銀河女子中学生ダイアリー(1) お姫様ひろいました。

 中学生の女の子たちが、小型の宇宙船を駆って星々の間を飛び回っては、悪者に追われるお姫さまを救い出す。聞くほどにワクワクとしてくるシチュエーションが、「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」で知られる庄司卓の手で、新しいスペースオペラの物語になった。

 ファミ通文庫から出た「銀河女子中学生ダイアリー(1) お姫様ひろいました。」(ファミ通文庫、600円)は、2087年の未来を舞台に、宇宙を駆けめぐる女子中学生たちの明るくて前向きな日々が綴られる。

 その時代の地球には、エクゥイッドと呼ばれる宇宙船が普及している。2020年ごろに地球とコンタクトした宇宙商人によってもたらされたエクゥイッドは、大気圏外への飛翔はもとより恒星間の超高速飛行すら行える能力を持っていた。

 ただしエクウィッドはボディサイズが自動車くらいしかなくて原則的に2人乗り。宇宙戦艦のように巨大な船が銀河をまたにかけて航行するようには出来ていない。そのため地球では、操縦席に座れる子供がエクゥイッド乗りとして養成されるようになり、宇宙空間を漂う障害物の除去や稀少元素の収集、物資の運搬といった仕事をこなすロガーヘッドとして活躍していた。

 宇宙商人がどうしてもっと巨大な宇宙船を地球に渡そうとしないのかは、想像するに地球が本格的に宇宙へと進出するのを抑えつつ、適度な発展を促すことによって交易を可能にし、利益を独占しようとしているからか。

 もっとも、だからこそ少年少女が宇宙で活躍する目も出てくる。主人公で中学2年生の射白トモエもそんなロガーヘッドを目指しているひとり。同級生の奈多伐サヤカをパートナーに、居住地から取った「姫乃木川三丁目」という名前のエクゥイッドを操り、まずはロガーヘッド技能検定のビギナーズ部門突破を目指して大会に出場する。

 そこに競技とは無関係のエクゥイッドが飛び込んできた。別の船に追われているようで、さらに操縦者が意識を失っているのかアステロイドに激突しそうになっていたそのエクゥイッドを、トモエとサヤカは抜群の操船技術で救出する。そして乗っていたコダチ・ユルンゲルスという少女から、シュリンゲンジーフ王国で政変が起こっていることを聞き出す。

 王位が奪い取られ、王位継承者だったフランツィスカ姫は元宰相のコダチの父親が連れて王国を脱出した。追っ手をかく乱する必要があって、トモエはたったひとりでエクゥイッドを操縦し、地球の方までやって来た。その際に、父親から助けになってくれる存在として聞かされたのが、「東京のヒメノギガワにあるイシロ家」だった。

 まさかの指名にトモエは驚く。どうして遠いシュリンゲンジーフ王国の人間が、自分の家のことを知っていたのか。もしかしたら行方不明になっている父親との関係があるのか。そう感じてトモエは、心配性のサヤカや、トモエの活動を支援する社長令嬢の打出マリカらと、エクゥイッドを駆って遥か彼方の宇宙へと飛び出していく。

 強靱な肉体なり異能なりを持った超絶美形のヒーローが、宇宙をまたにかけて悪と戦い、お姫さまを救い出すようなスペースオペラの物語を、冒険好きで類い希なるロガーヘッドとしての才能を持った女子中学生をヒロインに描いてみせた、ライトノベルならではの新機軸。シュリンゲンジーフ王国の政争を裏で操る存在が、いったい何を目論んでいるのかという謎があり、救出されたフランツィスカ姫をめぐって起こる大騒動への予感もあって、これからの展開が気になる。

 ナンバーワンのエクゥイッド乗りの座を争う少女たちのレースバトルも繰り広げられそう。そんな諸々の楽しみを味わうためにも、まずはシリーズ開幕となるこの巻を手に取り読んで、面白さを喧伝しては続きの刊行を訴えよう。


積ん読パラダイスへ戻る