ラドゥーナ
LAD:UNA


 きっかけは単純にして明快。表紙に描かれた女性があまりに色っぽかったから。スレンダーな姿態ながらもバストは巨大でふくよかで柔らかそうで、振れたらいったいどんな感触を手にあたえてくれるのか、うずめた顔にいったいどんな豊潤な香りをもたらしてくれるのかと、想像するだに脳天から足の裏へと抜ける電撃が全身を走った。

 加えて深く入ったスリットからのぞく、ガーターベルト付きストッキングのレースが醸し出す官能。かくもすさまじきオーラを放つこの本を、避けて通れる男はこの世の中になかなかいない。という訳で1も2もなく購入してしまった伊藤真美の「LAD:UNA 1」(ワニマガジン社、857円)は、表紙のみならず、というより表紙以上に中味の色っぽさは格別。それもそのはずこの作品、エロ漫画誌に連載されているもので、描かれるエピソードのすべてにセックスシーンが存在して、表紙では服によって遮られている女性の官能が、中味ではページのいたるところで暴発しては、男性に特有の生理現象を引き起こしている。

 けれども実はこの作品、そうした官能の処理が案外と些末なことに思えるくらい、描かれている人間存在を問うエピソードの深さ、人類全体に及ぶテーマ性の広さ、さまざまな登場人物が織りなすドラマの多彩さが素晴らしく、かくも凄みのある絵でかくも素晴らしい物語を紡ぎ出せる人材が、いわゆるメジャーなシーンではない場所にまだまだ大勢いるだろう可能性をうかがわせてくれる。突出した才能なという可能性ももちろんあるが。

 時は未来。環境の悪化か戦争の名残か化学物質の影響か、人類の多くが生殖能力を失ってしまった地球で、一部の遺伝的エリートたちは中央管理局(センター)を作り上級市民として血統の維持につとめていた。一方で遺伝的な欠陥を持つ落ちこぼれたその他大勢の人々は、スラムを作り日々の糧を得ようと一所懸命に生きていた。

 主人公の少年、ディーラもそんなスラム暮らしの1人で、類稀なる愛敬でもってスラム1といわれる娼婦の女性に慕われたり、スラムを仕切るホモセクシャルの男性に関心を持たれたりしながら生きていた。けれども実はディーラには出生の秘密があって、物語の方ではディーラのスラムでの日々が描かれながらも、次第にディーラの出生の秘密のみならず、世界の構造も明らかにされていく。

 冒頭の「セサン」では、無垢な少女がスラムの男に好意を抱いてセンターから逃げて来たまでは良いものの、手ひどい裏切りに合うエピソードが描かれる。話は動かないもののセンターがありスラムがあり人間の生殖能力に異常が出ているという世界設定が説明されて、ディーラなる主人公の人となりが示される。2話目の「ヤニシャ」もほぼ同様。スラムの人気娼婦だったヤニシャとディーラの一夜限りの逢瀬の中で、この世界に存在する厳然とした身分格差が浮かび上がる。

 「11で両親を亡くした俺は施設にいれられた」「施設を14の時逃げ出して投じつるんでた友人達と工場地帯の片隅の空き地をこっそりと共同住居として暮らし始めた」。本人によって語られるディーラの生い立ちから始まる3話目の「マースゥ」で、スラムの顔役とも言えるホモセクシャルのメルンが登場しては、高級娼婦もマースゥとの間でディーラを間に対峙する様が描かれ、単なるチンピラではないディーラの立場が判明する。そして4話目。「猫目のディドーの女たち」によってセンターがスラムを薬品の実験場にしている実態が描かれ、続く「シャーリ」でセンターとディーラの関係が、「ウーネル」でディーラ出生の秘密がほのめかされ、滅びに貧した人類のあがき、生命倫理に深く関わるテーマが提示される。

 スタイルが良く肉感的なキャラクターを描く絵の巧さにも驚くが、時にセンチメンタルだったり時にエキサイティングだったりする物語を織りあげる創作力には脱帽するばかり。発表媒体の関係から毎回のようにセックスシーンが描かれるのは当然として、アダルトな漫画に時としてある性描写の唐突さはなく、物語の中に必然として折り込まれているためストーリーを読む上で何らさまたげにはならない。地球に戻ってきた宇宙飛行士が祖国を売り渡した勢力を相手に復讐を果たそうと歩く度の途中、出会う女たちとセックスをしていく松本零士初期の傑作「マシンナーズ・シティ」にも通じる部分もある。もっとも女性の表情の可憐さと肉体の豊満さでは「LAD:UNA」の方が上にあるが。

 「『ダーフ』 中央管理局の中でもごく一部の医局員にしか知られていない部署よ。特別機密研究部……私そこに行かなきゃならない……」。そういって過去、ディーラのもとから去っていった少女はいったい何者なのか。「…またちゃっちゃったのか俺…」「……また助けてやれな………」。そう言っていっしょに逃げようとしたものの突然死んでしまった少女の遺体を背負ってセンターから歩み去るディーラーの以前犯した失敗とは。ディーラの正体と過去への興味、人類が種の存続の危機に際して犯そうとしている罪の是非など、想像力をかきたてられる部分を数多く残して第1巻きは閉じられる。豊満な女性たちによって繰り広げられる官能的な描写のさらなるスケールアップに対する期待も加わって、今はとにかく早急に第2巻を出せと心の底より訴えたい。


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