君は月夜に光り輝く +Fragments

 割り切れなくても、決着を付けての離別だったら受け入れて、受け止めてそして飲み込んで次へと歩み出せるものなのかもしれない。けれども、遠くから眺めていただけで、自分自身で決着にはできなかった離別はしばらく引きずって、次の決着まで気持を虚ろな中に漂わせるものなのかもしれない。そんなことを、佐野徹夜の「君は月夜に光り輝く +Fragments」(メディアワークス文庫、)を読んで思う。

 不治の病の発光病で余命ゼロの渡良瀬まみずがノートに綴った、「死ぬまでにしたいことリスト」の記述を代行し、やってやりまくってやりきった果てに離別を迎えた岡田卓也とまみずとの関係が、佐野徹夜の「君は月夜に光り輝く」(メディアワークス文庫)という小説には綴られている。映画にもなって、北村匠海と永野芽都が卓也とまみずを演じて、SEKAI NO OWARIのサウンドとともに短くも煌めく青春の輝きを描き出す。

 「君は月夜に光り輝く +Fragments」には、そんなまみずがまだ存命だった頃の卓也との交流を描いた「私がいつか死ぬまでの日々」というエピソードがあり、卓也の友人でまみずのことが初恋の相手だったという香山彰の心情が綴られ、そしていじめられていた岡田卓也と出会い知り合うまでが綴られた「初恋の亡霊」というエピソードがあって、2人の男子がどういった“過去”を背負っているかが改めて浮かび上がってくる。

 そして、「ユーリと声」という短編というか中編で、卓也のようにまみずを見送れなかった香山の漂う日々が綴られる。女性にモテる香山は一浪して入った大学でも女性と関係を持ちまくるものの、どこか気分は虚ろなままで、もう退学してしまおうかとも思っていた、そんなある日。大学でピアノを弾いていた年上の女性と出会う。

 市山侑李という名の女性は、ピアノ教室で教えながら家でアナログレコードのレンタル業もしているという不思議な人。その侑李に惹かれたか気になった香山は彼女と交流し、酔っ払った侑李をかついで連れ帰って家に入り込み、男女としての関係を持ったら何と侑李には結婚していた過去があって、声という名の娘がいた。

 まさに間男。そして娘にとっては父親の敵、非難されるかと思いきやどうにも醒めた娘で、香山に母親とは寝たのかと聞くくらい。それだけ侑李がいろいろな男と交流していたという現れでもある。そして香山は声に嫌われている節もなく、むしろ夜中に徘徊する癖がある声と出会った香山はいろいろと言葉をかわすようになり、侑李が無茶苦茶な行動に出た時には憤って家出した声といっしょに日本中を旅して歩く。

 貸しレコード店を作り営みながらも発光病で死んだという侑李の夫で声の父。そのエピソードを聞いて香山に浮かぶまみずの思い出。だからあるいはと侑李に告白したら、彼女は彼女でいろいろと関係が広がっていて、自分は選んでもらえない。それもまた虚ろな気持へと香山を陥りさせそうだけれど、本気が芽生えた出会いからのそういった離別を経ることで、もしかしたら香山はまみずへのもやもやとした思いもいっしょに振り切って、改めて自分という存在を確認して、生きていこうと決意したのかもしれない。

 すでにまみずの死を経て自分は生きようと決意し、医大を出て研修医になった卓也の独白が綴られた短編「海を抱きしめて」で終わる「君は月夜に光り輝く +Fragments」。読めばいろいろな人たちのそれぞれに訪れる離別との決着、死への覚悟、曖昧で虚ろな自分から戻る意思などを得られるだろう。


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