Barrage Rei Hiroe Artworks

 もう何年も前から浮かんでは脳裏から離れない疑問というものがある。それは、広江礼威の漫画作品「BLACK LAGOON」(小学館)に登場する二挺拳銃の女ガンマン、人呼んでトゥー・ハンドことレヴィが果たして“履いているのか”ということだ。あと“着けているのか”ということも。

 漫画でだって確かめようと思えば可能かもしれないことながら、小さく割られたコマからでは幽かに伺い知るくらいしかできないし、アニメーションの場合は激しい動きこそあれ細かい所までは描かれていないため確かめようがない。

 だから、当の広江礼威による過去のカラーイラストを集め、単行本より大きく雑誌すら上回るサイズで刊行したアートワーク集「Barrage」(小学館、2000円)を読むことによって初めて、ほぼ確実な線を感じ取ることができた。

 少なくとも上は着けてない。それが証拠に「月刊サンデーGX」の表紙であるとか、「BLACK LAGOON」の単行本の表紙に向けて描かれたレヴィは、タンクトップから肩ひもがのぞいていないし、前は前で盛り上がったふたつの山の先に、それぞれ突起が布を通してのぞいている。あれでよくもまあ派手なアクションが出来るもんだと感心せずにはいられない。

 もっともそこはそれ。質感までリアルに描かれたイラストから考察するに、重たい2挺のソードカトラスをさばけるだけの背筋に大胸筋が、かたまりとなった脂肪のふもとをしっかりと支えて上下左右への揺れを抑え、加えて2挺のソードカトラスを差すストラップが、襷(たすき)のように両脇から引っ張って、2つの山をしっかりと支えているのだろう。絵がリアルだからこそ、そして大きく印刷されているからこそ、分かることがたくさんある。

 下を履いているかについては、暑さに茹だる下宿をロックが訪ね、ダッチが呼んでいるとレヴィを起こした場面がカラーで採録されていて、それを見れば寝る時には可愛らしさとは無縁ではあるものの、シンプルなデザインのものをしっかりと履いている様が、色調も鮮やかに眼に飛び込んでくるから一目瞭然だ。

 ただ、それでもその上からコスチュームとなっているV字に深くカットされたジーンズを履いたとしたら、銃を撃ったり踏ん張ったりする際に、大きく足を広げるレヴィのことだけに、隙間からちらりと端が覗いたって不思議ではない。けれどもこれまでのストーリーの中で、ジーンズの下からのぞいたという場面を見た記憶はない。

 だからあるいはカットジーンズを履く際には、その下に何も着けないことをレヴィがポリシーにしていたりする可能性もないでもない。広江礼威が自ら「ベスト・オブ・ケツ」と評する、「月刊サンデーGX」の2003年1月号に表紙として寄せられ、「Barrage」には5ページに収録されている、レヴィが後ろ向きでしゃがんでいるイラストを見ればそれも想像が可能だ。

 丸みを帯びたヒップをかろうじて押さえているカットジーンズの端に、チラリとものぞいていない。履いていなくたって不思議ではない。布地の固めなジーンズだから、デリケートな場所に接してこすれたりしてはいないかという心配も浮かばないけれど、寄せられているイラストのほとんどでレヴィは、同じカットジーンズをはき続けている。暑さに吹き出る汗も染み込み、体にフィットするくらいに柔らかくなっているのだろう。さぞや香しいに違いない。

 ほかにも判明することが「Barrage」には数々あって、「BLACK LAGOON」が本当は「ブラック・ラグーン いけないマングローブ」という百合コミックで「ロアナプラ女学園に通う乱暴娘のレベッカは、世界寿のスパイ組織から狙われているロシアの留学生バラライカをガードすることに。しかし二人の間にはいつしか恋心が芽生え……。禁断のハートウォーミング・バイオレンス・コメディ!!」だったという衝撃的な事実がその単行本の表紙絵ともども明らかにされていて、あの血なまぐさい出来事の数々はおそらく平和な女学園で2人が見た妄想に過ぎないんだと分る。これは驚き。そんな訳はない。

 「BLACK LAGOON」以外にも「翡翠峡奇譚」や「SHOOK UP!」といった作品から「特命転校生」などに寄せたイラストからその他数々の仕事もまとめて治められていて、それぞれについて新たに判明することも多いのだけれどそれはそれぞれが読んで確認して欲しい。ひとつ、単行本には収録されていなかった、悪魔の誘いに乗った少女が犯す罪を罰しにあらわれる女拳銃使(ガンスリンガー)いを描いた中編漫画「Phantom BULLET」はこれが初見という人も多いだけに、細部の再発見というより全体の発見、そして「BLACK LAGOON」を目前にして熱量を上げていた広江アクションの発現を、そこに見ることができるだろう。

 ひとつ言うなら“拳銃使い(ガンスリンガー)”は履いているのだろうか。履いていないのだとしたらアクションの際に見せる縁に鋲のうたれたあれがそれなのか。ちなみに着けてはいなかった。さらけだされているからだ。その大きさはレヴィ以上。それでいてレヴィに負けない銃さばきを見せているところから類推するに、やはりレヴィも着けず筋肉と衣装で押さえて戦っているのだろう。なるほど分かることは数知れない。だから広江ファンの誰もが絶対に読むべきだ。


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