どか食いダイスキ!もちづきさん1

 劇薬だ。毒薬とすら言える。読めば確実に胃をやられ、健康をやられて苦悶から堕獄へと至る魔導の書。けれども一方で、読めば確実に胃を満たされ心を潤わされて至福から昇天へと至る福音の書でもある。いずれにしても命に関わることは変わりがないけれど。

 まるよのかもめ『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』(白泉社)は、ただひたすらにドカ食いをする望月さんという女性のストーリーだ。分厚い弁当箱から鳥照りを乗せたご飯をくらい大盛りのカップ焼きそばにマヨネーズをぶっかけそれをふたつもくらい四合飯に具材をぶち込んで炊き上げたものにオムレツを載せてオムライスにしてくらいといった具合に、どれも見れば美味しそうと感じつつ、お腹がはち切れそうといった鑑賞へと至って胃のあたりが重くなる。

 表示される異次元のカロリーが食べたらヤバいと見る人の脳に警告をもたらす。けれどもそうした警告をまるで聞かずに、望月さんはひたすらドカ食いを続ける。明日が健康診断という日も我慢できずに冷蔵庫に入った同僚たちの弁当やバナナやプリンを食べてしまうから凄まじい。

 もちろん普段より少ない量によく我慢したとは言える。言えるけれども日頃の不摂生ぶりが一食の制限で改善するはずもなく、健康診断では危険な数字が出てこれは痩せねばとランニング等に興じる。そして食べてしまう。鶏肉はヘルシーで玄米も健康に良く菜種油は植物性でウーロン茶は脂肪を減らすと言われているから、どれだけ食べても飲んでも大丈夫。そんな理論を独自に組み立て実践していく望月さんの姿に誰もがおののきつつ、けれども惹かれてしまうのだ。

 あるいは欲望に弱い人間の愚かさを見せようとしているのかもしれない。それとも煩悩に導かれてこそ人間らしい生き生きといた生活が送れるのだという誘いかもしれない。判断は読んだ人に委ねられた。見て自分への言い訳をそこから見つけるも良し。やがて健康へと影響を及ぼし始める展開を知って悔いるも良し。読んでこそ分かる何が確実にあるマンガだ。 


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