フェアリーランド・クロニクル
銀の剣

 眼鏡っ娘は正しく、小悪魔的でコケティッシュな娘も正しく、12歳頃の美少女も正しいとしたら、そのすべてが重なったキャラクターが登場する小説が正しくないはずがない、という訳で「スーパーダッシュ文庫」からリリースされた嬉野秋彦の「フェアリーランド・クロニクル 銀の剣」(集英社、495円)は、誰からの一切の反論異論を許さないくらいに、正しく楽しい小説なのである、まる。

 ……ちょっと飛ばし過ぎか。けれどもそう思っている人間が、今の世の中に少数派のはずがないだろから、無粋な説明しない。簡単に言えば「フェアリーランド・クロニクル 銀の剣」は、妖精フロリゼルによって育てられ、いずれはフロリゼルに尽くすべく修行の旅の途上にある”妖精の騎士”サイフリートが、異世界からやって来たものの300年前に妖精や魔人らによって沼の底に封じ込められた怪人ゲルグスの復活のための生け贄として、裏切った魔人によってさらわれた美少女を助に行く物語だ。

 魔人にさらわれる美少女で、サイフリートにギュッと捕まってにへらと笑う9歳の美少女ドミナの可愛さ可憐さは最高だし、サイフリートと伴に行動して、歳は結構行っているけど妖精なんで美少女のままなプリムローズの献身ぶりも見ていて嬉しい。愛馬ファウストのとぼけた雰囲気もなかなか。馬でもやれば出来るじゃん、ってところがちゃんと用意されているのも作者の愛情の現れだろう。

 男の頼みは一切聞こうとしないのに、女性の頼みだったら歳によらず何であっても聞き届けようとするフェミニスト、なのか単なるスケベかは置いといて、吟遊詩人のように滑らかな下とたおやかな体躯を持ちながら、騎士サイフリートの剣の腕前は超一流で、魔法のかけられた剣チャルッダーシュを手にとった時の強さは並の人間では相手にならない。

 それでも、相手が魔人の場合は勝手が違うようで、ドミナをさらった魔人シャリオとの戦いでは、幾度となくピンチに陥り生命の危機すら覚えてしまう。復活した怪物ゲルグスとのバトルも控えて、果たしてサイフリートの運命は? 無事修行を終えて妖精フロリゼルとの愛を成就できるのか? といった本筋の面白さで、「フェアリーランド・クロニクル 銀の剣」を語ることはできる。美少年騎士に箱入り美少女にナイスバディな半人前の妖精といったキャラクターの豊富さと、軽さを交えつつも流れるように進む展開だけでも、面白さは十分に感じられる。

 けれども。それらを超越してやっぱり心にグッと来るのは、マニッシュでコケティッシュで小悪魔的な魅力を讃えた美少女ベルルールの存在だ。魔人で黒い翼を生やして空を飛んで性格はなかなかなに辛辣で、米村孝一郎が描くところのイラストでは、ハイレグというのかレオタードというのか、そんな体にピッチリとして小股の切れ上がったコスチュームに身を包み、さらに加えて眼鏡っ娘。そんなベルルールの前では、いかな物語もキャラクターも吹き飛んでしまう。ああ眼鏡っ娘。

 まあ、中には不幸にも眼鏡っ娘に心躍らせられない人がいるかもしれないから、別に見所を紹介するなら、見かけは軽くても芯はしっかりと通っていて、育ててくれた妖精フロリゼルへの思慕と情愛を心に燃やして修行の道を突き進むサイフリートの格好良さ、あるいは9歳ながらもサイフリートに惹かれてしまった美少女ドミナを相手にした、へらへらとはしていても心にシンミリとと来る別れの場面、はたまた因縁の出来てしまった怪人ゲルグスとのこれからや、魔人シャリオとの今後も繰り広げられるだろう争いへの想像で、本筋の部分でも楽しませてくれるから心配ない。

 それでもしつこいようだけど、やっぱり期待はベルルールがこれから後もどれだけ出てきて、どれほど小悪魔的にサイフリートを困らせてくれるのかという部分に、期待の99・995%はかかっていたりするものだから、そこのところは外さないようによろしくお願いしますと作者に向かって敬礼、イラストレーターに向かって最敬礼を捧げよう。裏切ったら許さない。


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