GランDKとダーティ・フェスタ

 女の子ばかりの学校に、男の子が女装して潜入しては、男だとバレそうになるのを必死になってごまかしたり、女の子どうしの恋愛に巻き込まれて戸惑ったりするライトノベルなら結構ある。「脱兎リベンジ」の秀章による「GランDKとダーティ・フェスタ」(ガガガ文庫、611円)は、そんな“男の娘”ものとは少し違って、女子校で開催されるミスコンに、男子校から男の子が堂々と出場するというストーリー。それも絶対の優勝を目指すという展開に、どうやって審査を突破するんだろう? といった興味をかき立てられる。

 はじまりは、野猿峠男子高校(猿男)という男子校に、名門女子校の鈴ノ院女子高等学校(鈴女)から学園祭をいっしょにやらないか、という話が持ち込まれたこと。去年までは、別のエリート男子校が合同開催の相手を務めてきたのが、いろいろと経緯があって、偏差値最低の“Gランク”に位置する猿男に話が回ってた。

 バス停ですれ違っても、まるで相手にされないお嬢様たちとお近づきになれるチャンスと、猿男生たちは大はしゃぎ。そんな騒ぎの中で出た、誰か鈴女のミスコン出ろよという冗談に、花島一茶という生徒(もちろん男子)が手を挙げ、クラスメートたちの支持を集めて出場に向けて動き始める。

 戸惑う鈴女の実行委員を強引に押し切って、一茶の出場を認めさせたところまでは良かったものの、ノリと勢いだけの冗談で、笑いを取れれば良かったはずの男子によるミスコン挑戦が、途中から本気で優勝を目指すプロジェクトへと変わっていく。ミスコンの優勝者に与えられる、アメリカの名門大学に留学できて、上流階級と親密になれるというという利権。これを絶対に手にしたい奥泉静という理事長の娘が、一茶たちにさまざまな妨害を仕掛けて来て、これを打破しようと立ち上がることになったからだ。

 なるほど、男子にしては可愛らしい容貌の一茶だけれど、女装したからといって本当の女子にかなうはずがないし、猿男生だって同じ仲間の一茶を無理に押し上げるよりは、やっぱり鈴女の女子の誰かに投票したいと思うだろう。最初から勝負にならない。そう分かっていながら一茶が本気を出したのは、誰あろう相手が奥泉静だったから。かつて同じ中学に通っていて、ともに成績上位者だった2人の間に生まれたある確執が、一茶にエリート男子高進学への道を断たせ、Gランの猿男に通わざるを得なくさせてしまった。

 もっとも、そんな恨みを晴らそうとして、一茶たちは静かに挑む訳ではないところが、この物語の大切なところ。なぜなら一茶は、すでに猿男に居場所をみつけて、そこに来たことを後悔なんてしていなかったから。最初は荒れていた一茶を、それでも仲間と認めて話しかけ、喜ばせようとした同級生たちがいた。すべての生徒を一茶と会わせ、興味を持ってもらおうとする同級生の熱いお節介に心を開いた一茶は、今では毎日を笑って過ごしていた。

 そんな笑顔の自分とは対照的に、鈴女の誰もきたる学園祭を笑顔で楽しもうとしている感じではなかった。それが一茶たちにはどうしても耐えられなかった。それから、静が優勝候補だった芽衣・クロフォードという女子を陥れて、ミスコンに出場できなくしたことも一茶たちを憤らせた。自分の将来のために、誰かを不幸せにして生きようとするなんて許せない。今を楽しもうとしない人生なんてくだらない。そんな思いから一茶は本気でミスコンに優勝しようと動き出す。

 そこに加わる仲間たちがまた格好いい。決して頭は良くないものの、インテリ眼鏡姿で弁の立つエドに、レスリング部所属で打たれ強いけれど誰も傷つけないマチョ村、寡黙なアイドルオタクのフッティー、そして自分基準の奇抜すぎるファッションセンスを持ったガガ彦と、勉強には縁遠くてもそれ以外に何か取り柄を持った仲間たちのサポートによって、一茶はミスコン優勝という不可能と思われがちなプロジェクトに挑んでいく。静の度重なる妨害を乗り越えて、ミスコンで見事に優勝をつかみ取れるのか? それは読んでのお楽しみということで。

 ここは本当に自分の居場所なんだろうか? そんな悩みを男性も女性も、年輩者でも子供でも、生きてきた中で1度くらいは抱いたことがあるだろう。入試や仕事で失敗したり、体に不具合が出てしまって、希望していたところに行けなくなったり、複雑な人間関係によって、頑張っていた場所から押し出されてしまったり。そんな時、誰でも悔しさから落ち込んで、何もやりたくなくなる。それは仕方がないことだ。

 ただ、自分が本当にやりたかったことは何だったのか、自分は本当にそこに居たかったのかを、改めて問い直してみるのは間違いではない。自分が持っている資質や適性から外れて、夢ばかりを追いかけていたから、壁に当たってしまったのかもしれない。親や教師や上司の期待に応えなければという思いで突っ走ってきたら、それがいつしか自分の思いとすり替わってしまってたのかもしれない。

 そんな人たちにこと「GランDKとダーティ・フェスタ」の物語を読んで欲しい。そして、挫折から自分を発見した一茶や、親の敷いたレールから外れたところで自分のやりたいことを見つけた芽衣の姿に、今一度、自分の本当の居場所を考えてみて欲しい。今を楽しく。そしてずっと楽しく生きていくために。


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