花園(上)

 2019年に日本で開催となるラグビーワールドカップ日本大会をいっしょになって盛り上げようとしているのか、このタイミングでラグビーならヒットも期待できるかもという便乗か、分からないけれどもいずれにしてもラグビーがテーマになったSFが、大いに関心を誘う時期だとは言えそう。

 とはいえ、面白くなければ便乗なら便乗の誹りを受け、コラボレーションなら中身が伴わないとラグビーそのものへの批判も呼び込んでしまう。その意味で言うなら、椎名寅生さんによるその名も「花園(上)」(星海社FICTIONS、1600円)は面白くて大いにラグビーワールドカップ日本大会も、ラグビーという競技そのものも盛り上げそうだ。

 ヘルヘイムルいう種族が暮らす星で、1500年とか大昔にラグビーらしき競技が大好きだった王族がいて、その遺志を引き継ぐようにして住民たちが宇宙をさまよいラグビーらしきスポーツの試合が出来る相手を探して地球へとたどり着く。まずはアフリカの小国をその進んだ科学力でもって瞬時に消滅させてしまうという荒技を見せ、自分たちが本気であることを示した上で、さあ世界のどこかの国がラグビーの相手をしてくれないかと誘いかける。

 ラグビーだったらオーストラリアだってニュージーランドだってフランスだてアルゼンチンだって強い国が世界に幾らだってあるのに、会議の席で見かけた日本になぜかそのヘルヘイムルという宇宙人たちは白羽の矢を立て、急な国籍変更などは認めず、現在の日本国民だけで試合に臨むように、そして勝利しなければ、アフリカにあった小国のように日本を消滅させると脅してきた。

 ラグビーの場合、国籍によらず一定期間をその国でプレイしていれば、その国の代表選手となって試合に出場できるルールがある。日本代表にもそうした選手はきっといただろうけれど、ヘルヘイムルとの戦いではそうした選手たちは使えない。とりあえず、侵略者であってもラグビーなりには正々堂々、フェアプレイの精神で臨んでくれるような雰囲気は見せていたものの、勝利が絶対の試合で、なおかつ相手は宇宙人だからどんな異能や科学力を持っているか分からない。そこで日本も考えた。そのチーム編成を。

 当時、日本代表にはすぐれたヘッドコーチが来ていたけれど、その試合にはあらゆる分野から人を誘ってテストを行い、トップでクリアしたという車いすの少女が臨時ヘットコーチとして就任した。ラグビーの経験はまったくない彼女は、けれどもチェスの世界では知られた存在。おそらくは思考と読みの力が図抜けていたのだろう。

 さらに屈強な日本代表選手や候補に混じって女子高生も2人ばかり選ばれた。理由はもちろんラグビーの能力とは別のところにあったけれど、それはチームメイトにも秘密にされていた。敵に漏れればいろいろと差し障りもあっただろうから。さらにもうひとり、蜥蜴人の少女も。なんでまた。どうやら数カ月前に群馬の地底湖で発見され、捕獲された際に日本国籍を取得したらしい。

 パワフルだけれどラグビーは知らず、意思疎通すら難しそうな蜥蜴人と、なぜか選ばれた女子高生2人とあとは生粋のラグビー選手たち。そこにざっくばらんな女性のメンタルトレーナーも加わったりしたけれど、その言動にはどこか怪しげなところもあった。そんな面々が日々の鍛錬を経て結束し、素人と見なされたヘッドコーチも練習試合で実力を認めさせ、女子高生の2人も蜥蜴人の少女(少女!)もだんだんと馴染んでいった先、聖地とおいえる花園ラグビー場でヘルヘイムルを相手にした日本の存亡がかかった試合が幕を開ける。

 とはいえ劣勢。とてつもない劣勢の中で秘密壁もぶち壊されて、もう絶体絶命のピンチの中で、神国たる日本の威力が発揮され、ひとまずの急場をしのいで下巻へと至る道が示される。敵も味方も総力戦になりそうな展開で、蜥蜴人はどんな活躍を見せるのか、そしてみすずも本領を発揮するのか。いろいろと気になる続き。どうやって勝つのか分かった時、それは日本がワールドカップで勝利する道に繋がる……訳はないか。蜥蜴人はまだ見つかってないし。探さなくては、群馬の地底湖を。


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