合コンに行ったらとんでもないことが起こりました

 いや羨ましい。まったくもって羨ましすぎる桜田くん。東大を出て官僚にはならずとも、首都を統べる役所に入って、安定性も将来性もほぼ確保。今はまだ新人だから、高田馬場にある支所で下働きのような仕事をしているけれど、いずれ本庁へと上がって中枢で、バリバリとキャリアを積み上げていくだろう。

 おまけにとってもモテモテだ。知人に合コンをやろうと誘われて、女子が1人足りなくなりそうだからと言われ、同じ支所で働く口数が少なくて真面目そうだけれども顔立ちは悪くない柏木さんを誘ってみて、OKをもらったりして何だうまくやりやがってコノヤロウ。

 もちろん人数会わせでカップルではないから、合コンで2人がどうにかなるということはないんだろうけど、身近に声をかけて着いてきてくれる女子がいる、っていうこの1点が、そういう知人のまるでない身にはただひたすらに羨ましい。ああ羨ましい。

 ついでという訳ではないけれど、その支所で桜田くんの上司にあたる佐藤さんも誘ってみたけど、やや年上なこともあって遠慮したのか参加はせず。ただこの桜田さん、仕事はバリバリとこなし言動もやや豪傑だけれど、そんな言動に反して小柄で幼い顔立ちというから、何というか素晴らしいというか。

 そんな上司がいて声をかけたら着いてきてくれそうなそぶりを見せるという1点がただひたすらに以下同文。羨ましさを超えた憤りすら浮かんでくる。モウコンチクショウ、ってなもんだ。

 さて合コン当日。何か急な用事が出来て柏木さんがいけなくなったとかでちょっと大変。とはいえ友人が代わりに連れて来るといった女性は、仕事が押した友人ともども合コンに姿を現さず、結果として同人数での静かで怠惰な時間が過ぎ、いよいよお開きかと思われた時、ひとりの気になる女性が現れた。

 どうやら桜田くんの知人が連れてこようとした、汐野希とう女性らしい。そう思い声をかけ、2人だけで抜け出し飲みにいって、良い感じになってキスまで発展。もはや怒りすら浮かばない夢展開に、唖然としていたのもつかの間、それが桜田くんにとってのどんでもない日常の始まりだった。

 という話が、鷲宮だいじん、という名の作家の「合コンに行ったらとんでもないことが起こりました」(メディアワークス文庫、590円)。そのタイトルがすべてを言い表しているように、合コンが終わってから間もなく、桜田くんの周辺では不思議なことが次々と起こり始める。

 端的に言えばストーキングで、キスした汐野希さんの段々と吹き上がっていく本気度によって、桜田くんは常に見張られ、脅されるような羽目に陥っていく。おまけに知人の先輩だったと思いこんでいた汐野希さんが、知人の先輩ではなかったことが判明。その女性は合コンには行ってなかったというから驚いた。

 では自分が出合ってキスをした汐野希さんはいったいどこの誰なんだ? 正体の分からない女性から、ぴったりのシャツが贈られ、周辺での出来事が語られ、身の回りが失われる事態の果て、桜田くんにとてつもなくとんでもない事が起こる。

 それを恐怖というなら恐怖かもしれないけれど、なんだかんだ言っても相手はひとめ惚れしてしまう美人で、自分のことを好いてくれているんだから、別に文句はいらないんじゃないか、といった思いがまず募る。別口でも支所の同僚の柏木さんから気にされたりもしている。そんなモテモテな桜田くんがちょっとばかり大変な目にあったって、あまり同乗の気持ちは起こらない。

 もう一緒になっちゃえよ、そのうちに相手も冷静さを取り戻すから。なんて気にすらなるけれど、当人にしては謎めく女性から雁字搦めにされるのは、やっぱり恐ろしい出来事なのだろう。モッタイナイ話ではあるけれど。

 ともあれいったい誰が桜田くんを追いつめているのか、といった謎は謎として残る。そこを探っていくミステリー的な楽しみと、とてつもない事態から桜田くんがどうやって抜け出していくのかという展開への好奇心を、たっぷりと満たしてくれる物語だ。

 そんな結末で本当に大丈夫なのか? 一生がヤバくらなないか? という不安もあるけれど、案外に露見しないものなのかもしれない。それだけ都会は孤独が多い。もちろん、すべてが終わりにはならず、むしろ別のとんでもないことへと向かう道。それすらも一面はモテモテな状況ではあるけれど、幸せになったとは喜ばず、やっぱり女性には慎重に接しようと思わされる物語、ということで。


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