ダーティペアの大復活

 惑星オフィーリアにある「聖エルモ学園」で起こった謎の女生徒発病事件。その背後にあった銀河系をゆるがす真相を解明し、相変わらず山ほどの被害を出しながらも事件を解決したものの、ユリとケイの「ラブリーエンゼル」こと「ダーティペア」は絶体絶命のピンチに陥って、シューターで宇宙へと出て冷凍睡眠に入る。詳細は高千穂遙「ダーティーペアの大脱走」(早川書房)で。

 それから果たして幾年月が経ったのか。ケイが目覚めるとそこは300万年後の太陽系で、近づく地球には街の明かりで「オカエリナサイ」と描かれ、涙の中に感動のフィナーレを迎えることになった……訳では決してない。久々の復活となった「ダーティーペアの大復活」(早川書房、1260円)で目覚めたケイが見たのはどこかの天井。素っ裸で寝かされていた彼女は、「ダーティペア」を組んでいるコンビのユリと再会し、クァールという宇宙生物のムギとも再会を果たす。

 そこで2人と1匹を待っていたのは、自分を人間そっくりのバイオボーグというフローラという名の美少女だった。フローラによるとユリとケイが眠っている間に宇宙は一種のカタストロフを経ていて、人類はとてつもなく大変な事態に陥っているという。同じ人類としてこれは捨て置けない、というより他にすることもなくとりあえずやるしかないと、フローラの頼みを引き受けたダーティーペア。いつもながらのとてつもない暴れっぷりでもって立ちふさがる敵を退け突き進む。

 そこで現れたのは、ロングヘアーですました顔のユリの内面にこれまで隠されていた趣味。「巨大ロボットくらい、かっこいい戦闘兵器はほかにないわ。これに較べたら、戦艦や戦車、宇宙戦闘機なんて、子供のおもちゃよ」。そのとおり。「アバランチミサーーーイル」「ジェノサイドビーーーーム!」。圧倒的。そんなユリの趣味というより本性が、2人を窮地から救い出したのみならず、人類に迫っていた危機も退け爆発する。相変わらず大いなる被害は出たけれど。

 なるほど地球や地球型の惑星だったら難しかったかもしれない設定だが、そこを巧みな舞台設定を持ち込むことによって、現実的な可能性を持ったものにしている辺りは、かつて「ガンダム」のSF性について、激しい論議を繰り広げた高千穂遙ならではの配慮。ユリとケイが人類の危機を危機だと信じるに足りた条件設定も、アバウトなようでちゃんと考え抜かれてあって、破天荒にして驚天動地の物語を、しっかりと骨の通ったものにしている。

 和製スペースオペラの元祖にして、いわゆるライトノベルのルーツでもある「クラッシャージョウ」を送り出した人だけあって、読ませる巧みさも一級品。なにしろ生まれて25年近くが経つ「ダーティペア」。にも関わらず未だにまるで古びておらず、会話もアクションも実に生き生きとしたものに見えている。髪型にファッションはちょっぴり時代を感じさせるけど、まあ許容範囲と言えるだろう。

 昨今流行りの「ふたりはプリキュア」が誕生できたのも、性格や見栄えの少し違った2人の美少女ペアがチームを組んでバトルを繰り広げるという、「ダーティペア」に端を発するキャラクター設定があったから。ライトノベルの元祖でありまたアニメーションにも影響を与えた作品の完全復活をここに祝いつつ、これからも元祖にして最先端としての存在感を、存分に発揮していって欲しいと切に願う。続く展開に期待だ。今回があれなら次回は「魔法少女もの」? とても読みたい。


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