姫騎士征服戦争

 姫騎士とはいったい、どんな存在なのか?

 「姫」は立場だけれど「騎士」は役目であって、その役目に準じるならば姫騎士とは、それなりに強い女性で、なおかつ王族の娘ということになる。別に美しさとは関係なく、長身でアマゾネスもかくやと思わせるマッチョな体型で、太い腕に大剣を握って振り回していても、立場的に姫であるならそれは姫騎士と呼んで差し支えない。そうだろう?

 とはいえ、世間に流布される姫騎士という存在は、まず美少女であって、そして姫であることが最も重要視されている。その上で、騎士でもある強さが付与された存在となっている。そんなのありか! といった思い抱く人も多そうだけれど、細身のイケメンが騎士として最強だったりする世間も多かったりするから、目くじらを立てる事ではないのかもしれない。ベルセルクに負けずグリフィスは強かった訳し。あれこそ姫騎士って奴だろう? 姫ではないけれど。

 いや、だから姫騎士の話だ。ある種の男たちの願望を乗せて登場したとも言えるその存在は、今やひとつの人気カテゴリーとなっているようで、強さを誇って戦いながらも、より強大な相手の前にその強さが退けられ、屈服させられ陵辱されるという展開まで乗っては、そうした男たちの欲望の器となっている。

 それは、ファンタジー世界によくいる生物のオークによって虐げられる場面で、「クッ、殺せ!」という言葉を吐くところまでが、ワンセットになっている。そんな話もあるけれど、そういう種類のゲームをプレーしたことがない身には、いったい何のことか分からない。ただ、姫ではないものの女騎士さんが、ジャスコに行って「くっころ」を連発している小説だったら存在する。あれなどは、姫騎士というカテゴリーにおけるパターンの変奏と言えるのかもしれない。

 そしてこれも、姫騎士というパターンを逆手にとっての変奏というか、オーバーアレンジというか。深見真によるその名も「姫騎士征服戦争」(ファンタジア文庫、580円)は、姫であって騎士でもあるルアナという少女が、目つきが悪くて辺境あたりで散々鍛えたベニーという名の少年を従騎士にして、各地で起こる戦乱へと割って入って、敵方の姫騎士を次々にコレクションしていくという展開。

 なんだ、その冗談めかした出落ち気味の設定は? 聞けばそう思う人もいそうだけれど、これが案外に設定落ちにはなっていないところが面白い。

 最初こそ、戦場に出てきたマリカ・ゴドレーシュという名のお嬢さま然とした美しい姫であり騎士をやっつけ、本国へと連れ帰っては拷問するぞといういかにもな展開に持って行きつつ、肉体を蹂躙はせず、その意思をくじきつつ、捉えられた姫騎士が心のよりどころにしていた実家から断絶されたことを伝え、絶望させてそこを慰撫し、配下に加える展開へと持っていく。

 実に心理戦。次の姫騎士をコレクションする場面も含めて、しっかり相手の心理を読んでは、硬軟剛柔の変化をつけて心を揺さぶり、配下へと加えていく展開が繰り出される。なるほど、身内に拷問も暗殺も得意な少女を入れてみたり、オークを仲間に入れてみたりして、残酷な展開を予想させたりもする。

 けれどもやっぱり、ストレートでありきたりな展開には向かわないストーリー。オークは実は最高学府を出たインテリで、普段は眼鏡をかけているのを、姫騎士が相手の時には外し、怖がらせようとして姫騎士にバレて、素の自分に戻ってしまったりと、そんなあたりも定番を外した裏狙いがあって飽きさせないし、呆れさせもしない。

 進む展開では、狙った姫騎士がいったいどうしてそういう状況に置かれているかを読んで、その窮状から救い出しつつ、敵となったこれも一種の姫騎士の横暴の裏にある、チヤホヤとされているからこそ抱く寂しさを読んで、慰めつつ救い出して配下に加えていく。そこにもやはり、剣技や体術によるバトルとは違った、心理戦めいたものが漂う。

 タイトルから強く醸し出される、エロスとバトルの肉弾戦のような展開で読む人を常識の範疇に引っぱり、楽しませるようでいて、出落ち気味の設定を振り回し、ドラマを加えて人間の心の機微を読ませ、考えさせたりする物語。さすがは深見真というより他にない。

 これからもそんな展開で、次から次へと立ちふさがる姫騎士たちを平らげていくんだろうか。そこではどんな戦いと、そして心理ドラマを楽しませてくれのだろうか。次が楽しみ。出ればだけれど。出るのかこの次?


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