鮮人の奴らは「この戦争はすぐ終わるヨ」「日本は負けるヨ」と平気で言い放つ。思わずかっとなり、怒りにまかせて言い返そうとしたが、多勢に無勢、しかも相手が朝鮮人では返す言葉が見つからない。奥歯をかみしめた』といった内容なんだけれど、ネットに公開されているその日の日記の原文にはそうした記述がなかったら騒動となった。つまりは捏造なんじゃないかと。

 答えてNHKでは、公表されてる日記にはない表現だけど「手記とご本人がインタビューで使用していた実際の表現」だということで、それを拾ったものだと釈明。まだ未公開の8月20日ついても、日記に仮になかったとしてもインタビューなりで相手の人がそう言っていた可能性はあって、NHKが何か捏造したといった批判はこれでとりあえず払拭された。とはいえインタビューしたというなら相手がいつ、そういった言葉を使ったかが気になるところで、最近のインタビューでこう言っていたのだとしたら、戦後の歳月の間でこうした表現がどういったリアクションを招くか、感じ取っていなかった人って言われかねない心配がある。

 今はもうおじいちゃんだから聞けばこういう答えになりそうな気もするけれど、だからといってそれを許容できるほど世の中は優しくはない。かといってニュアンスを変えてしまっては企画の意味も薄れる訳で、難しい判断の中でそのままを伝える決断をした、ってところになるんだろう。とはいえツイートという単独で拡散されかねない媒体で、書いて良い話だったかというと難しい。

 「この世界の片隅に」では原作の漫画でも片渕須直監督によるアニメ映画でも、玉音放送のあとに太極旗が翻る場面が登場する。ここですずさんが漫画だと「暴力で従えとった」と言い、アニメでは「遠い国から来たお米でできとった」と言って、そうなっても仕方が無いんだといった状況を浮かび上がらせる。すずさんの気づきまでを瞬間に縮め、読者なり観客にわからせることができるのが、ストーリーを持ったフィクションならではだろう。対してツイートは、往時のその瞬間での感想の全てが、1個のツイートとして固定化され引き延ばされ拡散されていく。誤解もされるし反発も招く。トータルで考えれば分かることでもそうはらならない難しさ。どういう風に収めるのだろう。見守りたい。


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