メサイア・クライベイビィ 救世主はよく泣く

 宇宙開闢以来の最強は誰かと聞かれて、それは聖悠紀が生み出した超能力者の超人ロックだと即答するにやぶさかではない種類の人間だけれど、もしかしたらそんな超人ロックに対抗できる超能力者が、いよいよ登場したかもしれない。

 童貞にして最強の少年武侠が宇宙を飛び回って戦う姿を描いた「覇道鋼鉄テッカイオー」(集英社スーパーダッシュ文庫)のシリーズを脇において、八針来夏が新たに興した新シリーズ「メサイア・クライベイビィ 〜救世主はよく泣く〜」(集英社スーパーダッシュ文庫、620円)に登場する、ヒノ=セレスという少年が繰り出す能力がとにかく半端ない。

 その能力は、いつから生きているのか分からず、数々の星を救い数々の悪を退けながら、絶対に倒されることなく存在し続けている超人ロックですら、まだ見せたことのないようなド迫力。果たして実行可能かどうかということはこの際関係ない。やってしまえると仮定して、いったいどれだけのパワーを発揮し、同時にどれだけの損害を人類の生存権に及ぼすことになるのかと想像してみたくなる。

 犯罪者ばかりが収容されている惑星に、レイコ=カタナシという少女型の機会生命体を伴ってやってきたバリルという名の老人は、とある惑星に栄えていた王国の王家に仕えていたものの、銀河を侵略して配下に加えてきた帝国によって王家は滅ぼされ、姫だったリューン=サデュアルは慕う仲間を集めたレジスタンスへと身を投じていた中で、そうした戦いから身を遠ざけ、犯罪者収容惑星にいるひとりの少年を捜していた。

 ヒノ=セレス。エネルギー源となる鉱石が豊富に埋蔵されている反面、鉱石から出る放射線の影響で生身では3年と生きられないその星で、ヒノ=セレスは母親から産まれ落ち、犯罪者ばかりの中を生き延び、そして放射線の影響も受けずに命をつないで成長した。どうして幼い子供が食料すら殺して奪うような星で生き延びることができたのか。実はヒノ=セレスは生まれながらひとつの能力を持っていた。

 それが重力制御の力。実はバレル老人も同じ力の結構な持ち主ではあったものの、ヒノ=セレスはそれをはるかに上回る潜在能力の持ち主だったようで、バレル老人は3年半の余命を使って彼に重力制御能力の扱い方を教え、銀河を侵略する帝国を倒し敵だったはずの帝国の尖兵となっているリューン=サデュアルの姉を助けてくれるようにと頼んで世を去る。

 ずっとひとりぼっちで生きて来たヒノ=セレスにとって、バレル老人やレイコ=カタナシは初めてできた自分に関心を向けて慈しんでさえくれる存在たち。いっしょに暮らすうちに誰かを殺して食料を得ることが普通だった生き方を変えて、バレル老人の遺言を受け入れてリューン=サデュアルが率いるレジスタンスへと身を投じることを決意する。

 やがて収容所に送り込まれてきたリューン=サデュアルと出会い、彼女を連れてきた帝国側の戦力との戦闘を経てレジスタンスに合流したヒノ=セレスは、圧倒的な力を見せて迫るリューン=サデュアルの姉、リザ=サデュアルと彼女を操る帝国の支配侯と対峙する。

 そして見せたその力のすさまじさ。スケールアップが多々あるSFワールドでも、これだけの化け物じみた力はちょっとない。読めば超人ロックすら上回るかもしれないと誰もが思うだろう。とはいえ化け物と言われることに怯えていたヒノ=セレスにとって、そうした力を発揮することで仲間を失う恐怖もあった。それでもリューン=サデュアルたちを守る道を選んだ理由とは。仲間を得てそのために戦う意味とは。いろいろと考えさせてくれるSFアクションだ。

 レイコ=カタナシという機械生命体がどうやって産まれ、そして人類から恐れられる存在になり、そして帝国の支配侯たちを完全に滅ぼそうと画策しては、ヒノ=セレスを見方に引き入れようとしたのか、謎めいた生態を持ち、宇宙を侵略し続ける帝国の支配侯たちは何を目的にしているのかか等々、気になる設定もちりばめられていてこからの展開が楽しみ。銀河くらいぶっ壊してしまうかもしれない。

 おまけ。機械生命体の胸が小さいのはなぜなのか。自在に大きくだってできるのに。それが造物主たる人間の好みなのか、人間を超える存在を認めないという意志の現れなのか。これも気になる設定だ。レイコ=カタナシも気になるだろう、リューン=サデュアルの巨大過ぎる胸を目の当たりにしては。その胸にヒノ=セレスがめろめろになってしまう様を見ては。


積ん読パラダイスへ戻る