映画大好きフランちゃん

 杉谷庄吾[人間プラモ]による「映画大好きポンポさん」のスピンオフ漫画、「映画大好きフランちゃん NYALLYWOOD STUDIOS SERIES」(KADOKAWA、880円)を読んで傷を抉られているというか、尻を蹴飛ばされているような気がして腰が砕け、心が萎える。

 「映画大好きポンポさん2」で、ニャカデミー賞監督となったジーン・フィニが撮った映画に対抗するべくポンポさんが撮った映画のヒロインに抜擢された、映画会社の側にあるダイナーのウエイトレスのフランちゃんを主役にしたストーリー。「映画大好きポンポさん2」の裏側で、何が起こっていたかが描かれる。

 そこでは、女優になるにしても何になるにしても、本当にやりたいことをやるためには、自分で場所を作ろうと動かなくてはいけないといったことが語られている。ひるがって自分はどうだっただろう。やってきたことをやり続けられるために自分は何かをしたのだろう。そう振り返って、やって来なかったとなあと自覚し後悔して気が沈む。

 女優になりたい、スターになりたいと願いってオーディションを受けまくっても、演技が硬くて応用が利かず、落ちてばかりいるフランちゃん。自分ではよくやっているつもりでも、プロのスタッフには通用しない。そんなフランちゃんに敏腕映画プロデューサーのポンポさんが、アドバイスめいたことをしてだんだんと立ち直らせていく。

 もっとも、ポンポさんはあからさまなアドバイスはしない。例えばオーディションに行ったら、台本なんか読んでないで他の人の演技を見ろと諭して自分がどれだけヘマをしてきたかを分からせる。役に合っていない。堅すぎる。焦りすぎ。そんな演技がすべて自分に当てはまるとフランちゃんは気付く。

 そう。自分から気付かなければ意味が無い。そういう意味でのスパルタであり愛情もあるポンポさんのアドバイスにちゃんと気付けたフランちゃんを主役に1本、ポンポさんが映画を撮ってフランちゃんがスターになって、これで万々歳とならないところが「映画大好きフランちゃん NYALLYWOOD STUDIOS SERIES」の凄いところだ。

 ニャカデミー賞監督のジーン・フィニと互角に勝負したポンポさん監督の映画で、見事にヒロインを演じたフランちゃんにはすぐさまたくさんのオファーが舞い込んだ。けれども、フランちゃんはそれらのオファーをすべて断ってしまう。いったいどうして? それは企画を考えていたから。自分がやってみたい映画のための企画を練り上げてポンポさんに見せることで、誰かの顔色をうかがって過ごすんじゃなく自分の力で自分の居場所をつかもうとした。

 そうした前向きで積極的なスタンスに、ポンポさんも乗り仲間の脚本家や音楽家も引き込まれて、フランちゃんをもっと守り立てていこうとする。そんなストーリーから浮かぶのは、いくら自分では頑張っている気になっても、誰かに必要とされているとは限らないから、必要とされるように努力しなくてはいけないということ。そのためにフランちゃんは自分が輝ける場所を自分で作った。

 自分はどうだっただろう? 。与えられた場所で目一杯にやっていれば次もちゃんと続けられると思っていたし、実際にどうにか続けてこられたんだけれども気がつけば不要とされて次の居場所はそこにはなかった。しばらく雌伏をすればまた必要とされたかもと思っていたりするのが未練となって、なかなか前向きになれないでいる。1年近く経っても。

 そんな状況になる前にフランちゃんだったらどうするか。そこに居場所がないのなら、自分で居場所を作ろうとして手練手管を駆使するだろう。ポンポさんという応援はあっても、自分自身で気付いて何かを成し遂げようと走り出すだろう。そういう人にこそ手は差し伸べられ、道は開かれるのだと言うことを、「映画大好きフランちゃん NYALLYWOOD STUDIOS SERIES」から学んだ。

 だったら自分も……という時に、やっぱり躊躇う自分の尻を蹴飛ばしてくれるポンポさんはいないのか? そう探して見回してしまう自分にはなかなか未来は来なさそう。それでもやって来たことを認めてくれる人たちがいることを感じ取り、そんな人たちの思いに答えられるような居場所を作れたらと願う。作らなくてはと思う。フランちゃんのように。ジーン・フィニのように。


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