マジック・シーヴズ・プロジェクト
M・T・P1 大泥棒さま、魔都へ行く

 誰も彼もがポンコツだけれど、誰も彼もが懸命で、そして自分に自信を持っている。そんなキャラクターたちが集まって、一緒になって前に進んでいく物語が面白くないはずがない。引っぱられるようにして連れて行かれ、そこで起こる困難にポンコツたちが翻弄されながらも負けず、突破していった先で得られる開放感に、誰もが小躍りするはずだろう。戒能靖十郎の「M・T・P(マジック・シーヴズ・プロジェクト)1 大泥棒さま、魔都へ行く」(C・NOVELSファンタジア、900円)は、そんな明るさと前向きさに溢れた物語だ。

 お母さんが大好きなルウィンという少年は、母親に喜んでもらえるものを手に入れるため、将来は泥棒になっても構わないと何の気もなく母親に言ったことが過去にあった。それから少し成長して、いろいろあって母親を失い、本当に泥棒を目指すことになって、今は砂漠の真ん中で栄えている魔法の都、アルタイルにあるという秘宝で、手にした人の願いを何でもかなえる「異界の海」を狙っている。
 そのアルタイルへの道中、山賊たちに捕まったものの、そこは目的のためには忍従すら厭わないという態度で山賊たちに従い、手下となって都の知覚まで近寄って、そこで自分よりあとに山賊に拾われた、見た目は超絶的な美少女なのに、実は男でそしてまったくの役立たずというフェイルだけを伴って、山賊を防御用の雷に打たせながら、自分たちだけは逃れてアルタイルに潜り込もうとする。

 そこで役に立ったのは、骨董屋に売られていた誰かの手帳で、中にはアルタイルへの入り方や、アルタイルの街で起こっていることがつぶさに書かれていた。もちろん魔法の使い方も。そして番人のように現れた、炎が目玉の形になったような怪物に迫られ、ルウィンは手帳から覚えた呪文を唱えて魔法を振るうが…使えなかった。どんな呪文を出しても、ピクリとも魔法が発動しなかった。

 完璧に覚えたはずなのに、どうしてなんだ? そう不思議がっているところに、雷に打たれ倒れていたはずの山賊のひとりがが起きあがって、肉襦袢のように羽織っていた変装を解いて本性を現した。怪盗レイド。女性でありながら、鍛え上げられた肉体を持った美丈夫という佇まいで、炎の怪物に向かい呪文すら唱えないで魔法を繰り出し、その怪物を圧倒してしまう。ルウィンにはまるで使えなかったのに、どうしてレイドは魔法が使えるんだ?

 それだけでも苛立つのに、ルウィンにはもっと怒れることがあった。なぜならレイドはルウィンのライバルだった。というより、行く先々ですべてその手柄を持って行かれる相手だった。本当は自分の手柄を横取りされたとルウィンは言う。そう訴えるけど真相はどうだったのかと言えば、どうやらレイドだけが大活躍して、ルウィンは後塵を拝していただけらしい。それは魔法の繰り出し方を見ても分かる。

   けれどもルウィンは屈しない。自分こそが未来の大怪盗であると訴えレイドを誹る。どうやら2人には因縁があるらしい。それはルウィンの優しかった母親の命運とも関わっているらしい。仇なのかどうなのか。それは分からないままルウィンは街のそばで気絶し、そして目覚めると、美形のフェイルといっしょに荷車に乗せられ街の中にいた。引っぱっていたのは魔法使いのようか格好をした、まだ幼いアヤという少女で、魔法がまるで使えないルウィンを、その街を牛耳る“魔喰い”のガルディアノに力を奪われたと思って保護したらしい。

 似た境遇の者ちがあつまる集落へと連れて行って、親切にも2人を世話をしようとするアヤちゃんに、そのまま世話になり続けるかというと、ルウィンは自分には使命があると振り切って、フェイルとともに街へと出て、「異界の海」に近づく抱負を探る。そんな最中、万能を売りにしたエイザードという魔法使いに出会って、彼が売った手帳に自分は騙されていたと気づいて、払った金を返してもらおうと、エイザードが宿泊しているホテルにしのびこんだら…エイザードがポンコツだった。

 さらに、エイザードを脅すようにして仲間に引き入れ、街を牛耳るガルディアノを倒すために戦力となるシザ=リザという剣士に会いに行ったら、これがエイザードに輪をかけてポンコツだった。剣士としてはすごい。伝説の剣士の名を名乗るだけのことはあるけれど、その姿はどうにもポンコツで、その性格もやっぱりなポンコツぶり。というか、魔法が使える世界で剣を極めても、実は最強ではないのだけれど、それでも剣にこだわりシザ=リザという名前にこだわろうとしているから、すぐにボロが出てしまう。

 万能でありながらポンコツの魔法使いのエイザードと、伝説でありながらもやっぱりポンコツの剣士シザ=リザを仲間に、自称だけの大怪盗と美貌であっても頭は空っぽのルウィンが、それでも力を合わせて挑んだお宝を、横からかっさらっていったのが、やはり怪盗レイドだった。

 彼女だけまともで真っ当なのか、それともやはりポンコツなのか。盗みの腕もその体術も、圧倒的に凄いけれど、その出自がどこか壊れ気味。良いのかそれで、その人生は。良いのかもしれない、自分の人生なんだから。だからこそルウィンは苛立ち、レイドを倒して宝を手に入れすべてを取り戻そうとあがく。その真っ直ぐさが報われる時が来るのか。というか、レイドはどうしてそこまでの能力を短時間で開花させることが出来たのか。彼女の過去なり、ルウィンの父親の正体なりが気にかかる。

 あとは、幼いながらもしっかりとして、魔法が使えないのにしっかりと日々を生きているアヤや、ただの役立たずにしては美形過ぎるフェイルの正体めいたものも。そんなものはないのか、それともあるのか。そのあたりは次の巻でのお楽しみということで、今はとにかく、笑えてそして楽しめるポンコツ人間どもの、頑張りあがいて突き抜けていくドタバタ物語を楽しもう。


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