龍ヶ嬢七々々の埋蔵金 1

 誰にでも言うことを聞かせられるアイテムがあったとしよう。普通ならそれをめぐって、権力者たちが争い、戦いを仕掛け合っては滅びの道を突き進む。言っていることが真実か虚偽かを見分けられる宝石も同様。持っていれば、交渉やギャンブルの場で絶対的な優位に立てるアイテムをめぐって、大勢が血で血を洗う争いを繰り広げて不思議はない。なのに。

 世界ではそんな争いは繰り広げられていない。なぜか。隠されているから。どこに。人工島の七重島に。鳳乃一真によるえんため大賞受賞作、「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金1」(エンターブレイン、620円)の舞台となっているその場所に、世界中から不思議なアイテムが集められ、隠されている。いったい誰に。それは……。

 正体が今ひとつ見えない家業を、継ぎたくないと訴えた主人公の少年、八真重護は父親によって勘当を言い渡され、まだ学生である間だけは面倒を見ると、人工島の七重島にある学園に、無理矢理転校されられた。そこは。

 七重島は全島が基本的には学校という島。生徒には学業が何よりも優先されていて、アルバイトはあくまで生活を補う範囲にとどめられてる。もしもお金が足りないからと、アルバイトを増やしすぎれば島外へと退去。かといって、家賃が払えなくなってもやっぱり退去という厳しい環境でも、重護は親元を離れられて清々したと、新しい生活に希望を抱いていた。ところが。

 月5000円という家賃の安さにつられて、重護が入居したアパートの部屋には、何と先住者がいた。それも美少女が。ただし触れられない。おまけに歳もとらない。正体は自縛霊。かつて理想の世界を作り上げようと集った、7人の天才たちの筆頭にありながら、殺害されてしまった龍ヶ嬢七々々、その人だった。

 生前は、今なお島を取り仕切る人物たちの上に立って、引っ張っていた彼女。その奔放さで世界中を巡り歩き、得体の知れないマジックアイテムを集めまくった。もっとも、島が完成したのは、彼女が殺害されてから。誰がどうやって隠したのか。そんな、ちょっとした謎も残しつつ、重護はそんなアイテムを探す羽目となる。

 自称探偵という美少女と、その助手で、見た目は可愛いメイドさん、でもしっかりついてたりする子が関わり、また、アイテムを探すことを目的に作られたらしい冒険部の部長も加わって向かった場所。そこで起こった事件のさらに先で、重護の“家業”が何だったのかが明らかにされ、その背後にいた人の思いが浮かび上がってくる。

 ある意味、因業な家業を間近に見て生きてた重護だったら、七重島に来る前に、そこがどいういう謂われを持ち、自縛霊が龍ヶ嬢七々々と知った段階で、すぐさま事態を理解していて不思議はないのでは、という気もしないでもない。実は、と重護が正体を明かした場面で、すべてのピースがはピタリとはまって、世界の全貌が見えてくる話にはならず、逆に重護が、襲ってきた危機に驚き慌てていたりするところに、ちょっとギクシャクとしたものも感じられる。

 それでも、島内のそこかしこに隠された不思議なアイテムを探す冒険を、これからも連続していけそうな展開にはなっているし、探偵にメイドっ子に、冒険部の部員で眼鏡で剛腕な少女もいたりと、起伏に富んだキャラクターたちの言動も、読んでいて惹かれ導かれていくくらいに魅力的。何より自縛霊になってしまった七々々が、何を目的にアイテムを集め、それを隠したか、そしてかつての仲間は、どうして骨董集めに隠れて、それら集めようとしているのか、といった興味で引っ張られる。

 そもそも七々々を殺したのは誰で、それはもしかしてすごく身近にいるあの人なのか等々。残された謎をどう解決していくのかといった関心を、与えただけでも第1巻としては上出来だ。当面の的が暗躍しているその裏にいる奴で、そのさらに背後にある七々々を思う深い心という状況に、当の七々々と暮らす重護はどう振る舞う? そこに探偵たちはどう絡む? 気にしながら続刊を待とう。

 それはそれとして、龍ヶ嬢七々々はプリンだけを食べるのか。食べたプリンはどこに行くのか。最大の謎。突き詰めたい。


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