凍る空、砂鉱の国1

 梅田阿比の「クジラの子らは砂上に歌う」があって、白井弓子の「イワとニキの新婚旅行」があって、吟鳥子の「きみを死なせないための物語」もあってと、SFやファンタジー方面に攻めている感じがする秋田書店の少女漫画からまた1冊、とてつもなくファンタジーで、そしてSFでもありそうな作品が登場した。

 青井秋による「凍る空、砂鉱の国1」(プリンセス・コミックス、454円)は、砂漠が広がる世界にあって、集落でフラグメントの細工職人をしている少女セッカが主人公。フラグメントとは、触れたものを縮小してしまう“銀砂嵐“によってできる、風景が閉じ込められた結晶のこと。それが自然の風景などなら細工してドームに入れて飾ってインテリアにできる。そうした細工をする職人がいて、セッカも師匠のもとでドーム作りに励んでいた。

 ただし、フラグメントには、時に巨大な銀砂嵐が人のいる場所を襲ってのみ込んで、人もろとも巨大な結晶に変えてしまったものもあった。過去、そうやって滅びていった街や集落が世界にいくつもあった。そして今度は、セッカが師匠と暮らしていた村もそうなってしまった。

 頑張って自分なりの細工を作れるまでになったセッカは、師匠に町へと連れて言ってもらった。そこでセッカは、奇妙なフラグメントの細工を売る店に迷い込む。その後に銀砂嵐が吹いているという報が伝わり師匠は先に村へと戻るが、続けて巨大な巨大銀砂を見たといった声が伝わってきて、気になり後を追ったセッカは村が消えてしまっていた様を目の当たりにする。

 村が結晶と化し、縮小化を始めたのを見て師匠たちを助けなければを足を踏み出したセッカを引き留めた手があった。すぐに嵐の第2波が来ると忠告をしたのは、どこか謎めくところを持ったティトという少年だった。もっとも、ティトはそこで動けなくなってしまい、水を求めなくてはと周囲を見渡したセッカのところにキャラバンの一団が現れ2人を助ける。

 最初は敵か味方か分からず、人買いだと思いこんでしまったこともあってセッカとティトは逃げ出すものの、戻った町で知人から、そのキャラバンが結晶化したフラグメントを探し求めるハンターだと教えられる。そして聞かされる。結晶の中に村を内包しているようなフラグメントを集め、細工して売りさばく謎の一団の存在を。町でセッカが迷い込んだ店も、そんな一団の取引場所だった。

 セッカの故郷の結晶もその手に落ちた可能性があり、イスカというキャラバンに属する女性の母親が巻き込まれた銀砂嵐で生まれた結晶も、一団に持ち去られたらしいと聞かされ、セッカはイスカが属するキャラバンと旅を始めながら、謎の集団を追い求めることになる。

 風景が人間ごと結晶に閉じ込められ、縮小して宝石のようになってしまうという不思議な設定の世界を舞台に、運命に翻弄される少女であり、どこから来たかも分からない謎めく少年であり、結晶に閉じ込められた故郷を求めて謎の一団を追う女性ハンターといった具合に、それぞれに事情を抱え、秘密も持ったキャラクターたちが砂の海を進んでいく展開がワクワクとさせる。淡々と進む展開の中に開かされる世界の様。その先にあるのはどんな驚きか? 興味を惹かれる。

 アーキオと呼ぶ不思議で便利な装置を傍らに侍らせ、フラグメントの位置を正確に把握できると噂されるティトという少年から明かされるその正体。本当なのか嘘なのかも分からない中で、世界が1枚ではないことが想像され、背後に、あるいは外側にどんな世界があるのかといった思考を喚起させられる。ファンタジーがSFへと変わる可能性がそこにありそう。果たしてどうなるか。続きを読むしかばい。

 昔はこういう少女漫画でファンタジーでSFが割とあった。佐藤史生であり鳥図明児であり萩尾望都であり。そうした記憶を刺激される作品を出し続けている秋田書店から生まれた「凍る空、砂鉱の国」。結晶に閉じ込められてなお命は紡がれているのかを気にしながら、今はそうした謎が解き明かされる時まで追い続けたい。


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