MaJiRi

 「すぱげってぃ」が大好きで「ぶーけがるに」を大失敗する可愛い所もあるけれど、その正体は古来より生き続ける妖怪の一族を束ねる”鬼”の少女が主人公のコミック「KaNa」(爲我井徹原作・相良直哉絵、ワニブックス)。そのシリーズにも連なるのが、同じ爲我井徹とランニングフリーによる本書「MaJiRi」(集英社スーパーダッシュ文庫、533円)だ。

 内容は問えば「KaNa」の半ば外伝めいた所を持っていて、「KaNa」の中では妖怪たちを支配しようと企む秘密組織「七つの頭」のメンバーとなるサトリの女性・西東南がやはり悪役めいたポジションで登場していて、読み終えると「Kana」との関連を調べてみたくなって来る。もちろん本書だけでも十分に一つの用は果たすので、気にせず単独で読んでもらって構わない。

 大学生の黒坂桐人はある人バイト先のコンビニで謎めいた美少女を見かける。怪しい動きを見せなかったにも関わらず、レジ前に来て桐人に話しかけて来た少女は全身から万引きしたと思われる商品を出して積み上げ「気がつかなんだかえ? まだ目覚めておらぬようじゃな」と言い残して去る。だがバイトからの帰り道、桐人は何者かに襲われ命を奪われそうになり、そこをコンビニで彼に接触して来た先程の少女に助けられる。実は彼女はオサギツネという種の妖怪で、桐人の中に眠ってる黒坂命の血を甦らせようとして接触して来たのだった。

 桐人の所には謎の男たち、黒坂命にかつて滅ぼされたという佐伯の一族が諦めずに襲いかかり、桐人が好意を抱いていた同級生の高見涼子も巻き込まれての戦いの幕が切って落とされる。もっとも最初は単純に巻き込まれたかに見えた涼子自身にも、実は桐人といろいろと因縁めいたものがあって、且つ黒坂命が祭られている「黒崎神社」に行ったにも関わらず、何故か桐人が黒坂命の記憶に目覚めなかった理由も明らかになって、話はそれこそ黒坂命の時代にまで遡っての愛憎入り交じる複雑な展開を見せて行く。

 日本に独特の「風土記」辺りに記された伝承を踏まえ、人間と妖怪との関係にスポットを当てて書き込んで行く腕前は流石に「Kana」の原作者だけあって緻密なもの。もっとも黒坂命の血を引くという桐人、黒坂命の妻だった日高見信太普津姫の血を引く少女に黒坂命に裏切られた一族の血を引く男という構図が、年月を経て現代に甦ったのが本書で描かれる物語だったとして、1つにはどうして過去にも同じ甦りの構図がおきなかったのかという疑問があり、その時に宿業となった事件の真実が伝えられなかったのかという疑問が巻き起こって悩ましい。

 なぜ一時にこうも目覚めが集中したのか。そしてまた狭い場所で巡り会えたのかといった極めて小説的な展開を単なる偶然で片づけ、だからこそ過去に同種の事件は怒らなかったのだと理解することの妥当性には正直迷うが、繰り返される輪廻転生の中で受け継がれる宿業が、遂にほどける時が来たのだと理解することも決して不可能ではない。ここではむしろ、血の因縁をめぐる戦いに終止符を打ち、宿業を払って未来へとつながる希望が示されるクライマックスまでを一気に引っ張って行ってくれる腕前に、ひとまず感嘆することにしよう。

 「七つ頭」は着々と組織を拡大し、「ソロモンの指輪」は妖怪たちを襲い「KaNa」たちを今も着々と追いつめている。「MaJiRi」のエンディング新しく生まれた命が果たして「KaNa」に絡んでいたのか、あるいはこれから絡んでいくのかは分からないが、可能ならば血の因縁がほどけた黒坂がこの後どうなっていくのかをこちらで続け、「KaNa」は「KaNa」として続けつつ、同じ年表の上に両者のクロスポイントを設ける日があっても悪くはない。正体はともかくとして人間化した時の姿と喋りのギャップがおかしいオサギツネ=香の再登場も願いつつ、作者の刻む現在の「風土記」の集大成が果たされる日を待とう。


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