武士道シックスティーン(アフタヌーンKC)
武士道シックスティーン(マーガレットコミックス)

 柔と剛。対照的な剣を振るう2人の女子高生剣士が、時に反発し、それを乗り越えて気持ちを重ね、けれども分かれて向かい合い、そして再び巡り会う物語が、3冊に渡って繰り広げられた誉田哲也の小説「武士道シックスティーン」シリーズ。さわやかな青春ストーリーを喜ぶ人たちの賞賛を浴びてベストセラーとなり、劇場映画化もされてますますファンを広げそうな勢いを見せている。

 このメディアミックス全盛の時代に、劇場映画化とくれば次はテレビドラマ化なり、アニメーション化も期待されるところだが、それに先んじて行われたのが漫画化。それも2人の作家によって、2つの漫画誌で同時期に連載されるという広がりに、小説からのファンも漫画で再び香織と早苗に出会えるのだという喜びと、どちらを読めば良いのかという迷いの入り交じった感情に、溺れていることだろう。

 講談社の「月刊アフタヌーン」で連載されているのは、「しおんの王」の安藤慈朗による漫画だ。凛として心にしっかりとした柱を持った女性棋士たちが登場した「しおんの王」のように、安藤が描く「武士道シックスティーン」(講談社、552円)でも、剣道という武道に挑む女性剣士たちの凛然とした姿が、精緻な線によって特徴的に描かれる。

 本編では淡々と描かれていた感もあった、柔の西荻早苗と剛の磯山香織の最初の出会いと、高校へと進学してからの再会が、安藤の漫画ではみっちりとした展開で描かれている様子。言葉だけならゆらり、ふらりと綴れば済む早苗の不思議な剣道の動きに、強い強いと書けば語れる香織の剛剣だが、漫画ではこれを絵にしなくてはらない。どういう動きだったから、早苗は香織から市民大会で面を1本取れたのか。安藤は、正しい姿勢と丹念な動きの積み重ねによって見せていて、だから早苗は香織に勝てたのかと感じられる。

 そんな香織が、早苗と進学した高校で再会した時に見せる一種のストリートファイト。その激しさに、香織には相当の悔しさと憤りがあったのだと分かって、漫画から「武士道シックスティーン」に入る人でも、武士道をこよなく愛し剣道をとてつもなく愛する磯山香織というキャラクターの勇猛さ、猛々しさを感じられそうだ。

 一方の集英社から出ている「デラックスマーガレット」という少女漫画誌に、尾崎あきらが連載している「武士道シックスティーン」(集英社、400円)。安藤と同じく誉田哲也の原作に準拠していて、導入から展開からほぼ同じ展開をなぞったものになっている。とはいえそこは少女漫画誌というフィールド。キャラクターが見せる仕草や表情の可愛らしさ、コミカルさが安藤のものより際だっていて、時に笑いながら剣道が持つ奥深さというものに迫っていける。

 こちらの香織は眼鏡もかけていなければ、無表情の中に怒りを燃やして早苗に迫るような傲岸さはなく、鋭い目つきで周囲を睥睨し、日頃の言動にも武士道へのこだわりをにじませる強面少女。先輩であっても弱ければ相手と思わずになぎ倒し、自分の武士道を探求しようとする姿を見せる彼女に、どこまでもおっとりとしてほんわかとした早苗が絡んでいくという、ビジュアル的な剛柔のコントラストもおもしろさが醸し出される。

 香織の武士道へのこだわりという部分も、安藤版より明確に示されている様子。早苗の家族の事情も、コミカルさの中に父親のダメさ加減が描かれ、より分かりやすくなっている。競技カルタがテーマになった末次由紀の「ちはやふる」(講談社)にも似た雰囲気で、部活的な賑やかさがある尾崎版。読みやすさ、という意味でこちらを取る人もいそうだが、武道的なクールさと激しさという面では、安藤版に軍配があがりそう。

 どちらを読めば良いのかと、人によっては選ぶに困りそうだが、それならどちらも読めば良い。どちらにも漫画として必要な楽しさがあり、そしてどちらにも「武士道シックスティーン」が投げかけた武士道とは、友情とは何かがしっかりと描かれている。迷わずどちらも読むのが正解、といったところか。

 竹刀袋に般若や白蛇を刺繍する香織の無双ぶり。原作では当然ながら文字によって示され、香織の強さと剣道にかける真摯さを印象づける要素になっているが、漫画として絵で示されると、これがなかなかの迫力。決して強さを外にひけらかしているのではないのだろうが、見た目にも強そうな存在だと香織のことを分からせてくれる。漫画という表現のこれも強さであり、面白さなのだろう。

 安藤版、尾崎版も単行本の第1巻では双方が市民大会で剣を交えた相手だと気づき、決闘を経てとりあえず同じ部に所属しながら、香織が先行して後を早苗が追うような展開まで進んできている。この先に待っている、最初の強さが思い悩みから途中で引っ込む香織が、最後に再び強さを見せられるようになり、一方で早苗も自分は弱い存在ではないのだと気づき、に自信を持って剣を振るえるようになって、香織に互していく、その積み重ねの日々がどう描かれるのかが興味深いし、とても待ち遠しい。


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