常住戦陣!! ムシブギョー

 「週刊少年サンデー」といったら、一時期は「週刊少年ジャンプ」よりも「週刊少年マガジン」よりも、貪るように読んでいた漫画誌で、あだち充に高橋留美子に島本和彦にゆうきまさみに安永航一郎に遠山光等々、挙げればきりがないくらいの好きな漫画家の大好きな作品が、誌上を彩って輝きを放っていた。

 もっとも、それから四半世紀も経った昨今、いったいどんな漫画が載っているのか、気にすることはなくなっていた。雰囲気だけなら青山剛昌の「名探偵コナン」が長く続いていて、「犬夜叉」に続く高橋留美子の連載があって、あだち充は今でもいるのか、椎名高志や藤田和日郎は残っているのかといった、曖昧模糊とした印象からいくつかの名前が浮かぶ程度。あとは「鋼の錬金術師」の荒川弘が、雑誌を替えて始めた「銀の匙」がそういえば話題になっていた、といった印象か。

 だから、第1巻と第2巻がまとめて単行本として刊行されるまで、福田宏という人の「常住戦陣!! ムシブギョー」(小学館、440円)の存在も、まるで知らなかった。そのまま他の漫画同様に知らずにすますことも出来たけれども、店頭で目にした少年や少女のキャラクターと、絵柄と設定に、大きく気になるところがあって手に取ったら、これが何と、面白いではないか。

 江戸時代を舞台にした剣豪物。といっても、現実の江戸時代とは違っていて、巨大になった蟲と言われる怪物どもが、江戸の街にわんさかとわいて人間たちを襲っている。これは大変と幕府が設置したのが、蟲退治を専門とする蟲奉行という組織。そこに、東北の田舎から、すごい剣豪の父親を持ちながらも父親にはまだ及ばない、月島仁兵衛という少年がやってきては、入って先達たちとともに蟲を退治する仕事に就く.

 もっとも、そこは百戦錬磨の奴らが集う蟲奉行。田舎での剣豪もただの人間に過ぎず、仁兵衛は現れる蟲に苦戦し続ける。前からいる蟲奉行たちはといえば、剣のひとふりで蟲を両断したり、切ったり焼いたり止めたりしてみせる。

 まるで力量が違う場で、早死にすら想像されたけれども、仁兵衛は誰よりも素速く動く技だけは抜きんでていて、危機になった子供を守ろうとしたり、刀が使えなくなっても柄で相手を粉砕しようとしたりと、決して逃げずに命がけで戦ってみせた。そんな姿に、最初は歯牙にもかけなかった仁兵衛を、周囲もしだいに納得して、仲間にしてくという覚醒と成長の物語が繰り広げられる。

 まさに少年漫画の王道ストーリー。今はそれでも著しく激しく弱いけれども、仁兵衛に秘められた潜在能力がいずれ発揮されて、激しい戦いを見せてくれることになるのだろう。そうならなかったとしても、常に前向きで明るく楽しげな仁兵衛の姿を媒介にして、同じ奉行所に務めながらも、てんでバラバラだった蟲奉行たちがまとまって、江戸の危機に立ち向かっていく物語が、描かれていくことになるのだろう。

 なにしろ第3巻では、江戸幕府の将軍家の後継ぎですら、その生真面目さで友達にしてしまう仁兵衛だ。江戸より北はともかく、西の方で起こっているらしい不穏にして不気味な出来事が江戸を襲い、蟲奉行たちを巻きこんだとしても、その未来はきっと明るいはずだと信じて続きを待とう。それとも更なる奥深い陰謀がめぐらされているのか。ますますもって楽しみだ。

 キャラクターでは仁兵衛が世話になる茶屋の娘で、春という名の少女のFカップぶりがとにかく目に麗しい。仁兵衛を友人として好く将軍家の御曹司が、その大きさその揺れっぷりに不穏さを覚えるくらいだから、もう相当に素晴らしいとしか言いようがない。一方で、仁兵衛と同じ蟲奉行として働く火鉢という火薬使いの少女の、すらりとしてスリムな姿態もこれはこれで麗しい。あれでしっかりボリュームもあって、戦いの中で艶姿をのぞかせてくれるから目を離せない。

 もちろん、どんなに固いものでも、手にした普通の刀で寒天でも切るように寸断してバラバラにしてしまう剣技の持ち主、恋川春菊も凄まじいし、日頃はまったくの無表情ながらも、蟲を相手にした時は、圧倒的な剣の腕をふるって退け、たとえ要塞級の蟲であっても、臆せず倒してのける無涯という剣豪もとてつもなく凄まじい。

 病弱ながらも、優れた陰陽師の術で蟲をしのぐ一乃谷天間もなかなかなもの。そんな仲間たちから受けた刺激が月島仁兵衛をどう変え、そして江戸と日本をどこへ導くのか。目を離せない連載が「週刊少年サンデー」に現れた。読んで行こう。


積ん読パラダイスへ戻る