戦闘国家の饗宴
ヴァルハラの戦姫 英雄光臨

 日本のビール会社に務める冴えない風貌の企業戦士が、中東らしきイスラム原理主義の国へと赴き、ゲリラに襲撃されて死んだところを、戦士を集めに世界中を飛び回る戦乙女のワルキューレに導かれ、ヴァルハラに蘇って来るべきラグナロクに備え戦士となる。という吉岡平の「ヴァルハラ・コネクション」(朝日ソノラマ)という傑作があって、続きが読みたいと願いつつも果たされないまま、シリーズ自体がラグナロクへと向かおうとしている今。

 ここに期待を込めて立ち上がったのは、第二次世界大戦時に活躍したドイツの戦車乗りたちがヴァルハラに蘇り、その経験と能力を生かして緻密で激しい戦車戦を繰り広げるという話。それも誰もが美女に美少女という姿で。いったいどういう話なんだだ? と問うなら深闇文貴の「戦闘国家の饗宴 ヴァルハラの戦姫 英雄降臨」(KKベストセラーズ、895円)を手に取り見るが良い。

 その表紙。「愛の嵐」のシャーロット・ランプリングもかくやと思わせる、露出の激しい軍服を着た半裸の少女が描かれていて、口絵にもイラストにもそんな美少女たちが目白押し。なるほど美少女たちの饗宴が描かれた物語だと、見れば誰もがすぐ分かる。

 さらに、中身はいたって真面目、というより戦記シミュレーションを中心にしたレーベルから刊行されている本だけのことはあって、往事のスペックや戦術を踏まえた戦車戦が細かに描写されていて、性能差から戦術の妙までが織り込まれた戦いぶりを、手に汗を握りながら楽しめる。

 なおかつ戦うのは美少女。みんな美少女。ヒトラーだってスターリンだって美少女なのが、面白いというか可愛らしいというか。どうやらヴァルハラに転生した戦車乗りたちが戦っているのは、いずれもヴァルハラではない所に転生しては、世界征服の野望を成し遂げようとアドルフならぬアドルフィーネ・ヒトラーと、スターリンならぬスターリナらしい。

 小男だったアドルフが小柄でキュートなアドルフィーネとなり、恰幅の良かったスターリンはナイスバディなスターリナとなってお姉さま然とアドルフィーネをわきに侍らせる。そしてアドルフィーネは犬となったボルマン、スターリナは豚となったベリアをペットに指揮を取り、世界を席巻しようとヴァルハラを相手に戦線を広げる。

 迎えるは武装親衛隊「ライプシュタンダルテ・SS・アドルフ・ヒトラー」に所属し、戦車138両、対戦車砲132門を撃破したミヒャエル・ヴィットマン大尉。もちろん今は美少女姿に転生しては、ミカエラ・ヴィットマンと名乗り、やや小振りなバストを胸に下げ、背中に白い羽を生やした姿となって、ティーガーを駆り戦場へと舞い戻る。

 おお、この設定。おお、このストーリー。おお、このビジュアル。すべてが揃った完璧なまでの物語。面白くない訳がない。

 ドイツの戦車隊が繰り広げた、ある時は電撃的に敵を蹂躙し、ある時は多勢に無勢の中を戦術と勇気で切り抜けた戦いの歴史を、知識として知っていればなお面白い物語。もちろんそれらを知らなくても、描かれるヴァルハラ転生後の戦いを読めばそのスリル、その興奮は伝わってくる。

 ガソリンはなくとも何かエネルギーを使っているため燃料切れを起こすこともあり、攻撃されれば破壊されて乗員も活動を停止する戦車戦。ヴァルハラといえども戦いはシビアで残酷だ。

 一方では、すべて歴史に実在していた青年だったり壮年だったり老人だったり、長身だったり肥満だったりする将軍に将校に兵士といった軍人たちが、いずれもそろって見目麗しい美少女に美女の姿となって蘇っては、女子校的な雰囲気を醸しだし、戯れ合い語り合う。微妙で愉快。それでもいざ戦争となれば、かつての能力をそのまま受け継ぎバトルする。流石は名高い軍人たち。幾重にも重なる楽しみどころを持った物語だと言えるだろう。

 エーリッヒならぬエーリカ・フォン・マンシュタイン元帥も、ハインツならぬハインリーケ・グデーリアンも、そして米軍にこの人ありと恐れられたパットンまでもが美女となり、美少女となって妖艶に微笑み豪快に笑って指揮し戦うその壮麗さ。これこそが天上の戦姫たちによる饗宴なのだと思わせてくれる。なおかつ野上武志の描くイラストが、どれもこれも可愛らしいし美しい。アドルフィーネもスターリナすらも可愛いのだ。

 その可愛さを是非に更に拝ませて欲しいという願いを、作者は果たしてかなえてくれるのか。表では仲むつまじそうにしながらも、それぞれが腹に一物持って接し合うアドルフィーネにスターリナの関係はどうなるのか。2人がこれからめぐらせる計略に、ミヒャエルならぬミカエラはどう立ち向かうのか。

 「ヴァルハラ・コネクション」の途絶えている今、こちらは続きを是非に読ませて欲しいし、なにより拝ませて欲しいものだ、その姿態を、とくに手に余るほどには大きくなく、手のひらに納めやすくて揉み心地が良いと誰もが言って触れる、ミカエラ・ヴィットマン大尉のその胸を。


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