人生張ってます
無頼な女たちと語る

 借金女王と世に唄われ、グッチだエルメスだルイヴィトンだシャネルだと買いまくっては借金をおしらえ、税金は払わず水道代も払わず健康保険はさいしょから無視した挙げ句に差し押さえの人が家までやって来るという、およそ人に憧れられる作家の生活とは思えない人生を今なお現在進行形で送っている中村うさぎほど、すさまじい女性なんているものか、と普通だったら思うだろう。だが甘かった。サッカリンがチクロな程に甘かった。彼女たちの中村うさぎ以上に現在進行形の泥沼人生を知ったらきっと、生きていることが辛くなくなるはずだ。

 中村うさぎの対談集「人生張ってます 無頼な女たちと語る」(小学館、552円)で対談の相手を務める女性たちは、いずれ劣らぬ位すさまじいばかりに極道な(道を極めたって意味、人によってはちょっとだけ文字どおり)人生を送っていて、借金がどうの差し押さえがどうの脱糞したがどうのと泣きわめいた所で、所詮は単なる買い物中毒でしかない中村うさぎが、ただの自制心が効かない我侭な浪費家に見えてしまう。まあ実際ただの浪費家なんだけど。

 例えば岩井志麻子は、しばらく前まで結婚していた男性とのなれそめが半ばストーカー気味だったってことを明かしている。何でも近所づきあいが明け透けな地方とはいえ回覧板の代わりにケチャップで「す・き」と書かれたオムライスを差し入れてくる男に、親愛ではなく半ば恐怖心を抱いて結婚してしまったというから驚きで、そういう男性が世に存在するという事実にも戦慄させられるけれど、同時に恐怖が愛に変わったとも思えないのにそんな男と結婚してしまう状況のすさまじさに身を震わせる。

 男に貢がれ続けた生活からパチンコで稼ぎまくる生活へと移った後に、よりによって某宗教の半ば城下町と化している信濃町に住み怪しい風体から公安につきまとわれ、なのに懲りずに同じ信濃町に1戸立てを購入しては欠陥住宅だったと裁判してしまうパワフルさとバイタリティーの持ち主は、「愛より速く」「ルビーフルーツ」等々のセクシャルな文学作品で鳴る斎藤綾子。借金は数あれど前借りは多々あれど離婚歴も1度はあれど、今はとりあえずは普通な(普通だろうか?)作家生活&結婚生活を送っている中村うさぎにこれほどの無頼さはまだない。

 もっとも、無頼と言うならそのはるか上を行くのが西原恵理子。1億円とも5000万円ともつかない許諾の税金を滞納しては踏み倒そうと闘っている「税金闘争」の激しさ狡猾さ厚顔さ強靭さには、市民税を滞納し健康保険を延滞しているさしもの中村うさぎでも遠く及ばない。そもそもが出版社からの前借りを返そうとしている中村うさぎでは、「全力で借りて、全力で踏み倒せ」がモットーの西原理恵子とは人格見識人生経験人情渡世が違い過ぎる。持って生まれた性格というのもあるし、育った環境で培っタフさの違いもある以上、中村うさぎが西原理恵子の域へと達するためには、もっともっと鬼畜の類になって借金は億の単位まで、旦那は両手の数まで行くしかない。なれるか鬼畜に? 到達できるかサイバラに? 

 ほかにも中村うさぎが未だやっていない「自己破産」を既にやってしまったジュニア小説界の大先輩、花井愛子との対談や、女装家のマツコ・デラックスも登場すしては中村うさぎを思想で、中味で、生き様で凌駕する生き様を見せてくれる貴重にして爆笑の対談集。読むと人間いくら邪悪であったと自覚しても、中村うさぎはもとより対談相手の誰ひとりに遠く及ばないと安心できる。もっともっと邪悪になりたいと妙な憧憬を抱いている若者がいたら、せめて西原理恵子との対談だけでも読ませるべきだ。極めなくてはならない道の遠さに、きっと更正の道を選ぶから。


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