レディ・スクウォッター

 ヤング・アダルト小説は時にキャラクター小説と言われることがあるけれど、どうであってもキャラが立っていなければいけない、といった理由からか、1本通せば結構ハードなネタの上に、無理目に美少女キャラを立ち上げた挙げ句に、何だかバランスが悪くなってしまうケースもないでもない。

 もちろん、作家によってはいかに爆裂したキャラであろうと場にそぐわないキャラであろうと、物語の前面にしっかりと立てかつ、背後で流れる壮大稀有だったり吃驚仰天だったりする仕掛けを、物語の中で読者に分からせるチカラワザに長けた人もいるから一概に言うことは難しい。結局のところは当たり前ながら、物語屋としての腕前にかかって来るんだろう。

 都筑由浩の「レディ・スクウォッター」(電撃文庫、570円)の場合、小惑星帯で遭難して奥さんを謎の兵器に殺された旦那が、まだ赤ん坊だった娘とかろうじて逃げ出すエピソードをプロローグに幕を開けたのは良いものの、本編に入ると話は一変して難破船を巡るツアーが盛んになっているちょっと未来、中小ながらも定評の旅行会社か仕組んだツアーのために先遣隊が難破船を探索する場面が描かれる。

 表紙には美少女でタイトルにはレディ。帯には「その難破宇宙船には主所と悪魔が待っていた。」なんてあるから読む方としては当然考える。そうかここで先遣隊の船員たちが出逢った少女がヒロインとして悪魔と戦うなり、悪魔として襲って来るんだろう。そうアタリを付けて読んでいたのに、先遣隊が難破船で出逢った少女はどうやら悪魔を追いかけ続けるハンターという訳ではなさそうで、むしろもう少しプライベートなこ理由で難破船へとやって来ていたらしいことが分かって来る。

 なるほど悪魔とも言うべき怪物は出てくる。人類が長く戦い続けている悪魔的な生物「リッパー」。ぶよぶよとした本体で子供を作って成長してく生命体だけど、武器とか機械とかにとりついてその性能をまるごとコピーしてしまう力を持っていて、人類もなかなか歯が立たない。少女がやって来た難破船にもどうやら「リッパー」が棲み着いていたようで、難破船の探索にやって来た船長と船員ともども「リッパー」に襲われてしまう。

 もっとも、少女がそこで遭遇した「リッパー」に対して獅子奮迅の活躍を見せてくれる訳でもなく、探索に来ていた旅行会社の先遣隊のパイロットたちの勇気ある行動の陰に隠れてどちらかと言えば助けられる側に回ってる。あんまり主役っぽくない。対して船長は自らを犠牲にして部下と少女を助けようと頑張るし、船員の方も後になって少女の異母弟妹らを助けようとして自らの命を懸ける。

 「リッパー」が本当に人類にとって最悪の存在だったことが物語の中で明らかにされていき、その何とも不思議で不気味な習性をいかに逆手にとって倒すのか、といった人間との頭脳プレーを軸に男たちの因縁が絡まって、ハードでサスペンスフルなSFドラマが描かれる。唯一、ディーと名乗った少女の存在だけが浮いているようで、ためにどこか目線がズレてしまうような読後感があって戸惑う。

 あるいはディーの親思い家族思いの気持ちを中心軸に据えつつ、周囲で巻き起こる人類の危機に巻き込まれ立ち上がり因縁これありな男たちも絡んで一大バトルへと発展していくような流れがあったら、もっとすんなりと物語に入り込めたかもしれない。キャラが立つのは一向に構わないけれど、立ち過ぎているキャラが他に何人もいてタイトルを背負って立つだけの存在になり切れていない。そこがどうしても気に掛かる。

 宇宙生物のアイディアにしても、それを倒す段取りにしても、なかなかに面白く考え抜かれていてて、それらを1つひとつ浚っていけば十分に楽しめることも事実。あるいはラストの続きがありそうなエピローグも含めて、壮大な人類と宇宙生物との戦いを描くシリーズの幕開けを飾る、1冊がまるごとプロローグなんだと思って読めば違和感も小さくなる。家族との柵から抜け出て自由になったお転婆スクウォッターがこれからどんな活躍を見せてくれるのか、そして人類最悪の敵をどうやって倒していくのか、といった展望への興味を抱きつつ、期して次を待とう。


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