放課後関ヶ原 1

 阿部川キネコの「放課後関ヶ原 1」(秋田書店、533円)という漫画を単行本として手に取って、読んだ後にそれがあの、乙女な漫画の殿堂ともいえる「月刊プリンセス」に連載されていたと知って、驚かない人が果たしているだろうか。

 絢爛にして深淵。耽美にして高踏な漫画の数々が掲載され、少女漫画の歴史にその足跡を刻んできた漫画誌に、いったい何が起こったのか。それを想像する術はないが、あるいは昨今の戦国ブームを取り入れようと企んで、描かれるキャラクターの確かさに、これは確実に耽美な路線を確保できると思いきや、意外な方向へと横滑りして、土砂崩れとなってしまったのかもしれない。

 ともあれ、凄い漫画であることだけは絶対確実。読み終えれば誰の口からもイッツワンダフルといった言葉が飛び出し、エブリバディーはマストリードだぜイエイッといった言葉も飛び出して、誰にでも勧めようとするだろう。もっともこの漫画に登場してくる伊達政宗は、馬をバイクに見立てて突っ走り、時代など無関係に英語で叫ぶ暴走族のリーダーといった風体ではないのだが。

 なるほど見ばえはいいものの、内実は山育ちのオタク野郎。いつも食べてばかりで格好良さは対極に位置する。むしろイケているのは真田幸村。その学校「戦立関ヶ原学園」に転校してきた、小松右京というSF作家にいそうな名前の少年が、登校途中に出合って学校まで行く道中を、引っ張って助けてあげる親切心を持っている。

 右京が校長から古い甲を被せられ、誰の生まれ変わりかを指摘する甲の言葉によってクラス分けをさせられるという、どこかのファンタジーの入寮を思わせる処遇を受けたものの、誰の生まれ変わりかすら分からなかった小松右京が、西でも東でもない流浪組に入れられたところを、誘っていっしょに遊んでくれようとする。

 何というおおらかさ。生まれは外国で、両親も兄弟も外国人で、暮らす家はまるで忍者屋敷のように仕掛けがいっぱいで、たずねていった右京に忍者を見たことがあるかと訪ね、夢を壊してはいけないと右京が忍者は隠れていて見えないんだというと、目を輝かせて大喜びする純粋な一家。その血を受け継ぐ幸村君も純真無垢な忍者ファン。いつか忍者に逢えると良いねと、つい応援したくなる。

 とはいえ、普段は流浪組の小松右京が出合ったのは、なぜか西にも東にもいれてもらえない武将の生まれ変わりたち。本当だったら一方のリーダーであってもおかしくないのに、石田三成は両方から嫌われたようで流浪組で鬱鬱の日々。そして小早川秀秋にいたっては、過去の裏切りが石田三成からも疎まれているという悲惨な目に合っている。

 誰も彼もが毒々しいオーラを放つクラスで、どうにか頑張っていた右京の前に、上杉謙信が現れ見目麗しく立派な生徒会長然として立つ。もっとも。実は階段の下からまくれあがるスカートをのぞきたがるという助平だった上杉謙信。生涯不犯という誓いを立てて子孫を残せなかった反動が、生まれ変わって暴発した。

 もう1人、松永久秀こと弾正という裏切りと謀略で戦国を駆け抜けた武将の生まれ変わりが居て、これまた助平で謙信と良いコンビを見せていた。もっとも見た麗しい謙信と、見た目怪しげな久秀とでは周囲の女子からの扱いに雲泥の差が。人間やっぱり外見だ。

 さらには毛利元就の3人の息子たち。右京を父親の元就かと最初は思って探しに来た3人の、なぜか1番小さい子が長男らしいという生まれ変わりの順序のいたずら。なおかつその正体は……というサービスも用意。伊達政宗の正室と側室の争いの中にも現れたサービスに似てはいるが、どっち側の表現が良いかというと……どっちも良いかもしれない。可愛いは正義。ついていて美少女でも、美少年のようでついてなくても。

 それにしても、伊達政宗の側室だなんて、普段の戦国テーマな漫画に出てこないようなキャラが出てきては、実際の歴史をなぞった活躍を見せてくれるこの漫画。本多忠勝の娘で、真田幸村の兄の信之に嫁いだ小松姫。普通はあまり知られていないキャラクターも登場しては、その説明から歴史のあれやこれやを、しっかり学べるようになっている。

 武将にときめき、ギャグに喜び、知識も得られるそお得さで好評を得たようで、晴れて「月刊プリンセス」でも続投が決まったというから素晴らしい。これはもう読むしかない。「月刊プリンセス」の連載で読んで他とのギャップに驚くも良し。単行本で読んで突き抜けた笑いにふるえるも良し。一生に残る何かをきっと与えてくれるだろう。それはいった何なんだ


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