コール・オブ・メディック

 はぐれ者たちが実は一芸に秀でた当千の戦士たちで、エリート集団からは普段は小ばかにされ、虐げられいながらも、気にせず飄々と任務をこなしていたらエリート集団がより強大な相手に見えて危地に陥り、そこに駆けつけ当千の力を露わにし、あっさりと敵を片付け見方を勝利に導くといったシチュエーションが、過去にまったくなかった訳じゃないし、むしろエンターテインメントでは定番にすらなっていたりする。

 そんなカテゴリーに新たに作品を送り出すことを、無謀な後追いと見るかというと、それでもやっぱり面白いと読んでしまうだろう。それは、自分はエリートにはなれなくても、何者かにはなれそうだといった期待を身に感じさせてくれるから。最初から最後までエリートで居続けた方が絶対に得ではあるのだけれど、それが出来れば人間、生きるのに苦労はしないのだ。

 「対魔導学園35試験小隊」の柳実冬貴による新シリーズ「コール・オブ・メディック」(ファンタジア文庫、650円)も、まさしくそのような構図を持った物語。王国には「星」と呼ばれる規格外の魔法の力を持った存在がいて、海の向こうからやってきて王国を侵略しようとする鋼国を相手に戦い、守り退けてもいた。

 ところが、第五元素兵器なる時に強大なパワーを持った敵が現れ、「星」ですらかなわない状況が訪れる場合もあった。そんな時、普段から貴重にして重大戦力の「星」を守っている大隊とは別に、あらゆる犠牲をはらっても「星」だけは生還させる部隊があった。星守部隊という名称だけれど、多くは夜逃げ部隊と呼んでいた。なぜなら大隊が全滅するのも厭わず、「星」だけを助けて逃げ出していたから。

 ガルガンチュアとも呼ばれる星守部隊のメンバーは、魔導士としては決して高い地位にはなかった。だから周囲から見下されてもいた。けれども、それぞれが突出した力を持っていた。治療の力だけはすごいレヴィとか、強烈なドラッグを生成できるフローラとか、物体をとてつもない重さにできるレディとか、どれだけの攻撃も跳ね返すメディックとか、さまざまな物を作り出すアーサリーとか。

 そうした突出部分が組み合わさり、また最適な時に使われれば最強となり得るらしく、ガルガンチュアの面々は危地にあった少女で新米の「星」、リリスを戦場から助けて連れ帰る。緊張感と悲壮感に満ちた戦場で、飄々として異能を振るい強敵を退けリリスを救い出すガルガンチュアの戦いぶりが圧巻だ。  これでどうしてエリート部隊になれないか。偏りを認めない風潮をいぶかしみつつ、それぞれに突出した異能が組み合わさってこその集団力を味わいたい。ガルガンチュアが駆けつけた最前線ではリリスを守っていた大隊は全滅し、心痛めるリリスだったけれど、メディックたちの中にいて自分を取り戻し、まだだった「星」としてのお披露目会に臨んだところ、そこに鋼国が襲ってきた。

 そんな戦いが幾度となく繰り返されるいちに、メディックが持つとてつもない力が見えてくる。かつてひとりの「星」によって守られたことがあるメディックは、その「星」が戦死した際に不思議な力を授かった。もっともだからといって「星」とは言えない曖昧な立場にメディックはいる。その力も万能に見えて万能ではなく、とてつもない代償をメディックに要求する。「魔法科高校の劣等生」で司波達也が振るう能力の価値と代償に似ていなくもない。

 そんなメディックを筆頭に、彼の傘下でしか有効さを発揮できないようなガルガンチュアのメンバーが、いつまでも生き残っては王国を守り続けられるのか。最高戦力の「七星」たちを温存して、並の、といっても能力は一般人など比べものにならないくらい高い「星」たちをすり減らしてでも鋼国に抗おうとする王国の戦略は正しいのか。そこまでやって生き残れるか危うい鋼国との戦いの向こうに平和はあるのか。気になるところは多い。
R  圧倒的な力を持っていたはずの「七星」のひとりですら消し去った、第五元素兵器の攻撃を跳ね返したメディックの突出した異能は、彼をして「星」のなりそこないから救世主へと押し上げるのか。そうしたガラでもなさそうなところはあるものの、守る者が出来たら少しは変わるかもしれない。何しろ「星」であるリリスがガルガンチュアに入って来た。上司であって不思議のない存在が部下になる。その意味は? 続く展開を待つしかない。王国の行方も含めて見守っていこう。


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