人狼城の恐怖 第1部=ドイツ編

 「ハーメルンの笛吹き男」の伝説っていうと、山田ミネコさんのパトロールシリーズの1冊「笛吹伝説(パイドパイパー)」(徳間書店、たぶん絶版)を真っ先に思い出す。時間パトロールの西塔小角が活躍するシリーズで、ハーメルンの笛吹き伝説に題材をとって、時間犯罪者との戦いを描いた話だったと思う。伝説自体は、子供の頃に読んだ民話集かなんかで知っていたけど、やっぱり漫画って、視覚に訴えかけるせいもあって、印象に残りやすいんだね。

 狼男っていえば、やっぱり平井和正さんの「ウルフガイ」シリーズかなあ。それと手塚治虫さんの「バンパイア」。どちらも狼男が主人公の小説や漫画で、悪者に追われ闘いながら生きていくその生き様に強く惹かれた。欧米人が「狼男」にどんな印象を抱いているのか知らないけれど、日本では「狼男」はカッコいいんだ。あっ、藤子不二雄さんの「怪物くん」に出てくる狼男だけは別ね。でも彼って料理がうまい、お茶目な狼男だから、やっぱり欧米の狼男観とはズレているなあ。

 なんで「ハーメルンの笛吹き男」と「狼男」の話をしたかっていうと、二階堂黎人さんの「人狼城の恐怖」(講談社ノベルズ、1100円)の冒頭に、この2つの「伝説」が載っていたからなんだ。「笛吹き伝説」の方は昔読んだ伝説のままだったけど、「狼男(ここでは人狼)」の方はボクの知らない話。もしかしたら「フランケンシュタイン」とか「吸血鬼ドラキュラ」とかいった西洋怪談の1つとして、とっても有名な話かもしれない。でも日本の「狼男」のカッコ良さに魅せられたクチとしては、あんまり読みたくないなあ。超ワルそうなんだもん、二階堂さんの話の伝説に出てくる「人狼」って。

 2つの伝説をマクラに語られる本編は、埋もれていた謎の「人狼城」に正体された資産家の夫婦や没落貴族や学者や会計士や女優らが、次々と殺害されていくって話。主人公になるのは売れない音楽家の青年で、何物かによって「人狼城」に閉じこめられて、ツアーの参加者や城に住んでいる貴族の使用人たちが、残酷な殺され方をしていく恐怖に怯えながら、懸命に突破口を探そうとあがく。ツアーの参加者ってどうやって決まったの?人知れず放置された人狼城を買い取って住んでいる貴族っていったい何物?そして主人公の音楽家の青年、テオドール・レーゼの正体は?

 谷川を挟み、フランスとドイツの国境を挟んで対峙する双子の城「人狼城」。第1部が「ドイツ編」と付けられたのは、舞台がドイツ側に建っている「銀の狼城」だったからで、予定されている第2部「フランス編」では、たぶんフランス側に建っている「青の狼城」が舞台になるんだろう。第1部では結局、提示される謎にはひとつも解答が与えられていないんだけど、最後の最後に強力な引きを設定して、次の「フランス編」への興味をかき立てているから、終わっていないからって、全然心配することない。とりあえずは大長編ホラー・ノベルズの導入部として読んでみて、もやもやいらいらとしながら、第2部を待つってのがいいかもね。

 でも「フランス編」の次には「完結編」が待っているっていうから、もやもやいらいらはそれが出るまで続くことになる。気を長くして待っていようね。最後の場面でわなわなになったりげらげらになったりするかもしれないから、今は積極的には勧めない。

 あっと、この話はいちおう二階堂蘭子シリーズとして書かれているんだけど、第1部には蘭子ちゃんはまだ登場しない。次の「フランス編」に登場するかも解らない。最後には必ず登場するんだろうね。「完結編」の舞台ってどこになるんだろう。まさか日本?うーん、早く続きが読みたい。

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