カラミティナイト
Calamity Knight

 友達はいない。いや1人いる。いるけれど心の中では本当に友達なんだろうかと心配している。もしかしたらある日突然、嘘だよ、あなたなんて大嫌いだよと言って笑いながら走り去っていくかもしれない。いじめられっ子だった自分に、ただひたすらにダメージを与えるために友達のふりをしていただけなのかもしれない。それが怖くて脅えている。心の本音をさらけだせずに笑顔の仮面を被っている。

 そして信じている。運命の訪れを待っている。曲がり角でぶつかる彼あるいは彼女。見つめる目と目。触れ合う手と手。心が通じ合う。愛が芽生える。そんな運命を待っている。自分の意志じゃない。意志なんてものを表に出せるほど自分は立派じゃないと思っている。本当は違う。意志を見せて拒絶されるのが怖いだけ。けれどもそんなことは認めない。運命。だから従う。曲がり角で誰にもぶつからなくても、ぶつかった相手から叱られても、それは自分の意志じゃない、運命が決めたことなんだとあきらめる。そうやって自分をかばっている。

 本当の自分はもっと強いはずだ。才能に満ちあふれているはずだ。自信はある。あると思う。思うけどそれが否定されるのが怖くて言い出せずにいる。ただ1カ所、ネットの中でだけは自分を王子さまのように、お姫さまのように感じていられる。言葉を書く。公開する。見てもらう。賞賛される。才能があるんだ。それを認めてくれる人がいるんだと悦にいる。<それもまた運命。運命なんだから、認められなくても仕方がない。運命なんだから、拒絶されても自分は自分でいられる。そう思いたがっている。

 けれどもそれは全部自分。自分自身が引き起こし、呼び込み、招きもたらしたことなのだ。運命なんてものはない。たとえあったとしても、それは自分でどうにだってできる。前に進むことも、後ろに下がることも、自分が決めて自分が行えば悔いはない。迷ってもいい。けれども答えは自分で見つけよう。残酷な事件を経験し、運命らしき他律的な思惑に魅入られ翻弄された少女が、そんな自覚へと到る道を探してもがく物語。それが高瀬彼方の「カラミティナイト」(角川春樹事務所、800円)だ。

 中学時代の虐められた記憶をかかえて進学した高校で、智美はようやく優子という自分を慕ってくれる友達を得る。メールを交換し合い、チャットで会話し登下校も時間があえば一緒にする友達。嬉しいと思いつつ、過去の記憶を引きずっているせいか、智美にはどこかやっぱり付き合いに慎重なところがある。本音をさらけ出しているようで、優子がいつか怒り出さないか、やがて離れて行ってしまわないかと脅えている。

 それでもとりあえずはうまくいっていた2人を、嵐のような事件が襲う。きっかけは休学の後に留年によって智美のクラスに忍という男子生徒が編入してきたことだった。聞けば心臓を患い、長く入院した上に、父母や弟を事故で亡くして天涯孤独の身の上とか。どこか影のある彼にクラスの誰もが寄りつかなかったある日。智美は忍がロジャー・ゼラズニィの「光の王」を読み、中井英夫の「虚無への供物」を読み綾辻行人や京極夏彦や小野不由美を読む本好きだと知って親近感を覚える。

 急速に親しくなっていく2人。彼を守りたいとまで思うようになる智美。もしかしてこれって恋? だが違った。それは運命だった。彼の回りで死んでいった4人を見舞ったものと同じ、血塗られた道へと続くまがまがしい運命だった。運命に導かれるように智美は騎士になる。ネットに発表し、好評だったと思っていたにも関わらず、心ない人によって完膚無きまでに否定されたファンタジー小説の主人公になりかわって、忍を謎めいた敵から守る戦士となって剣を取る。

 友人を巻き込み、同級生を巻き込んでふくらんでいく血に彩られた運命の輪の中で智美はもがく。信じていた、信じてもらいたいと願っていた優子に手ひどい傷を追わされて、運命の残酷さを知る。そんな悲惨な体験の中から、運命だから諦められるんじゃなく、自分の意志だからあきらめられるし、喜びもできるんだということを、果たして智美は気づくことができたのだろうか。答えは「カラミティナイト」の中にある。ある、と思う。

 物語は先へと続く。忍が巻き込まれた運命は運命として転がり続ける。そこに関わる智美の行動は何者かによって引っ張られた、心に逃げ道の用意された運命なのか、心のままに突き進み、喜びでも後悔でもともに自分の糧とできる意志によるものなのか。実は正直分からない。強力過ぎる運命が運命すらも意志と思わせているのかもしれない。けれども信じたい。意志なのだと思いたい。動き出す力。ひるまない勇気。それは意志によってしか得られない。運命にあきらめめるのではなく、意志によって進む素晴らしさを「カラミティナイト」の物語から読者が得ることを、高瀬彼方は願っているのだと信じて、次巻の登場を待とう。答えはそこにある。絶対に、ある。


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