なかじまなかじま1

 表紙絵を見るだけで大半は普通に美人だと思うだろうけれども北白川麗奈さん。身長が176センチあったって、ファッションモデルにならそれくらいの人はいっぱいいるし、太っている訳ではないし眼鏡だってチャーミングだし、ボサボサな髪だってとかせきっと綺麗になる。

 それなのに、どういう訳か自分にまるで自身がなくて、いつも猫背でうつむいて、ぼそぼそと喋っているから周囲から変わり者だと思われ、暗いブスだと思われてしまって損ばかりしている。そんな損が余計に自分を落ち込ませ、さらに暗さを増すというデフレスパイラル。勿体ないとしか言いようがない。

 でも、そんな時こそがむしろチャンスで、アプローチして心を緩めてあげれば、すぐにだって靡いてくれる、かと思ったらやはりガードは堅かった。北白川麗奈がどうにか補欠で入った名門女子大のお嬢さまに引っ張り出され、連れていかれた映画のロケ先で、監督が彼女の持つ独特の雰囲気にピンと来て、ただのエキストラから引っ張り上げた。

 違うって? 監督から面前と「ブス」と言われて引っ張り出され、ブスならではの役を与えられた北白川麗奈を、監督は本当にブスだからブスにしか出来ない役をやらせただけだって? それにしては、ブスだブスだと言われ、心底からの怒りを発した北白川麗奈に川に突き落とされても、中島圭という名のその映画監督は、北白川麗奈に執心を覚えたかのようにつきまとう。

 夜中の女子寮におしかけ、寝間着姿の麗奈を呼び出しオープンカーに乗せて近所を走り回る。学園祭でも見つけて呼びだし引っ張り回す。これだけアプローチをかけられれば、普通だったら心を傾けるところを、北白川麗奈の心は微塵も揺らがない。ひとつには、相手が変わらず彼女をブスだと言い続けていること。それで喜ぶ女性はいない。そしてもうひとつが、彼女には興味を持った男子がいたことだ。

 それは誰? それは陸上競技の選手で、高校生ながらもダントツの成績を残している中島俊という少年に北白川麗奈は関心を持って、陸上専門誌を買って掲載された写真を眺めてうっとりしている。いわば彼女にとってのアイドル。そんな中島圭が、北白川麗奈の働くアルバイト先にやって来たから驚いた。そして慌てて大失敗もしたけれど、それがきっかっけで中島俊と口を利くようになっていく。

 芽ばえた愛? まだそこまでは。そして一方からは、中島圭監督のギラギラとして傍若無人なアプローチが続く。嬉しくもあって、そして鬱陶しくもあるシチュエーション。なおかつ北白川麗奈はまだ知らなかった。肉食の野獣のような中島圭監督と、草食の愛玩動物のような中島俊が、本当の親子であることに。

 そして始まる綱引きのような恋、といったところが西炯子の「なかじまなかじま1」(白泉社、524円)のこれから予想されるストーリー。どちらかを立てればどちらかが立たない、有り体の恋愛ストーリーには収めようとはしない西炯子の描く漫画だけあって、どっちもどっちの関係を続けていっては、どっちともそれなりの仲になっていくような展開も浮かんでしまう。

 そこまでアバンギャルドではなくても、向こう側が積極的な中島圭監督と、こちら側からひそかに思いを寄せている中島俊選手との間に立って、右に左に振りまわされ、右往左往しながら自分の本当の気持ちに気づいていく自覚のストーリー、そして、本来持っている魅力を発揮していく成長のストーリーを見せては、恋と美に憧れいつかは自分もと思っている女性たちの支持を得て、人気となっていくだろう。

 壮年から老境の域に差し掛かった大学教授と、キャリア女性の恋愛を描いた「娚の一生」で爆発的な人気を得た西炯子に、さらに加わる異色の恋のストーリー。「姉の結婚」でも大きく支持を集めていながら、あまり映像化という話を聞かないのはそれだけ、飛ぶ抜けた画力で描かれる突拍子もないキャラクターたちを、実際に演じられる役者もいなければ、描いて動かせるアニメーション作家もいないということなのか。それでもいつか見たい、北白川麗奈の動き喋る姿を。いったい誰が演じるに相応しい女優だろう?


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